第16話 3つのお題で小説を書く

 彼女の髪がさらり、と揺れた。

 物憂げな瞳が何かを映し、ふーっと息をつく。周りに紫煙が漂った。

 薄暗い店内では知り合いがいても判別しづらかったが、なぜか彼女の姿だけははっきりと像を結んでいた。


 僕はピアノの上に指をすべらせながら、彼女の動作を追っている。やがて曲が終わり、まばらな拍手が起こった。軽く礼をして席を立つと、その席へ向かう。

 うつむいて物思いにふけっていた彼女は、ふとこちらを向いた。


「ここ、いいかな」

 僕はどぎまぎしているのを悟られないよう、平静を装いながら聞く。

 彼女は煙草タバコを深く吸うと、煙を吐いた。

「……」

「誰かを待っているの?」

 僕はそのままの姿勢で聞く。

「……いいえ、特には」

 彼女は作り物のような笑顔で答えた。

「でも、一人でいたい時もあるの」

 そう言われて、引き下がるしかなかった。

 煙草の匂いは好きじゃなかったけれど、彼女の吸うそれだけは受け入れられそうな気がした。


  了


 3つのお題で小説を書く

『髪、煙草、ピアノ』

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