第14話 アイドルと写真
「かおりんの列はこちらでーす!」
「みかちゃんはこちらでーす!」
ライブも終わりイベントの準備が進められていく。
な、なんとアイドルと1分間の会話が出来て一緒に写真も撮れるだけでなく握手まで出来てしまうのだ!
僕の順番は20番目くらいだろうか。
さすがトップアイドルの中でも一番人気のかおりんは、他のメンバーよりも列が長い。
もちろん僕が今並んでるのはかおりんの列だ。
今日は家族としてではなくガチファンとして参戦している。
「うぉーーーー!!もうすぐ夢が叶うんだ!」
「お静かにお願いします」
「はい……」
冷徹な目でスッタフに注意されてしまった……
そしていよいよ僕の順番が訪れた。
興奮を抑えなくちゃ。
「か、かおりんこんにちは。いつも応援しています」
「ありがとうございます。写真はどんなポーズがご希望ですか?」
い、いくら家族だとばれるのが怖いからってあんまりでしょ。
1分間トークを通り越して1秒は早すぎる!
顔は怖いくらいのアイドルスマイルをしているけど、なんだか肩のあたりが震えているし……
これを皮切りにガチオタクとアイドルの駆け引き?バトルが始まった。
「ポーズといえばかおりんの得意なポーズはどんな感じですか?やっぱりお料理とか得意そうだから調理してるポーズとか様になるんでしょうね」
「りょ、料理よりもダンスが得意かなぁ〜。あ、よく見たらさっきみかちゃんとステージに上がった人ですね。すごくダンスが上手なんですね。どうしてあんなに気持ち悪いくらいうまく踊れるんですか?オタクなのに」
「ちょ……かおりん、キモ…オタクって…」
あまりにストレートな言い回しで運営のスタッフがしどろもどろになっている。
しかーし!ファンにオタクは最高の褒め言葉だぜ!
つい嬉しくて顔がニヤけてくる。
対照的にかおりんの顔は引き攣っていく。
「そろそろ写真をとりましょう」
くっ、罠にはまってあっという間に1分が過ぎてしまった。
ならば……
「接触しなければどんなポーズでも?」
「い、いやらしいポーズじゃなければ……」
……か、可愛いすぎる!!
はぁはぁ、もう一押し。
「では目をつぶってキスするポーズをお願いします。もちろん離れた位置で大丈夫です。スタッフがいれば安心でしょう。かおりんともあろうトップアイドルが怖いなんて言わないですよね?」
「あ、当り前でしょ!いいわやってあげる!」
もはやいつもの口調になっているかおりんを見て、僕のことをスタッフが怪しんでいる。
スーパーアイドルがスタッフを含めて素の表情を見せるなどありえないので当然かもしれない。
「売れる前のデビューから応援していた甲斐があったよ」
「うっさい!早く撮るわよ」
かおりん達だって最初から人気があったわけじゃない。
一生懸命にレッスンを行い地道なライブ活動を経て今の地位を確立したのだ。
そんな姿をデビューからずっと見守ってきた。
「あ、お二人はデビュー当時からの顔なじみなんですね」
「そうなんです。かおりん一筋です!!」
スタッフに家族だと気付かれれば、かおりんに迷惑がかかるので胡麻化しておく。
これも家族の為。
「じゃあかおりん目を閉じてくださーい」
要望通りのポーズをとってもらい、僕は少し後ろのほうでポーズをとった。
「ああ……なるほど」
スタッフの方は気付いたらしい。
パシャ!
「はい、おっけでーす!ちゃんと取れたか確認してください。うふふ」
「うぉおおおおおおおおおお!!!!!!」
「あんた、うっさい!」
他のブースに聞こえるほどの大声を出してしまった。
いつもファンに対して神対応のかおりんが『あんた』と言ったので、スタッフもさすがに驚いている。
「だって……だって……初めての……」
「えっ!?」
これ以上は危険だ。
写真を確認されれば消されてしまうだろう。
「あとは握手ですね。お願いします!」
「握手は良いけど……そのビニール手袋はなんなのよ?」
もはや敬語は皆無だ。
かおりんのガードが甘いので心配になってしまう。
「僕みたいに下僕のような存在がかおりんと直接肌が触れ合うなんて恐れ多いから……」
「へー、身の程をわきまえてるじゃない。関心関心」
……作戦成功だ。
僕は堂々と握手した。
薄いビニール手袋越しにでもわかるかおりんのぬくもり……極上なり。
僕は手を振ってその場を後にした。
ここからが本番だ。
先程のビニール手袋を急いでジップロックへとしまう。
「ふー、保管完了。新鮮な状態で何度でもかおりんと握手ができるな。そしてこの写真!」
そこに写っていたのは遠近差を利用して撮った、かおりんとキスしてるように見える写真だった。
今日はお宝大量ゲットだぜ!
今夜は写真を眺めながらかおりんエキスをちびちびやるかな。
今夜の僕はいつもにもまして変態じみていた。
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