第19話 3つのお題で小説を書く④

 その鳥居は、通学路の外れにひっそりと立っていた。少し奥まで歩かなければ見つからないので、大抵の者はその存在を知らなかった。

 ある日、道端の猫を追いかけて迷い込み、路地の奥に隠れるように立っている古ぼけた鳥居を見つけた。その隣に、毛むくじゃらで口の大きい妖精がいそうな、小さな森みたいになっている所があった。

 誘われるように入っていくと、コテージのような小さな家がある。ふらふらと近寄って窓からのぞいた。そこには小人のようなおじいさんとさっきの猫がいた。彼らの様子をじっと見ていたら、ふと彼が顔を上げる。私はさっと隠れたが、バレバレだった。


「この辺の子かい」

 彼がドアを開けて聞く。私はもじもじしていたが、中に入るか聞かれ、コクリとうなずいた。

 中には、見たこともない装飾品やステンドグラスのランプ、鹿の頭や何かの動物の剥製はくせい、額縁で飾られた帆船はんせんの絵などいろんなものが置いてあった。置き時計はアナログで骨董品こっとうひんのようだった。ローマ数字で文字盤が書かれ、文字盤の上と下に天使のようなものが座って互いに見つめ合っている。

 暖炉もあって、実際に使えるのかどうか分からなかったが、そんなものは見た事がないのでとても驚いた。私は一つ一つに近寄って、その輝きや重さを確かめる。


「ここは大通りから離れてるからほとんど人が来なくてね」

 おじいさんがニコニコしながら私を見ていた。

「お客さんは三十年ぶりだよ」

 そう言うと、美しい花が描かれているティーカップでお茶を出してくれる。端と取っ手が金色に縁取られていた。その液体はルビーのような色でキラキラと輝いている。


 私は時々そこへ行って猫と遊んだり、おじいさんに学校で起こった事や友達について話したりした。おじいさんが途中でいなくなる時もあったが

「好きなだけいていいよ」

と言われ、一人で置物をずっと眺めたり、帆船の絵を見ながら、あれが動き出して冒険へ旅立つことができたらなどと夢想した。


 私は大きくなるにつれ、その家へ行かなくなった。路地にも寄り付かなくなったので、彼らがその後どうなったかも知らない。

 けれど、あの家は今でも心の中にあって、疲れたりぼんやりしている時に思いを馳せる。そして、一つ一つの調度品のきらめきや質感を思い浮かべるのだった。


                      了


 三つのお題で小説を書く

 『鳥居、装飾品、時計』

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