第5話 怪異(お題 現代舞台の怪奇小説)
それは、いつの間にか存在していた。気づいたら、自我が芽生えていたのだ。それはあてもなく彷徨った。人に会うと、彼らはそれを恐れた。
なぜなら周りに冷たい風や氷を巻き起こし、近づくと凍ってしまうからだった。
「しっ! こっちへ来るな‼」
人々はそう言って、自分たちから遠ざけようとした。それは仕方なく1人でいるしかなかった。
いつしか、●▲×と呼ばれるようになった。●▲×は次第に成長していったが状況は変わらなかった。むしろ大きくなる事で影響というか能力は強まり、人々はますますそれがいる事を恐れた。ちらとでも見かけるとあわてて姿を隠すか、家へ逃げ帰った。
たまに、●▲×を倒そうと
●▲×はさびしかった。皿のように大きな目をギョロつかせ、成人した男子より2,3まわりも大きな図体で、人間の頭を片手でやすやすと引きちぎりそうな手を震わせて野原をうろついた。
それの悲しげな声を聞いて人々は震え上がる。
「ごらん、●▲×が吠えている。決して外に出てはいけないよ」
そう言って家の門を固く閉じ、出てこようとはしなかった。
●▲×はさまよい歩いた。死にたいと思って海に入っても、水が凍りついて
それは何年も何年もさすらった。さみしさと悲しさでとうとう消えてしまうかと思った頃、目の前に何かが現れた。
それは、●▲×と同じ姿をしていた。驚きで目をみはる。
自分と同じ者がいたなんて―― それは向こうも同じ思いだったようだ。ふるえる足でお互いに歩み寄る。手を触れ合っても、相手は凍らなかった。
嬉しさに瞳をうるませる。その涙は雪となって飛んでいった。
それから、2人は行動を共にした。どんな所へも一緒に行った。
やがて、●▲×は子どもを生んだ。彼らは3人になった。
彼女はもう寂しさを感じなくなった。仲間ができたから。……けれども、今いる所では全てを凍らせてしまう。
彼らは北の方へ向かった。それは長い長い旅だった。だが、彼女はべつだん辛くなかった。
――――彼らは今、北方の絶えず雪の降るところで仲よく暮らしているらしい。
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