第6話 6

「それで、さっきのあれがなにか教えてくれるかしら?」


「個人情報に関わる問題なので、申し訳ありませんがお話することはできません」


「そう……それならお仕事がらみってことね。ありがとう、この話はこれで終わりよ」


 ……くっ!?


 この人の前では喋るだけで情報提供してしまうからやっぱり嫌いだ。


 美咲さんの友人である北川麗子きたがわれいこさん。

 

 フリーのスクープ記者兼カメラメンをしている。

 業界では凄腕で通っていてとても有名なのだ。


 年齢は美咲さんと同じ20代後半くらいで、栗色でショートカットの髪が似合う活発的なお姉さんだ。

 取材の時はエレガントにもボーイッシュな感じにも変身できて外見で嘘をつくタイプなので俺は苦手だ。

 しかし本人曰く、真相を解明できるのなら嘘でもなんでも利用すると以前に聞いたことがある。


 彼女もなにかを抱えて生きているのかもしれない。


「それで、どうして麗子さんがこの辺りにいたのか逆にお伺いしてもいいですか?偶然なんてものは信じない性格なので」


「さっきも言ったじゃない。依頼はもう済ませてあるから、あなたと話しに来たのよ」


「俺のところに美咲さんからまだ連絡はきてませんけど」


「そりゃそうよ、いまさっき依頼してきたばかりだもの。それで少しでも早く仕事をお願いしようと思って美咲と話をしながら、あなたの話をしてたらこの辺りに現れそうな情報を掴んだから来てみたってわけ」


「なるほど……仕事のスキルを無駄に駆使して俺の情報を聞きだしたってことですね。でも正確な場所や時間が分からずよく見つけましたね。ストーカーみたいで怖いからやめてください」


 いつもなら政治家や芸能人の情報を、高額な報酬をもらって探り出す人がなにをやってるんだか。

 でも本当に俺を見つけてしまうとは恐ろしい能力の持ち主だ。


「それはプロとしての経験と女の勘よ。あらあらそんな事が言える立場なのかしら。また新しい情報を持ってきてあげたのに。それに誰があなたを訓練したのか忘れてないわよね?」


「マジっすか!失礼な発言をしてすいませんでした。いつも通りちゃんと依頼もこなします。いくら感謝してもしきれないです」


「わかればいいのよ」


 どうして俺が苦手意識ができてしまった女性とここまでスムーズに会話ができるのか。

 それは簡単な話で彼女とはビジネス上の関係だから。


 『別れさせ屋』をするにあたって美咲さんが友人である麗子さんを紹介してくれた。

 こんな特殊な仕事内容をいきなり実践できるはずもなく、当初は会社のスタッフで練習するはずだった。


 しかし……女性が苦手で信用できない俺は、なかなか現場に出れるレベルに達せずクビになりかけたのだ。

 唯一の稼げそうな仕事を失っては借金も返済できなくなってしまう。

 そこで美咲さんが友人である麗子さんにお願いしていろいろ経験させてくれることになった。


 引き受けてくれる条件は全部で3つ。


 『どうして別れさせ屋の仕事をしようと思ったのか教える事』


 『麗子さんが別れさせ屋の仕事を俺に依頼する時は、6回に1回は無料で行うこと』


 『俺がまた女性を好きになれたら又は、なったら教える事』



 クビになりそうで、もう後がない俺は「はい」とその場で返事をし、いままでの経緯を全て話すと麗子さんは「わたしがあなたに仕事を依頼するたび、家族の情報を1つもってくるわ」と俺の目を真っすぐ見ながら言ってくれた。


 2つ目の条件がなんとなく「映画の特典みたいですね」と言ったら、「よくわかったわね」と返されて苦笑いしてしまった。


 3つ目の条件に関しては、「面白いから」の一言で笑いながら言っていた。

 ただ面白がってるだけだ。


 こうして奇妙な師弟関係?が生まれ今のような関係になっている。

 『別れさせ屋』の練習相手になってくれるのに、どうしてここまでしてくれるのかを尋ねたけど「きまぐれよ」としか言わずいまだに答えてくれない。


 ちなみに麗子さんにも俺にも、お互い男女の恋愛感情は一切ない。

 あるのは友人、姉弟のような感情だけである。


「それで今回はどんな相手なんですか?ちなみに付き合ってるのか最初に教えてください」


 訓練と仕事を始めて驚いたこと。

 2つ目の条件が冗談だったと思っていたら、それは大間違いだった。


 彼女は仕事の為ならいくらでも自分を偽る。

 その為、次々と男性に勘違いさせるような行動をとるため、交際関係のトラブルが起こってしまうのだ。

 当の本人は交際だと少しも思っていないから質が悪い。

 その為に本来であれば、恋人や恋人の浮気相手、場合によって不倫相手などを請け負うはずなのに、付き合ってると勘違いしている相手を排除するのだ。

 ちなみに不倫相手から家庭を壊すような依頼は引き受けたりしない。


 こんな人が近くにいたら、俺が女性を好きになることは一生ないかもしれない。


「今回もいつもと同じような相手だから、あなたが彼氏のフリしてくれればすぐに解決よ」


「ああ、そうだったのか。麗子さんの場合は別れさせ屋とレンタル彼氏の仕事を同時にしてたようなものですね」


「……ちょっと待ちなさい」


 ……なにかおかしなことを言っただろうか?

 麗子さんは信号が赤になっているのを確認し車を停めると、こちらを向いて無言の圧力をかけてくる。


「なんであなたの口からレンタル彼氏なんて縁のないはずの言葉が出てくるのかしら?」


 もしかして美咲さんからまだレンタル彼氏の件は聞いていないの?

 しかも珍しく怒っているみたいですごく怖いから俺の口からは言いたくない。


「あの……いろいろと話す権限も詳しいことも判らないので美咲さんから直接聞いてもらえますか?」


「わかったわ。依頼をしがてらあなたを家に送ろうとおもっていたけど、すぐに事務所へ戻るわよ」


 さっき美咲さんと話していたみたいだけどまた戻るようだ。

 

 なにかまずいことでもしてしまっただろうか?

 今日の報告もついでに出来るからいいけど、疲れたから早く帰りたい。


 呑気に車の中でウトウトとうたた寝している京介だった。

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