第22話 3つのお題 即興小説⑦
3つのお題で小説を書いてください。
「デッキ」
「くるみ」
「塩」
ジャンルは不問かボーイズラブです。
俺は遠くの景色を見るともなく見ていた。
「ここにいたんだ」
と声をかけられる。しばらく1人で居たかったので
「──おう」
とややあって返す。
ちょっと探しちゃったよ、と言って隣のデッキチェアに腰を下ろした。
物想いにふける時間は終わったかとやや残念に思ったが、彼とも話したかったのでまあいいかと思う。
「いい天気だけど、気持ちいいね。やっぱり海の上だと涼しいや」
眩(まぶ)しそうに向こう側の陸地を眺めている。
「ああ」
つられてそちらへ視線をやった。俺たちは夏の休暇を取って、300キロメートルほど離れた離島へ行く。どうせなら沖縄や北海道でも良かったが
「ここの島がいい」と彼が言うのでそうする事にした。
俺は家族と旅行でいろいろ行った事があるが、あいつは実家が裕福だったのに家族で旅行した事がないと前に言っていたからだ。できれば彼の希望する所へ連れて行ってやりたい。
俺がハードな肉体労働の割に、そんなに給料がよくないのを知っているようで、あまり遠い場所を希望しなかった。そんな事なんか気にしなくていいのにと思うが、近い方が安いのはそうなので、ありがたいと言えばありがたい。いつか金を貯めてモルディブにでも行こうとは思っている。
その島は飛行機でもいけるが、船便もあったのでそちらを取った。10倍ほど時間がかかるが、のんびり行くのも乙だし、船の上で過ごすのも楽しい。
「ねえ、聞いてる?」
彼が不審気にこちらを見ている。何やら話しかけていたようだが、生返事ばかりで不満に思ったのだろう。
「ごめん、なんて?」
軽く謝って問い掛ける。
「だから、現地に行って何をしようかって話だよ。君は何をしたいとかないの」
「ああ…」
仕事が忙しくて直前までバタバタしていたので、結局ほとんど彼任せだった。
「そうだな。そこで何ができるんだっけ」
「シュノーケルとか原生林ウォーク、温泉もあるって。スイーツも美味しそうだよ」
ほら、と言って見せるスマホの画面には、宇治金時のかかったかき氷や、扇形のゴーフレットが刺さったカラフルなジェラードなどが映っている。
「おー、うまそう」
「だよね。オレ、プリンが食べたい」
そういや、こいつはドーナツも好きとか言っていたと思い出した。大柄で強面(こわもて)の彼が猫背になりながら、さくらんぼの載ったプリンを食べている姿を想像する。存外可愛くて、思わずクスリと笑いが漏れる。
「あ、今なんか変なこと想像したでしょ」
頬を膨らませ、軽く肩を叩かれて、ごめんごめんと笑いながら謝った。
「もういいよ、適当にプランニングしとくから。リクエストがあったら言っといて」
と言う彼に、よろしく頼むと返して目をつむる。
「そういや、酒を持ってきたんだ」と呟くと
「えっ何を?」と乗り気だ。
「赤ワイン」
「渋いね。オレ、胡桃(くるみ)持ってきてるよ」
「それ、何味なんだ」
「いや普通に塩だけど」
「最高のマリアージュだな」
「まるで僕らみたいだね」
と彼はウインクする。
昼間っから何言ってんだよと返してチェアに横になった。
最高のバカンスだな。俺は島でのイベントに期待で胸を膨らませながら、大きく深呼吸して目を閉じた。
了
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