File.11 巳の退魔士・転

 完全敗北。勝利の美酒は美味いというが、飲まされた苦汁は吐くほど不味い。目覚めた瞬間に視界映る見知らぬ天井、それは己の無力を厭になるほど訴えかけてくる。

「…ごめん、守れなかった。もっと早く駆け付けてればこんな事には」

「思い上がらないでください、莫迦羊。君一人の努力だけで打開出来る状況だったらもっとマシな結果だった筈。…悔しいのは僕だって同じです」

 同じ病室に寝かされていた深紫の少女の諭す声は震えていた。彼女の言う通り、あの豪雨ではどの道日辻の魔力は十全に機能しなかっただろう。どれだけ地の利で優っていたとしても、天運さえ敵に回ってしまったせいで千羽側の勝ちの目は薄れてしまった。今回ばかりは敵側の完勝と言わざるを得ないだろう。

「…不幸中の幸いと言うべきか、一般人の負傷者は僕以外にいないそうです。軽傷は白部の兵に十数人くらいいて、重傷は僕と君の二人。…死者が白部の妖側に七人、行方不明が一人」

「その行方不明を出したのが大問題って話だ。すぐ支度を済ませて助けにいかないと」

「思い上がるなって言ったでしょ莫迦。無策で行くなんて無理無茶無謀。そもそも何処に連れてかれたとかって分かってるんです?行動力だけあって計画力の無い羊は早死しますよ」

「何もしない鴉よりよっぽど有意義だ。こうしている間にも有希が苦しんでるかもしれないのに、動きもしないのは馬鹿以下だ」

 そんな手痛い敗北を味わった直後に病室で繰り広げられる舌戦。遣る瀬無い気持ちを抱えるのは双方とも同じ、だからこそ苛立ち混じりに吐く毒は次第に濃度を増していく。

「…あら、自殺願望があるならそう言えばいいのに。手伝ってあげた方がいいかしら?」

「邪魔するって言うならお前から殺してもいいんだよ?退魔士としての責務、果たさないとだし」

 そしてボルテージは直ぐ様最高潮を迎え、殆ど同時に戦闘態勢に移行した。二つのガウン姿が拳を、刃を構え、喧嘩紛いの延長戦を目前として。

「…抜刀準備―」

「退魔拳法―!」

「―はいはい、喧嘩するなら後でお願いしますねー」

 結果から言えば、延長戦そのものが先延ばしになった。臨戦態勢を取る二人の間に割って入った少女の声に、深紫の少女は重い嘆息と共に嫌悪を示した。

「…はじめまして、噂のヒト。こんな状況で顔出せるなんて、随分と肝据わってるんだね?」

「状況が状況でして。…日辻さん、そして夜叉さん。お二方にお話したい事があるのです」

 ―――淑やかながらも真っ直ぐ見つめる碧の瞳、長く伸びた深碧色の髪。騒動の渦中にある名を持つ退魔士の少女は、日辻と黒羽を前にゆっくりと、それでいてしっかりと言葉を綴る。

「改めて、私は退魔拾弐本家が一つ、蛇神へびがみの当主の娘でのぞみと申します。…どうか、私と共に羽生さんの救出に赴いて欲しいのです」




 ―――痛い。痛い。痛い。灼けるような痛みが全身を伝播する。

 ピントの合わないレンズのように霞む視界には、無駄に大きなガラス状の板とアサルトライフルを構えた私兵の姿。四肢は壁に張り付けるように拘束され、眼球の魔力は残り僅か。見張りと思われるあの雑兵を魔眼で処理出来るなら良かったが、生憎何かを視た所で現状を打破出来るとは思わない。それに、あのガラス板は恐らく私の眼鏡と同じで。

「………二ヶ月で二回も囚われの身だなんて。笑えないわね」

 強がりで吐き捨てる言葉さえ途切れ途切れ。流血と負傷のせいで体力の方も底が近い。悔しいし認めたくはないが、今この状況に於いて私が取れる行動は無い。ただ静かに助けを待つか、それとも果てが見えるのが先か。

『―――おや、目覚めたか』

 ふと、混濁する意識の中で聞こえた誰かの声。私が捕縛されているこのフロアの奥から微かに鳴る足音が一つ、二つ、三つ。内二つの足音の整合性から察するにそちらは兵卒だろうか。私の憶測が正しければ、警戒すべきは仲間外れのズレた足音。

『蛇神様、此方が例の魔眼の退魔士です』

『御苦労。…久しいね、愛娘よ』

「…ええ。二度と会いたくなかったわ、下衆退魔士」

 心の内から湧き出る殺意に伴いはっきりする視界。重装備の私兵を侍らせた蛇神と呼ばれた男を前に、血塗れの髪が静かに揺れる。

 あの転入生と同じ深碧色の髪を無造作に伸ばした、胡散臭い白衣の男。それは、かつて私の魔眼を狙った忌むべき讐敵にて暴霊獣騒動の黒幕。不敵に嘲笑う男を前に、錆鉄の乙女は灼ける痛みを堪えて侮蔑を向ける。

「…おや、その黄金色を向けてくれるとは。ようやく私に魔眼を託す気になってくれたのかな。だが残念だ、君の魔眼を解析するのは江戸に送ってからになりそうだ」

「あっそ。此処がお前の本拠地でないと解っただけ収穫ね。…そんで、蛇神家の当主様が何で此処まで出向いて来たのかしら?」

「おや、父が娘の記念日を祝うのに理由がいるとは」

 睨み合いは続く。かの憎き蛇神当主との邂逅が三分ほど続いた頃に、見張りをしていた私兵がハンドシグナルで合図を送る。

「…すまないね、私も多忙なのだよ。とはいえ一日後には江戸でまた逢えるのだ、楽しみにしてくれたまえ」

「言ってろ。精々指を加えて空の段ボールに胸を踊らせてなさい」

 蛇神の当主は背を向ける。凡その現状を把握したと同時に、限界値を迎えた気力が尽きる。去りゆく蛇神の背を回らない魔眼で睨みつけながら、私は再び意識を落とす。




 ―僕は退魔士が嫌いだ。否、厳密には退魔士も妖も半妖も皆一様に嫌っているのだが、特に蛇神の退魔士は屠るべき外敵であると睨んでいる。この町を、有希を目茶苦茶にしようとする悪性存在なんて、今直ぐにでも殺してやりたいと常日頃から思っていた。その蛇神の後継が今、わたしの前に現れたかと思えば「羽生の救出を手伝え」だなんて宣った。わたしの地雷原でタップダンスに興じるかのような言動の女に、短刀の切っ先を嫌悪と共に突き付ける。

「…望さんって言いましたっけ。君、自分が何言ってるか理解しているんです?羽生さんを連れ去ったのは君の」

「判っています。一連の暴霊獣騒動に加え、魔眼の退魔士の誘拐。それらは全て私の父、蛇神の当主の主導で企てられたもの。…それを承知した上で、私は頭を下げに来たのです」

「………はぇっ?」

 ………巫山戯ふざけてる。自らが蛇神の娘である事を、騒動の首魁が蛇神の当主である事を前提とした救出の依頼だなんて。なにそれ、意味が判らない。この退魔士は喧嘩でも売りに来たのか。羽生は私の父が捕まえたから取り返せるものなら取り返せしてみろ、なんて挑発のつもりか。それとも、今更善人面して身内の不始末を片付けようだなんて考えているのか。まさか、そんな事で赦してなるものか。そんな事で、今迄蛇神が重ねた罪が償えてなるものか。

「望、君が言っている事は蛇神の当主に対する叛逆だ。気紛れで言葉を並べたところで自分の首を絞めるだけだぞ」

「判っています、日辻さん。それに私は気紛れなどで口にしているのではありません。…前提として、私は父の蛮行を止める為にこの町を訪れたのですから」

「正気?」

「正気ですし本気です。…無理難題を並べている事は承知ですが、どうか力を貸していただけますか」

 ―その退魔士は誠実だった。彼女の言う通り並べる言葉は無理難題、それでいて荒唐無稽。けれど、わたしの短刀を前にして尚怯む事無く訴えかける度胸と自身の家を敵に回しても尚正しさを貫こうとする信念は評価できる。少なくとも真っ直ぐ見つめる翠玉の瞳からは欺瞞も傲慢も感じられない。判ってしまった、この望という退魔士は、きっとどの退魔士よりも真っ直ぐなヒトだ。

「…最終判断は日辻さんに任せます。僕はどっちでもいいですよ」

「えっ」

「嘘ぉ!?」

 驚愕の声を上げる二人を余所に刃をそっと収める。判断を委ねる、即ち協力の道でも納得するという意思表示。感情論の話であれば突き返すけれど合理を考えれば損は無い。彼女の精神性が信じるに値すると認めてしまった以上、首を横に振る理由は消え去った。他に出来る事といえばもう一人の当事者の意見に耳を傾けるくらい。感情論と合理性、日辻がどちらを優先しようと僕はそれに納得出来る。最終的にやるべき事が変わらないのなら、彼に結論を任せられる。

「…えっと、日辻さん…?」

「…こほん。有希の救出手伝ってくれるなら願ってもない話だ。宜しく頼むよ、望さん」

「は、はいっ!本当にありがとうございます、日辻さん、夜叉さん!」

「黒羽です。…そもそもこの人数で救出可能かどうかも怪しいですけどね」

 感謝を精一杯のボディランゲージで伝える望に嘆息で返す。確かに協力者の存在は有難いが、決して状況が好転した訳ではない。有希の居場所はあの行脚姿のおかげで心当たりがあるとはいえ、やはり無策で彼女の救出に向かうのは無謀と呼ぶ他に無い。そもそも此方側の頭数が一人増えたところで三人と極小数である事に変わりは無い。敵陣への潜入を伴う救出作戦に於いてこの戦力は心許ないにも程がある。救出への協力こそ認めたが実現可能かどうかは別問題なのだ。

「…取り敢えず、日辻さんと望さんで一応の方針固めといてください。目的地のカードキーだけ渡しときますね。後はよろしく」

「おっけぇ―って何それ!?黒羽君いつの間にそんなの持ってたのぉ!?」

「…ま、色々ありまして。取り敢えず一時間後に八十八やそはち公園集合、僕は支度あるので一回帰ります」

 ちょっと、と静止する声を気にも留めずガウン姿で病室を出る。あの青鬼にやられた裂傷はもう痛まない。何も救えないわたしだとしても、「何もしない」を選べる僕ではない。喩えこの手が有希に届かなくとも、今の自分に出来る精一杯を果たす為に一歩を踏み出すのだ。


「…行っちゃった。ごめんねぇ、あの子も有希の幼馴染なんだけど退魔士嫌いなんだよねぇ」

「妖なのですから当然ですよ。…けれど、黒羽さんも羽生さんの事を信じているんですね」

 黒羽が出ていった扉を見つめながら蛇神の少女は穏やかに微笑む。実の父の悪行を止める、その一心で単身千羽町に赴いた巳の退魔士に、未の退魔士はこほんと咳払いして口を開く。

「…ぼーっとしてるトコ悪いけど、ガチな話だ。一つ目、君はどうしてと黒羽君に有希の救出依頼したんだ?」

「…理由ですか。それは勿論、お二人が羽生さんと親しいからであって―」

「そう。なら二つ目、どうして有希が黒羽君と親しい事を知っていた」

「―――それは」

 青の双眸を見開くひつじに気圧されるへび。そうだ、千羽を訪れたばかりの彼女が何故彼女の交友関係を知っているのは不審という他にない。日辻との関係性については校内で観察していれば把握出来るのかもしれないが、黒羽との交友を知っている点は問い詰める必要がある。傍から見れば喫茶の従業員と客に過ぎない組み合わせを見て、どの要素を親しいと受け取ったのか。否、「はじめまして」と呼んだ黒羽の言葉を真に受けるならば接客の様子さえ知らない筈。ならば何故、彼女は黒羽と懇意と知って依頼したのか。

「…なんてね。大丈夫、その答えはもう聞いた」

「えっ………?」

 其処に糸目の昼行灯の姿は無かった。真空色まそらいろの鋭い瞳を向ける拾弐本家の退魔士、日辻 完二。羽生 有希という乙女の一番の理解者である青年は、ただ一人を救う為に何処までも冷酷になる。

「ほら、さっき言ってたでしょ。『一連の騒動は蛇神の主導』『父の蛮行を止めに来た』って。…協力はするけど、終わったら知ってる事全部吐いてもらうから」

 さて、先の問に対する回答を示そう。きっと蛇神の娘は全てを知っている。それは当主の協力者としてではなく、当主を止められなかった者として。暴霊獣騒動に関する蛇神の退魔士として、識るべき事を識っている。そんな彼女が誠実を以てこの町を訪れたとしても、誠実であるからと不問とするわけにはいかないのが現実だ。

 けれど、その真摯な姿勢を無下にする理由も無い。彼女に贖いの意思があるならば、それは一人の人間として尊重すべきものである。

「………その、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ、望。それはそれ、これはこれってね。黒羽君も察して僕に判断任せたんだろうし。それに僕達も困ってたんだよねぇ、有希の居場所がわかんないってぇ」

 居所の悪そうな様子の望に手渡されたカードキー入りの袋。再び目を細める日辻はのんびりとした雰囲気に戻り、ベッドの横に置かれていたスマートフォンを手触りだす。彼なりの気遣いを受けて、望の表情にも少しばかり落ち着きが戻る。

「それじゃ、案内宜しくねぇ」

「………はい!こちらこそ宜しくお願いします!」

「わぁ元気。それじゃ、こっちも準備しないとねぇ」




 千羽町を横断するように流れる九十九川つくもがわ、そこに面した八十八公園付近の大きな丸土管を通った先にある地下水道。その最奥にある旧管理施設を利用して作られた研究施設の中で赤髪の行脚は嘆息を溢す。

夕立ゆうだち?もしかして疲れてるー?」

「…お気遣い感謝します、藍立あいだち。戦闘の後は…その、お腹が空きまして」

「そうなんだー。今日時殺した妖のお肉あるけどタレ焼きでいい?」

「…いえ、妖の肉は遠慮したく」

 藍立と呼んだゴスロリ服の青鬼の無邪気な笑みに頭を抱える夕立。研究所の中とは思えない野蛮な会話を受け流しながら、笠越しに部屋の奥から気配を放つ魔力塊を見遣る。

「ふむ、夕立よ。その〈神化論シンカロン〉が気になるんじゃな?」

「…シンカロン?暴霊獣ボレズではなく?」

 隣に立つ髭面の退魔士の言葉に夕立は首を傾げる。この老骨曰く、この巨人の姿をした魔力塊は霊薬によって造られた人造の霊獣だという。錆鉄の退魔士や日辻の退魔士を一撃で吹き飛ばした怪物の脚を撫でながら誇らしげに語りだした。

「暴霊獣というのは白部の妖が勝手に付けた名じゃ。ならば神化論で相違あるまい」

「長いので暴霊獣でいいです、取戸とりど様」

「じゃから神化論だと言うとるじゃろう!」

「爺、煩い」

 巨人の名称でムキになる取戸と呼ばれた髭面、どうでもいいと告げる夕立。同じく興味を示さず戦斧の手入れに熱中する藍立。三人が言葉を交わす部屋の奥には、保管庫と書かれた扉が一つ。

「あ、爺。そう言えば例の退魔士はどうするの?暴霊獣の素体にして遊びたいんだけどー」

「…もう好きに呼べばいいわい。あの錆鉄の退魔士は蛇神様の大事な娘じゃからの、あと半日したら江戸に輸送準備をする。勝手に傷付けるでないぞ」

「ちぇー、つまんなーい」

 口を尖らせて抗議するゴシックロリィタ。最大の障壁であった羽生の捕獲を終えた今、研究所に与えられた指名は規定時間までの待機のみ。しかしこの地下水道には魔力感知対策の結界が張り巡らせている為存在を知る事こそが困難、足跡も空間転移を使用している為辿りようがない。仮に発見されようとも地下水道全体に対敵用の暴霊獣と式神を各五十体配置、監視カメラと研究所内の退魔士百余人の存在もあって護送までの時間は難なく稼げる手筈。最早全てが片付いたも同然、と老骨は嗤う。

「さて、儂はあの錆鉄の様子でも見ておこうかの。お前達はゆっくり茶でも飲んで―」

 刹那、部屋中にサイレンがけたたましく鳴り響く。突然の警報音と赤く光るランプ、伴い巨人の暴霊獣が起動。慌てふためく取戸と藍立を余所に、夕立は笠を被りなおして立ち上がる。

「…来ましたね。取戸様が余計な事言うから」

『大変です取戸様!監視カメラが全機停止、水道の神化論と式神の反応も立て続けにロストしています!』

「なんじゃと!?総員警戒態勢、儂は巨人ギガスと共に錆鉄の警衛に回る!藍立は―」

「やったあ!丁度退屈してたんだよねー!爺、ワタシ行ってくる!」

「全く、人の話を聞かんヤツじゃ!まあ良い、夕立も表に出て侵入者を殺してこい!」

「…それがご命令とあらば」

 放送の声と部下に指示を出し保管庫に向かう老骨。そして藍立と夕立は得物を手に廊下を駆け抜け、エントランスホールを通って自動ドアを木端に砕く。

「アハハハハハハハハハハハハ!さーて、どうやって殺そうかな―」

『お前が死ね』

 瞬間、藍立を吹き飛ばす死角からの一撃。建物の影に潜んでいた侵入者のブーツが、青の鬼を水路の向こう側まで蹴り飛ばす。

「藍立…!?」

「いったぁ!?隠れるなんて卑怯なんだけど!」

「悦楽の為に多くを殺した悪鬼が正道を謳うんだ?ワガママ並べてお姫様みたい。あら可愛い」

 一撃の主は軽口と共に衣服を整える。季節外れのコートを纏い、翠のマフラーと深紫の長髪を靡かせて。地下の戦場に立つ夜叉は、敵意と共に小刀を抜く。

「うるさいうるさいうるさい!その減らず口ごと切り刻んであげる!」

「玉葱切るのが関の山でしょ。…それじゃ日辻、有希のレスキューお願い!」

「…オーケー、任された!」

 夜叉の声に合わせ、藍立の背後を駆け抜ける影。侵入者の目的に気付いた悪鬼が対応しようにも眼前の深紫に食い止められるだろう。けれど彼女の心には余裕があった。この場にはもう一人、外敵を食い止める英傑がいるのだと。

「夕立、ソイツ止めて!」

 にやりと口角を上げる青鬼。あの錆鉄さえ沈黙させた彼女であれば侵入者の一人くらい余力を残してなお捕らえられる。二人に対して二人で切り抜けようとするなんて、彼等は随分と甘く見積もったものだ。その証拠に駆け抜ける足音がもうじき止まる。

「………あれ?夕立?夕立ー!?」

 しかし、誰も現れなかった。呼び掛けに応える音はなく、ただエントランス側に遠ざかる足音が鳴る。なんで、と何度か呼び掛けたところで、悪鬼はようやく現実を見る。

「………逃げた!?」

「あら可哀想。…さてと、邪魔もいなくなったし」

 地下水道に反響する水の音。夜叉の目標は有希の救出、その為に手段を選ぶつもりなどない。救済の一助となるのならば、相手が誰だろうと容赦はしない。


「…それじゃ反撃戦リベンジ、始めようか!」

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