第2話 steal (お題 スタンド)

 俺は人とは違う特技を持っている。それは、人の影を盗る事ができるのだ。

 いつからなのかは分からない。気がついたら、自然にやっていた。子どもの頃、夕方になって友達がみんな家に帰るというのでさみしくて、友達の影と遊んでいたら夜になってしまい、影たちが見えなくなって困っていたら心配して探しに来た母親に怒られた。

 それから、他の奴にはできないという事に気づいて、自分と同じ能力や違うけど変わった力を持っている者がいないかそれとなく探ったが、誰もいなかったのでこれはすごい事なんだというのが分かった。


 けれど、影を操る以外は特に何もできないし、放っておくとそれらは帰ってしまうのでそばにずっといてほしい時は何か策を講じなくてはいけなかった。

 影を取られても本人に支障はない。すぐには気づかないし、気がついたとしてもどうしようもないのだ。

 俺は成長するにつれて影を操る技術を磨き、自分の身の回りの世話をさせるようになった。そんな生活を送ってそこそこ満足していた。


 ある日、通りすがりに有能そうなビジネスマンとすれ違った。日常ではあまり見かけないタイプなので彼に目星をつけ、尾行して喫茶店に入った時に影をった。

 誰かの影を盗むと、ある部屋に三日ほど閉じ込める。そこはLEDライトやあかりが何台もあって、一日中煌々こうこうとしている。そこに放り込むと、それらは抵抗するのをあきらめて従順になる。そいつもその部屋に入れて、放置しておいた。

 奴はなかなかしぶとくて、一週間たってもまだ帰ろうとする。なのでもう三日ほど閉じ込めておいた。 その頃になると大人しくなったので外へ出してやり、召使いにした。

 俺の生活は順風満帆だった――はずだった。


 ある日ふと手を見ると、いつもより色が黒いような気がする。日焼けでもしたのかと気にも止めなかったが 一日、二日と経つとさらに濃さが増した。

 なんだ、これは……

 俺は不安になって病院へ行ったが、特に異常はないらしい。それ以外はどこも具合は悪くない。いたって健康だ。しかし、身体の色が確実に黒くなっていく。

 それに反比例するように、俺の影の色が薄くなってきた。うっすらと顔が見えはじめ、表情が分かるようになり、俺とそっくりの声でしゃべりはじめる。

 まさか―― 

 俺は焦燥にかられる。だが、どうしたらいいのだろう? 手を打つすべも見つからずに時は過ぎ、ある日気がつくと俺は地べたに寝そべっていた。


「……⁈」

 驚いて起き上がろうとするが、体が言う事をきかない。

「気がついたようだな」

 その声で視線を上げると、俺と同じ顔をした男がこちらを見下ろしていた。

「お前は――」

「残念だったな。これからは俺がお前の主人だ」

 そう言うと、男はこき使っていた影たちをすべて開放し、彼らは元のあるじの元へ帰っていった。

 「……」

 俺は言葉を失う。


「今日からはお前が俺の言う事を聞け。さんざん俺達を利用した罰だ」

 彼はそう言うと、酷薄こくはくそうな笑いを浮かべた。



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