第23話 3つのお題 即興小説⑧

 以下の三つで即興小説を書いてください。

「牛」

「金槌」

「ネコ」


 あるところに、男がいました。彼は弥太郎といい、一頭の牛を飼っていました。彼はその牛を大切に育てており、牛の乳や作ったわらじなどを売って生活していました。それほど金持ちではありませんでしたが、男一人と牛がそこそこ食べるくらいは稼いでいました。ある日、牛がこう言いました。

「いつも世話をしてくれてありがとう」

「いやいや」

 急に牛がしゃべりはじめたので大変びっくりしましたが、そう返しました。


「あなたはいつもいつも私を大切に扱ってくれました。本当にありがたく思っています。

何かお礼をしたいので、金槌(かなづち)を作ってくれませんか」

 弥太郎はそんな物を作った事がなかったけれど、知り合いの鍛冶屋(かじや)に行って見よう見まねで作ってみました。

「それを使って、鉄で猫を作ってみてください」

「そんな事はした事がない」

 そう言って断ろうとしましたが、

「大丈夫ですから」

と牛が言うので、仕方なく作ってみました。

 すると、とても上手な猫の置物が出来ました。丸くなって眠っている形なのですが、本当に生きているように見えました。


「それを街で売ってみてください」

 彼はそれを持って、他の品物と一緒に売ってみました。猫はとても高い値段で売れました。


 帰ってきて、それを牛に言うと

「他にも金槌で何か作ってみてください」

と言うので、机や棚、椅子などを作ってみました。男はそれまでそんなものを作った事はありませんでしたが、どれも出来が良く、丈夫でいい品でした。

 また街に行った時に売ると、評判がよく、どれもみな飛ぶように売れました。

 そんな風に商いをしていたら、だんだん裕福になり、いい暮らしができるようになりました。

 弥太郎は大変喜びましたが、牛の世話はだんだん疎(おろそ)かになり、牛はしだいに痩せ細っていきました。


 ある日彼が牛舎に行くと、牛は倒れて死んでしまっていました。彼はがっかりしましたが、それほど悲しみませんでした。

「まあ、金槌はあるし大丈夫だろう」

 ところが、それ以降は金槌で何か作っても、なぜかよい品物を作れなくなってしまいました。牛が死んでしまったので、金槌の不思議な力が消えてしまったのです。それで、だんだん貧乏になって食べていくのもやっとになりました。


 彼は

「ああ、残念だ。牛も何もかも失ってしまった。前の暮らしで十分だったのに。あれは本当にいい牛だった」

と嘆きました。けれど、今さらどうにもなりませんでした。


 了



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