第7話 leave (お題 任意の作家の文体を真似した小説)

(川上未映子さんをまねして書いてみました。うろ覚えなので微妙です)


 私は少し前までは普通の女の子でした。いや、今でもふつうだと自分では思っています。……そう思いたい。でも周りからは変だと言われます。なぜなら私はちょっと物忘れがひどいんです。そう、前まではそれほどでもありませんでした。でもある時からだんだん変わってしまいました。それはたぶんそうじゃないかと思い当たる出来事があります。

 その日私は学校で体育があってずっと走らされたので、帰ってきてからもくたびれて何もする気になれなくていつの間にかうとうととうたた寝をしていました。そしたら夢の中で何かが天井から降りてきて(何なのかはよく分かりません。変な色のねばねばと形のないようなものだった気がします)それが近づいてきて耳の中に入ってしまったんです。目がさめた私はびっくりして耳を逆さにしてトントンと片足でケンケンしてみたけれどそれは全然出てこなくて、あーたぶん夢だったのかなあ夢だといいなあなどと思いながらおやつを食べに1階へ降りていきました。


 それからだんだんと物忘れがひどくなって同じ事を何度も友達に聞いたり、遊ぶ約束をうっかりすっぽかしたり、そのうち学校へ行く事さえ忘れるようになりました。

 これではいけないと手帳くらいの大きさのノートを買ってきて覚えておく事を書いてみましたが、それを見るのを忘れ、書きとめる事を忘れ、しまいにはノートの置き場所を忘れてしまいます。そうして何度もノートを買っては失くしたのでその方法はもうあきらめました。

 そのうちに手や足を忘れるようになって、幼なじみのユキオが見つけた時は持って来てくれましたけど、忘れる頻度ひんどが多すぎて私の体はどんどんなくなっていきました。


 ふと気づいた時、私はぼーぼーと枯れた草が生い茂っている野原のような所にいました。視界には真っ青なみきった空が映っています。私はそれを見て、ああ私はとうとう私を忘れてきてしまったんだなあとぼんやり思いました。動こうにも手も足もどこかに忘れてきて、っていくこともできない。ここへどうやって来たのかも家へ帰る道さえも忘れてしまった。私はぽろぽろと涙をこぼしました。声を上げて泣いても誰も返事をしてくれない。このまま幼なじみのユキオとも友達のキョウとも会えなくなるんだろうか、そう思うととても悲しくてひいひいと泣き声をあげました。

 涙はいくらでも出てきましたけど、下が渇いた土なのでそれはどんどん吸い込まれていってしまい、後には何も残りませんでした。


  了

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