第21話 3つのお題 即興小説⑥

 私は夕食を作っていた。今日は金曜日。子供たちは学校からも帰ってきて、いつもは忙しい夫ももうすぐ帰ってくるだろう。みんながそろう週末なのでカレーを作るつもりだ。材料を全て一口大に切り、フライパンで炒めて水を入れる。下の子は甘口が好きなので、3分の1ほど取り分けて。リンゴや蜂蜜を入れる。リンゴはすりおろして一緒に加えた。包丁で切って入れるより、この方が甘くなる。バーモントカレーを使うのもいいが、ルーは同じで味付けを変えるほうが手軽だ。いい香りがキッチンからリビングへ広がっていく。

「今日はカレー?」

 下の子が嬉しそうに私に聞く。うん、と答えると「やった!」と上の子が喜んだ。上と下のリアクションがあべこべだ。まあそういうところも可愛いんだけど、と思う。上は感情表現が素直で、つい口元がほころんでしまう。思春期真っ最中で、悪態をつく時は憎たらしいけれど。


 ご飯が炊飯器だけだと足りなくて、鍋でもう少し炊いた。ご飯のレシピは何でも美味しく作れるサイトで調べて、始めは強火、次に中弱火にして10分くらい蒸らすと出来上がり。炊きあがってからそっとフタを取ると、かにの穴ができていた。うまくいったとニンマリする。

 カレーも出来たので、食べようと上の子が鍋の方のご飯をよそおうと、勢いよくしゃもじを突っ込んだら、勢いが良すぎて鍋がコンロからずれ、そのまま下に落ちてひっくり返ってしまった。ガシャーン!という音がして一瞬シーンとした後、帰宅していた夫が

「何やってんの!」

と、大声を上げる。


「(ごはんが)取りにくかったから…」

と言い訳をする長男。

「片手でやろうとするからでしょ!」

などと言い合いをする。夫が鍋を取ってご飯を拾い始める。鍋には少ししか残っていなくて、下に落ちたものも食べるには気が引けた。私は「やるよ」と、夫の代わりにご飯を拾い始める。

 悲しい気持ちがこみ上げるが、やってしまったものはしょうがない。家族は炊飯器のご飯でカレーを食べ始めていた。


 私は料理をすることで、この家族を楯(たて)のように守っている。子どもたちや夫が元気に学校や職場に行けるように、病気にかからないように栄養やバランスなどを考えて毎日ご飯を作る。

「美味しくない」と残されたり、今回のような事があったりするけれど、私はそれでも料理をし続ける。それが私の使命だと思っている。


  了



 以下の三つで即興小説を書く

「りんご」

「楯」

「カレー」

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