6 淋しいのはお前だけじゃない


 1


 問答無用に、早急に、ルナローブを鎮圧する。


「っ…! こいつ!」

 立てた誓いは脆く、早くも危ういものとなっていた。

 そうしたいのは山々なのだが、如何せん桜庭の精神状態がすでに暴走のピークを迎え、ひたすら苦戦を強いられているジェイド。距離を取れども途切れることのない針の連射、間合いを詰めようものならば力任せの肉弾攻撃。衝動に任せて浴びせられる猛攻に、ジェイドは依然として守りに徹するほかない状況が続いていた。

《まだ焦る必要はありませんが、着々と損傷率が上昇しています。形勢をこちら側に戻さないと南城さんも危ないです!》

「一応…わかっては…! いるんだけどさ…!」

 根室からの憂慮をありがたく受け取りつつ、しかしこの状況を打破する策は見当たらない。このままもうしばらく泳がせ続けて、あちらの消耗を待つか?

 いや、避難が完了しているとはいえ、市民やメディアの目は必ずどこかからこの戦いを見ている。いつになるかもわからない疲弊の時を待って、そのために周辺被害が拡大したら…? 見栄とか世間体とかって割合もまあゼロではないが、なにより仲間やステラを信じて応援してくれている人々に申し訳が立たないという気持ちが大きい。その選択肢は無しだ。

 ならば、打つ手はひとつ——

「杏樹さん! 事態の早期収拾を優先して、フルブラストモードを使います! 承認を!」

《南城くん…!?》

《杏樹さん、心配はいりませんよ。チューンナップは完了してます》

《でしたら…わかりました。フルブラストモードを承認します》

 葛飾に促され、杏樹は申請を承認。なおも打ちつける針の雨に、ジェイドは両腕を眼前に構え、SSジェイドグリップを盾代わりにして態勢を整える。間合いやリズムを窺い、ひと呼吸ののち、ジェイドは発声した。

「サイクロン・スカッシュ!」

 南城の声に反応し、間もなくジェイドの全身を覆うパーツが変形・展開を開始。耳鳴りにもよく似た、鋭くも微かな起動音が各部から漏れ始める。

「おお…姿も変わるんだな…」

 ジェイドは瞬く間に、風を切るような流麗かつ鋭利なシルエットへと変貌。防御姿勢を取ったままだが、盾代わりになっていたSSジェイドグリップも攻撃を跳ね返しながら展開し、よりアグレッシブなフォルムへと変わった。

 変形シークエンスが完了したことを察し、ジェイドは盾代わりにしていた両腕を思い切り両脇へ広げる。その勢いが衝撃波を生み、迫り来る針とその主である桜庭を丸ごと吹き飛ばした。

「葛飾さん、これ…すごいっす。行ける気がします」

《ほほーう。ではお手並み拝見と行きましょうか》

 晴れて、ジェイドはフルブラストモードに移行を完了。くるりと桜庭に向き直ると、全身の筋肉をほぐし、弾むようにファイティングポーズを取り直した。

「はあん…?」

「仕切り直しだ、先生」

「お前より…俺の方が…動く‼︎」

 性懲りも無く、再度同じ針攻撃を浴びせんとする桜庭。

 そうなるだろう。それはわかっていた。その上でジェイドの目的は、攻撃の隙を縫い、お得意の手を封じる一撃を叩き込むこと。そのために、機動力の圧倒的なブーストアップが必要だった。

『SSジェイドブレードにエネルギーを集めつつ、全身機動力を最大限まで引き上げることができます』

 全身機動力の向上——まさに、この時を待っていたかのような機能だ。南城は葛飾の言葉を忘れてはいなかった。南城もこの機能が”いわゆる必殺技的である”とは聞いていたが、本当に単なるとどめの一撃程度の短絡的な理解でしかなければ、使うタイミングを見誤っていたかもしれない。

「あんたのやり方は、もうだいたいわかった!」

 短絡的。そうだ。桜庭の暴れようは、理性的な判断能力を失くした、感情の暴走を起爆剤とするがむしゃらさ。しかしそれゆえに行動パターンは単純化し、完全ではないがおおよその挙動を予測することが、今のジェイドにとっては可能となっていた。

 針の雨の隙間を縫い、距離を詰めたところで、ジェイドは桜庭の真横を掻い潜るかのごとくスライディング。バーニア噴射で摩擦を回避しつつ身体を支え、SSジェイドブレードを片手に握り——片手で刀身を支え、狙いを定めて射撃ユニットに真横から斬り込んだ。

「うおぁ!?」

「決まった!」

 その勢いのままジェイドは5メートルほどアスファルトを滑り、片腕を支点にターン。膝立ち姿勢で向き直ると、すぐさま両肩の小型マグナムを発砲した。

 斬撃と銃撃の勢いに押され膝を屈した桜庭は、右腕から火花と黒煙をあげている。これでもう、得意の針攻撃は繰り出せまい。

「さあーて…好き放題やってくれたな。今度はこっちの番だ!」

 声を張り、桜庭にそう布告すると、ジェイドの全身が再び輝き始める。高出力化したエネルギーがくまなく行き渡り、全身のパフォーマンスが急上昇している証だ。SSジェイドブレードを構え、両脚をしっかりと地に据える。その右脚でひと息に大地を蹴り込めば、驚異的な速度で接近し桜庭のスーツを破壊できる——

「やめて‼︎」

 ——はずだった。

 背後から不意に飛び込んだ一声により、ジェイドの猛烈なスタートダッシュは中断された。

「…え?」

 ジェイドの後ろにいるらしきその声の主を見てなのか、桜庭も硬直している。振り返ると、後方少し遠く、そこにいたのは数名の高校生たちだった。全員汗まみれで、息を切らしている。おおかた避難指示や制止を振り解いて無理矢理ここまで駆けつけたのだろう。

「先生を…傷つけないでください!」

「桜庭先生は、本当はこんなことする人じゃないんです!」

 彼らの叫びと、桜庭の反応からして、どうやら彼らは桜庭に教えを乞うていた弓道部の生徒らしい。SSジェイドブレードを見て、ジェイドが桜庭を生身までも傷つけてしまうと思ったのだろう。

「うっ…ううっ…⁉︎」

 耳に馴染んだ生徒たちの声を聞いて、桜庭は頭を抱えながら悶え苦しみ始める。ジェイドは今だとばかりにひと跳びし、バーニア噴射で生徒たちのもとへ近づいた。もちろん、本来たった今桜庭への接近で発揮しようとしていたほどの強烈な跳躍力ではないながら、宇宙飛行士さながらのSFチックなアクションに生徒たちはやや驚愕したらしかった。が、鋭い剣を持つ全身防備の武装者を前に、生徒たちは毅然とした表情を取り戻す。

「……みんな、大丈夫。先生のことは絶対に傷つけない。先生がまたみんなと笑って会えるように、あの危険なIPSuMを脱がすんだ。見ててくれるかな」

 得体の知れない鋼の仮面から発せられたのは、極めて穏やかな男性の声だった。生徒たちはその眼に涙を浮かべつつ、歯を食いしばって各々に頷く。

「お願いします……桜庭先生は、みんなを引っ張って、導いてくれた、俺たちのヒーローなんです‼︎」

 男子生徒は感極まり、自身でもそれほどのつもりはなかったというほどに声を張った。

 ヒーロー、か。

「…それじゃあ、俺も負けてられないな」

 マスクの奥でじわりと口角を上げ、ジェイドは桜庭に向き直った。

「聞いたかよ、先生。あんたの気持ちもよくわかる。けど……淋しいのは先生ひとりだけじゃないよな。生徒たちの声を、あんたはちゃんと胸に刻んだはずだよな!」

 桜庭は依然として苦悶に伏している。今の言葉が届いているかどうかはともかく、決めるのなら今だ。ジェイドは先ほどと同様、スタートダッシュの構えを取り、じっと桜庭を見据える。

《南城くん、そろそろ》

「ですよねえ、了解!」

 高槻からの警告。フルブラストモードの能力のみならず、その駆動時間に限りがあることも、南城はしっかり覚えていた。いつまた桜庭が暴れだす——暴れださせられる——かわからない。一瞬で鎮圧を完了しようとジェイドは意を決した。

「さあ…もう着替えような、先生」

 右脚を強く蹴り込む。走り出したジェイドの姿は風のような残像を置いていき、一気に桜庭へ急接近。桜庭の眼前で飛び上がると、うずくまるその背中にセントラルユニットの存在が認められた。身体が重力に引き戻されるのとともに振り下ろしたSSジェイドブレードの切先は、セントラルユニットの接合部をなぞり、着地とともにその背中を離れた。

 まもなくジェイドは翻り、分離に成功したセントラルユニットを、がらんとした大通りの真ん中へ蹴飛ばす。程なくして大爆発を起こし四散したユニットを見て、炎の色に顔を照らされながら生徒たちは絶句した。

 ジェイドは生徒たちの方を向き、爆煙を背にこくりと頷く。それが、もう桜庭に触れても問題ないことを示唆していることが生徒たちにはすぐにわかり、まもなく全員で桜庭のもとへ駆け寄った。

「先生!」

「桜庭先生!」

 心臓部を失ったルナローブを必死に素手で剥がしながら、その中に眠る桜庭の無事を確認する生徒たち。息があり、僅かながら声を発することもできると分かり、張り詰めた生徒たちの表情はにわかに緩んでいった。

「先生…よかったあ…」

「俺たちのことわかりますか! 先生!」

 泣きつく生徒たちの声に、桜庭が目を覚ます。まだ苦しげだが、その瞳にはもう先ほどまでのおぞましさはなく、見慣れた生徒たちの顔や姿を正しく映した。

「…悪かった…私の…心の弱さが生んだ、とんだ迷惑…」

「いいんです…! 無事なら…!」

 ふいにひとりの生徒が、ステラジェイドの存在を思い出し、桜庭を救った礼を言わなくてはと振り返った。

「…そうだ、ステラさん! ありがとうござ——」

 しかし、そこにジェイドの姿はもうなかった。生徒たちの目に映ったのは、彼方から接近してくる緊急車両の数々と、散乱した街並だけだった。

「…もう、行っちゃったんだね」

「世間では、賛否あるようだが…」

 痛みに体を押さえながら、桜庭が起き上がる。すぐさま支える生徒たちに目を合わせ、言葉の続きを紡ぐ。

「彼は、れっきとしたヒーロー、なのかもしれないね」

 自らの身をもってそれを立証することとなった桜庭の言葉に、生徒たちは各々に頷く。感謝の念に、つい数分前までステラがいたその空間を少しの間眺め続けたが、その沈黙をひとりの生徒が破った。

「先生もですよ」

「え?」

「桜庭先生も、俺たちにとってのヒーローです。だから——」

「だから、絶対に帰ってきてください」

「約束です!」

 口々に桜庭へとその思いを訴える生徒たち。自らの誇りであり宝物である生徒たちの眼差しと、自身が犯してしまった過ちとが重なり、桜庭は涙に崩れた。

 丸まり、啜り泣きに跳ねる背中を、生徒たちは全員で抱き、緊急車両が到着するまでの少しの時間を共に噛み締めた。


 2


「…で、その空気を読んで、声をかけなかったってわけですか」

 事後処理も無事完了し、南城を含む全員が機動室へと無事帰還した。

 で、帰還早々槍玉にあがっていたのは、ルナローブが活動停止した時点で現着していたはずの対馬は一体どこにいたのか、という問題だった。本来対馬はジェイドによってローブがダウンした際、早急に装着者の身柄を確保しなければならなかったのだが…。

「だって、あんな泣けるシーン、邪魔しちゃったら無粋でしょうよ! あのあと管轄署の連中がちゃんとすぐ来て逮捕したんだから、結果としちゃ問題なかったわけだし?」

「高校生たちをあそこに通したのもアキさんですか」

 ギク! と、最近めっきり聞かなくなった擬音を口走る対馬。それはもう、ハイそうですと言っているようなものだ。

「俺があの子ら守りきれなかったらどうするんですか!」

「それはお前の仕事だろうが! 子供の涙目ってのは不可抗力なんだ!」

「あんたそれでも警察官か! 少年犯罪とか絶対扱えないタイプだろ‼︎」

「お前敬語はどうした敬語は! この敏腕刑事の先輩に向かって!」

 ギャーギャーと定番の喧嘩を始める南城と対馬をよそに、杏樹とオペレーターらは事件の顛末を共有。

「桜庭悟志のもとに届いたメールを分析したようですが、やはり捨てアドレスに捨てURL、サーバー情報も闇の中…とのことです」

「まあ、あれだけのスーツを組み上げる組織だし…その辺の対策、工作も手慣れたものでしょうね」

「…ところで室長、ギクって何語ですか?」

「ああ、根室くんぐらいの世代になるともう分からないわよね…。気にしないで、古〜い死語よ」

 杏樹の対馬に向ける目線は非常に冷めきっている。根室と高槻は苦笑いでやり過ごした。


 報告が——喧嘩も——ひととおり落ち着き、南城は葛飾のお呼びを受けてガレージへ。

「お疲れ様でした。どうでした? フルブラストモードは」

「勝手はだいたい掴めた気がします、すごく戦いやすかったし……でも、やっぱキますね」

 南城は肩や首をほぐす仕草を見せる。

 フルブラストモードの機能性が常時実現可能ならもちろんそうしている。そうならないのは言うまでもなく、装着者に通常時以上の負荷をかけることになるからだ。装着者自身の身体能力の限界ギリギリの機動力を発揮することによって、当然肉体には無理な力がかかることになる。駆動時間に制限があるのもそのためだ。

 そして、身体に無理をさせるのは、不服ながらルナローブと掠る点でもあった。

 桜庭との戦闘中に葛飾から唱えられた、ルナローブが精神干渉作用を持つという仮説。破壊したローブのスーツを解析したところ、その作用を実現しうる機構が見受けられたのだ。そして出力レベルの推測値も、一般の人間に耐えうるスペックをはるかにオーバーするものだった。

「もちろん、ステラはローブと違って、装着者の限界を超えてしまわないよう設計されていますがね」

「そこは心配してませんよ。なんせ見てくれてるのも葛飾さんですしね」

「えへへ」

「問題は、それより——」

 それより、この粗悪なスーツに心身を蝕まれる市民が、今後も増えてゆくことへの懸念だ。元を叩かなければこの悲劇は断ち切れない。それがすぐに叶わないのなら、せめて蝕まれた市民を一刻も早く救うしかない。

「ちなみに桜庭先生のローブ、内側に刻印がありましてね」

「品番…みたいなことですか?」

「ええとこれは……品番っていうより名前ですかね。WASP、と書いてある」

「ワスプ…蜂…。あの針は、その特性ってことですか」

 探れば探るほど、組織はとかく悪趣味であるということばかりが浮き彫りになってゆく。さらに聞けば、初戦で戦ったローブの名前はウルフだというし、動物になぞらえた命名規則でも設けているつもりか。シリーズ化する気満々なのも自信に満ちていて癪に触る。

 とはいえ、舐めてかかってはならない。現に被害が出ていることや、苦戦を強いられる瞬間があることは事実なのだから——

「びっくりしたわ、急にフルブラストモードなんて言い出すから」

「うおっ⁉︎」

 飛び跳ねる南城。思考の渦中にいた彼の耳に、突拍子もなく杏樹の声が飛び込んできたためだ。

「杏樹さん、自分たちがあなたにびっくりしました」

「そう? 邪魔じゃなければ、ここで一服させて」

 どっしりとした頼もしい室長だが、どうもこういうところも肝が据わっている。

 思えばもう杏樹はメンバーから名前呼びされることを拒まなくなっていた。彼女を室長呼びするのはそれこそ根室くらいだろう。諦めたのだろうか……でもまあ、それでいいなら黙っておこう、と南城は杏樹に向き直った。

「杏樹さんはこの機能のこと、知ってたんですよね」

「ええ。ただ、単にオーバードライブのようなイメージしかなかったから、少し承諾するのを躊躇ってしまったの」

「杏樹さんにフルブラストモードの存在をお話ししたときは、自分もまだ解析の途中でしたからね。得体の知れない機能だということは事実だったんです」

 でもこれからは必要に応じて遠慮なく使ってくださいね、と葛飾は笑った。まだ身体が痛みに疼く南城は苦笑いを浮かべるほかなかった。


「…杏樹さん、葛飾さん、桜庭の生徒たちが言ってたんですけど」

「ん?」

 不意に、思い出したように南城が口を開く。その目は、誰を、何を見ているでもない、宙を漂うような様子。

「桜庭先生は、俺たちのヒーローだ、って」

 自らの内側に渦巻いていた恐怖や淋しさを逆手に取られ、ルナローブに心を奪われてしまった桜庭。生徒たちにとってはその姿が現実のものと思えないほどに、従来の桜庭はたくましく、頼もしく、穏やかな先生だったのだろう。

「…俺って、ヒーローやれてますかね」

 二人は目を見開き、顔を見合わせた。あれほどステラの装着者となることを"仕事"と捉えた上で悩み、任務や責任の重さを慎重に測っていた彼の口から、そんなポップな言い回しが出てくるとは。

 だが、二人は彼の目を見て、それが極めて真剣な疑念であると確信する。ポップなフレーズでこそあれ、それは市民が誇り、頼り、前向きに受け入れる存在であれるかどうか、それを南城が担えるのかという、かねてから彼の心の根底に住み続けるテーマにほかならなかったからだ。

「生徒にとっての先生……確かにヒーローかもしれませんねえ。それぞれの夢や希望のひとかけらを託して、心から頼もしく思う存在」

「なら、答えはYESね。なぜかわかる?」

 南城はわからないと答え、さらに続けた。

「それに…俺が目指すっていうか、意識する? っていうところが…”ヒーロー”で合ってるのかどうかも」

「それもYESよ。——なぜなら、私たちメンバーがあなたに希望を託して、頼りにしているから」

 お得意の論法だと思った?と杏樹は自嘲した。確かに、倉敷の話すニュアンスと似ている。でもね、と杏樹は続けた。

「自分の仕事が結果として誰かのヒーローになるというのは、どんな仕事にもあり得ることよ。スポーツ選手、俳優、レスキュー隊員、工事作業員、家の近くを回ってる郵便配達員でもね。あなたにとってのそれが、ステラの装着者だった……そう思った方が素敵じゃない?」

「杏樹さんの言う通り。重大な仕事だけど、きっと飲み込まれてしまったらダメなんです。南城さんが高校生の皆さんに語りかけていたとき、肩の力が抜けていたように……スーツ越し、モニター越しでしたけど、自分にはそう見えましたよ」

「杏樹さん…葛飾さん…」

 思えば、ステラ関係の名称にやたらドリンク系のワードが散りばめられていたこと——葛飾曰く、開発サイドの遊び心——も、それと同じなのだろうか。市民の命に関わる重大な武装開発プロジェクト。そのシステム呼称の命名に垣間見えたのは、自分に与えられた責務を目一杯”謳歌”していた証なのかもしれない。

 そういうことなら——

「…わかりました。俺、”謳歌”してみます。この仕事を」

 南城は笑った。

 杏樹と葛飾には分かった。それがその場しのぎの愛想笑いではなく、心がしかと着地できたことへの安堵の笑みだと。


【第一部・完】

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