第20話 3つのお題 即興小説⑤

 私はある展覧会に来ていた。そこはとある外国の、昔の遺跡から発掘されたものを展示していた。平日の昼間がたまたま空いたので、終了日間際に駆け込んだ。

 そこにはいろんなものが置いてあった。毛皮で作ったお面、何かの鉱石、祈祷に使った青銅の剣など様々なものがあった。人の少ない会場で、ゆっくり見て回った。

 私はふと足を止めた。何かの台座に細かい彫刻がされていて、目を奪われる。それは儀式の時に使う宝石を載せるもので、所々欠けてはいるが、曲線を組み合わせた美しい紋様が描かれており、作者の繊細さやセンスに思いを馳せながら観察した。


 ふと気づくと、隣に女の人がいる。さっきまで誰もいなかったような気がするけれど…少し不審に思いながらも、彼女もそれをじっと見ていたので気にかけずにいた。しばらくして何か音がするので横を向くと、彼女が泣いている。


「どうしたんですか?」と思わず聞いた。

「ええ、なんだかこみ上げてくるものがあって…」

 そう言ってぽろぽろと涙を流す。

「私の実家にこれと似たような壺があったんです」

「壺?」

「ええ。床の間に飾ってあったんですが、同じような模様が描かれていて。それを思い出したら、なんだか…」

と、ハンカチを出して顔を拭いた。

「それは今どうなったんですか?」

「多分、もう家にはありません。割れてしまったか、誰かにあげたのかも。何せ、とても小さかった頃の話ですから」


 そうなんですかとつぶやいた。泣いているという事は、昔は幸せだったけれど、今はそうではなく、その頃の事を思い出して感傷的になったのだろうか、それとも──などと心の内で考える。

 しばらく台座を見ていたら、いつの間にか彼女はいなくなっていた。誰かがいた気配もない。

 白昼夢でも見たんだろうか。もしかしたら台座が見せてくれた幻……? 狐につままれたような気分だったが、なぜだかほんのり暖かい気持ちになって家路についた。


 了


 以下の三つで即興小説を書いてください。

「鉱石」

「台座」

「涙」

 ジャンルは不問orミステリーです。

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