第24話 3つのお題 即興小説⑨ ぼくの願いごと
こんにちは。昨日3つのお題をやったら、いつもより3倍くらい長くなったので前後編で投稿します。どうぞよろしくお願いします!
Amazonの本の方も引き続きよろしくお願いいたします。一次創作本で短編集です。
『もしも僕がリンゴの木を植えなくても』という名前で、Amazonさんで検索すると出てくると思うのでよかったらご覧ください。
それでは、始まります。
僕は1人、山の中を走っていた。もうへとへとだ。目がかすみ、足がもつれる。何かにつまずいて、転んだ拍子に顔をすりむいた。
「痛…!」
膝が笑って、力が入らない。このまま横になっていたい気がするけれど、脳裏に苦しんでいる家族の顔が浮かんだ。
「おばあちゃん…!」
そうだ、こんな事をしている場合じゃない。今すぐ神社へ行かなければ。
僕はよろよろと立ち上がり、また走りだした。
もうこれ以上は進めないと思った時、目的地に着く。息を切らし、立ちつくした。
「ここだ…」
そこは鬱蒼(うっそう)と木がしげり、古ぼけた鳥居がある。その下を階段が通っていて、頂上へと続いていた。
もう夕暮れ時で、夜になったら真っ暗で何も見えなさそうだ。ゴクリ、とつばを飲み込む。
けれど、立ち去る選択肢はなかった。僕にはやらなければいけない事があるのだ。
待っててね、そう呟くと一歩一歩階段を上っていった。
***
僕は小さな街で生まれた。お父さんとお母さん、そしておばあちゃんも一緒に住んでいた。お母さんのお母さんで、とても優しかった。
両親が共働きなので、彼女が僕の面倒を見てくれた。僕はおばあちゃんが大好きだった。保育園のお迎えも学校の授業公開も必ず来てくれて、目が合うとニコニコと手を振ってくれた。
小さい頃に熱を出した時、つきっきりで看病してくれた。お父さんもお母さんもあまり家にいなかったけれど、彼女さえいてくれれば心細くなかった。僕の心の真ん中には、いつもおばあちゃんがいた。
けれど──
おばあちゃんはだんだん元気がなくなっていった。よく床につくようになり、あまり家事ができなくなった。僕は心配だった。
病院にも行ったけれど、一向に良くならない。彼女は日に日に痩せ細り、話ができる時間がどんどん少なくなっていく。寂しかったが、このままではおばあちゃんが…と考える方が怖かった。
僕に何かできる事は無いのだろうか──それまではよく外で遊び回っていたけれど、あまり外出しなくなり、家や図書館でぼんやりする事が多くなった。
その日も学校が終わって帰ろうとしたけれど、なんとなく戻りたくなくて、家の団地の階段に座ってぼんやりしていた。
すると、同じ団地の友達のアユムがトントンと階段を上ってくるのが見える。
「よう、ユキト。元気か?」
元気も何も、今日も学校で会ったばかりだ。彼とはよく遊んでいたけれど、最近はあまり一緒にいない。ふいと横を向くと、彼は隣に腰を下ろした。
「最近どうしたんだ? 学校でもあまり話さないし」
家の事は友達には話していないので、誰も僕の事情を知らなかった。はあ、とため息をつく。
「……ばあちゃんが」
「お前、ばあちゃんいたんだ」
「普通いるだろ」
むっとしてそう返す。
「俺のは2人ともいない。1人は俺が生まれた時にはもういなくて、もう1人は幼稚園の時に死んだ」
その言葉が、グッと僕の胸を刺した。おばあちゃんもそうなったらどうしよう……
「うちのばあちゃんはまだいるけど、」
こみ上げてくる何かを堪(こら)えながら続ける。
「病気になっちゃったんだ。すごく弱っちゃって。もしかしたら…」
そこまで言うと、視界がにじんだ。顔を見られたくなくて横を向く。
ユウキはこちらを見ていたが、視線を前に戻した。
「──そっか。それは辛いな」
その言葉は、どんな慰めや優しさより胸に沁(し)みた。ぽたぽたと、顔から水滴が滑り落ちる。
「泣くなよ」
「泣いてない」即座に否定する。
「…そうかよ」
ため息をついて、しばらくして彼は話し始めた。
「あのさ、聞いた話なんだけど」
「うん?」
「ここら辺って、昔は湖だったのは知ってるか」
「聞いた事がある」
だからここの地名は青沼、という名前がついている。
「あの山に、神社があるだろう?」
とすぐそばにある山を指差した。
「…うん」
池が眺められるその山に、池の神様を祀(まつ)ったらしいというのは前に耳にした。
「そこの神様に願いを言えば、どんな願いも叶えてくれるらしいぜ」
僕はそれを聞いてびっくりする。
「そうなの⁈」
「だから、お前に何か望みがあるなら、あの神社に行けばいいんじゃないか」
僕は動揺していた。それは本当なんだろうか。じゃあ、その神様にお願いしたら、おばあちゃんは元気になる…?
「まあ、信じるかどうかはお前次第だけど」
彼はにやりと口の端を曲げて笑った。
***
(明日へ続く)
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