第17話 3つのお題で小説を書く②

 その日、神父はいつものようにその部屋へ入った。

 今日は週に一度の懺悔ざんげ室を開く日だ。

 まもなく、一人の男が仕切られた部屋の向こう側に入ってくる。

「神父様、どうかわたしをお救いください」

「主は共にあなたの話を聞いてくださいます」

 神父はそう答えた。

「――私は、両親が貴族という身分で何不自由なく人生を過ごしてきました。望むものは何でも与えられ、やりたい事も制限なくさせてもらえた」

 神父の心に羨望せんぼうがわずかに芽生めばえたが、それをすみに追いやり、相づちを打つ。

「本当にいろんなことをしました。人の持っている物でも欲しい物があれば金で買い取り、嫌だといえば力ずくで取り上げた。好きな所へ連れて行ってもらえたし、好きな女性も財力でものにできた」

 得意げに延々と自分語りをしている。神父は少々苦痛だったが、これも試練と思い、口をはさまなかった。


「……それで、今日懺悔したいというのは、」

 話がやっと本筋に入ったので、ホッとする。

「ええ」

「過去ではなく、未来の事なんです」

「?」

 おかしなことを言い出すものだと思う。

「私は今までやりたい放題の事をしてきたんですが、人を殺したことはないんです。壁というか、抵抗があって」

「……それは、これからするという事ですか」

「はい、神父様。懺悔します」

 そう言うと男は部屋ののぞき窓を壊し、神父の首をガッとつかんだ。


  了


 三つのお題で小説を書く

 貴族、教会、壁

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