File.10 巳の退魔士・承
物心付いてからずっと、知らない誰かの記憶があった。
私を違う名前で呼ぶ誰か。私を力任せに押し倒す誰か。私を悪と見做し呪いを贈った誰か。知らない筈の誰かが親愛を、熱情を、或いは呪詛を向けてくる。全く身に覚えの無い思い出が、あたかも自身の物であるかのように焼き付いて。
『姉様達と暮らす日常は善かった―けれどあの海神が全部目茶苦茶にした―そして女神は海神では無く私を悪と断じた―そのせいで―許さない―赦さない―釈さない』
胸の内で灼けるように反響する衝動。判っている、この親愛も、この怨嗟も、この憤激も私の物じゃない。他人の感情を押し付けられるような感覚、同調を求めるような衝動。或いは、全てを『私』に委ねてしまえと唆す甘言。
―黙れ。黙れ。黙れ。私は私だ、この身体もこの感情もこの衝動も〈私〉のモノだ。何処の誰とも知らぬ誰かに明け渡す程、私はお人好しじゃない。未練たらたらで輪廻の波に乗ってきた
―――私は、その想いごとお前を喰らってやろう。
『…羽生さん?』
「…ごめんなさい、少し考え事してた」
スマートフォンの向こうから聴こえる嘆息に意識を引き戻される。放課後の教室、未だ鳴り止まぬ雨音の中、乙女は或る問題について思考を逡巡させる。
―
『…事情は把握しました。私達
「そっちは日辻が退魔士共を探ってくれてるわ。こっちも知り合いと色々調べてみる。…それじゃ、何か判ったら連絡頂戴」
『了解致しました。…羽生さんは待ちの姿勢でお願い致しますね。決して逸らぬよう』
本日何度目かの逸るなとの忠言と共に切れる通話。全く、日辻と言い白部のお姫様といい私の事を何だと思っているのだろうか。短気の過ぎる不良少女と見られているか、引き金の軽いトリガーハッピーとでも目されているか。日頃の行いのせいと言われれば否定出来ないような気もしてくるのだけど。
「…考えても仕方無いか。そろそろ帰ろっと」
蛇神の退魔士が表舞台に姿を見せた、その一報は千羽の戦力を動かす理由としては十分足り得るものだった。日が落ちる頃には町の何処に居ても調査や警戒に出向いてきた白部の妖の姿が目に映るようになって。どうやら白部にとっても暴霊獣、及びその首魁と目される蛇神の退魔士は目下の課題らしい。
一つ意外だったのは、白部の妖のみならず退魔士連中も同様に蛇神に関する情報を募っていたこと。彼等は蛇神の肩を持つものかと予想していたが、少なくとも千羽の町に居を構える退魔士達は蛇神は退魔士であっても味方ではないと判じたらしい。結果として千羽が誇る戦力の大多数が情報を求めて町中に散開している事態となっている。
「―成程、これが千羽。退魔士も妖も町中を堂々と歩いているとは、壮観じゃな」
未だ降り止まぬ長雨に打たれながら、髭面の老人が言葉を紡ぐ。横に控えるはゴシックロリィタ風の少女に笠で顔を隠した赤髪の影。その者達の悪意に千羽の町は未だ気付かない。癌細胞の如く静かに町を蝕む脅威を知る事無くのうのうと暮らす千羽の民の姿に、老骨は滑稽だと言わんばかりに口角を上げる。
「爺、ワタシも行っていい?待ってるばかりじゃ退屈ー」
「
「…分かってますよーだ。
「…行脚なのは風貌だけですが」
藍立と呼ばれたゴスロリ少女の嫌味に嘆息で返す行脚姿の夕立。傍らで揉める二人を老君は咳払いで宥め、再び口を開く。
「さて、準備は整った。千羽の連中が儂等の存在に気付かなった時点で、既に成果は得たも同然」
―蛇神の娘を表舞台に立たせた理由。それは挑発でも宣戦布告でも無い。ただ単純に、彼女が最も目を引く存在だったから。簡潔に言えば、あの娘は『本命』に気付かせない為のただの囮。上質な疑似餌に気を取られる内に、この町は漁網に掛かっていたのだ。
「―――それでは、『実験』を始めるかの」
「………いいえ、気付いていましたとも」
判っていた。判っていたとも。本命の存在くらい、あの錆鉄の退魔士から電話を貰った時に勘付いていた。
「雀さん、兵を集めてください。迎撃態勢を」
「承知しました。…しかし、姫様。何故蛇神の退魔士が囮だと気付いたのです?」
「私が蛇神の立場ならそうするので」
番傘を携え、白亜の少女は遠くを睨む。ぴこんと跳ねる獣の耳、着物の下で迸る電光。迫りくる敵意悪意を睨み付け、千羽の姫は妖力を籠める。
『伝令、伝令!遠方六キロメートル先、暴霊獣と思わしき敵性体を三匹確認―』
「私が出ます」
瞬間、少女は雷光を重ねて大地を蹴る。文字通り雷鳴となって町を照らし、目標まで十八秒で駆け抜ける。
「目標、発見」
上空から暴霊獣と目される外敵を捕捉し、手にした傘の先を向ける。魔獣の群れが彼女の存在に気付く頃には、雨空が白光に照らされて。
「打ち鳴らせ、『
雷火と共に少女は吼えた。白雷に包まれコンマ数秒で灰と化す人造生命。獣耳の少女の足元には、先刻まで巨躯を晒していた灰砂だけが遺る。
「…造作も無い。本気なんです、コレ?」
―千羽の
「…えー、テステス。こちら響、敵性体全て撃破―」
『大変です姫様!二秒前、千羽町中心部に突如として暴霊獣が複数出現、現在交戦中―』
「…了解しました。退魔士連中や羽生さんに増援頼みます」
雨夜に響く阿鼻叫喚、行く先々で鳴る剣戟。闇夜に紛れ現れた獣型の暴霊獣の群れに、千羽の町は兵を率いて交戦する。
「図体はデカいが前例ほど強くは無い!一体に対し複数人で仕留めるのだ!」
白部の妖の指揮官は優秀だ。ものの数秒で敵の戦力を見抜き、荒くれ共を束ねて着実に戦果を挙げている。退魔士連中も対霊獣戦闘に関しては善戦しているが、やはり有事の際の対応に関しては治安部隊を兼ねる白部の妖の方が頭一つ抜けている。
「…ふぅん。やっぱり対応早いわね、貴方達」
「来たてくれたか、錆鉄の。…改めて、私は―」
「―送り雀。ちゃんと憶えてるわよ、私の腹刺した相手くらい」
手厳しいな、と返す翼の指揮官に笑みを返し、改めて魔眼の乙女は敵を睨む。狼のような相貌の霊獣が目測にして十六頭、眼鏡越しに捉えた核は獣の剥製。一頭辺りの魔力量から察するに戦力としての質は妖の一般兵一人より少し上ぐらいだろうか。どうやら黒幕は質より物量で押す戦法を選んだらしいが、その程度で遅れを取る私ではない。
「なるべく建物は壊すなよ。住宅街だと被害の隠匿が面倒だ」
「ま、善処はするけど」
嘆息と共に眼鏡を外し、学生鞄から瞬時に
『オマエ ウマソウ ダナ―――』
「…全部捉えた、『
瞬間、視界内の魔獣の群れが停止する。飛び掛かる獣は空中に縫い付けられ、ただ滴る涎だけが動きを見せる。全く、魔獣というのは実に滑稽だ。強い魔力に惹かれる性質上、私の魔眼に目を向けずにはいられないのだから。
さて、魔眼で止めれば後はただの作業だ。瞳から解いた魔力を一秒で手車に重ね、また一秒で群れに放つ。相手が獣の
「『
魔力を籠めた手車の回転が、一閃と共に霊獣を霧散させる。魔力性の肉を削り取り、化物の核を叩き潰し。鋼鉄の手車が闊歩した跡には、無惨な姿の剥製の群れだけが残っていた。
「…はい、おしまい。他に暴霊獣の報告は?」
「町の端に群れが集まっているが、拾弐本家の退魔士が出向くとの連絡があった。此処からの距離を考えると救援に向かう必要は無いだろう」
「そ。…なら、蛇神でも探そうかしら。日辻はあの子の捜索に行ってるらしいし」
軒先で鞄にしまった眼鏡ケースを再び取り出し、雀の剣士に手をひらひら振って雨夜を行く。
あの蛇神を名乗った転校生が暴霊獣襲来の為の囮というのは解った。しかし全ての疑問が解けた訳ではない。蛇神の彼女が現れた理由は囮としての役目を果たす為だけだったのか、それとも何か別の目的を持って千羽に足を踏み入れたのか。或いは、計画の立案者に巻き込まれただけの―――。
「…まさか。蛇神は敵、それは私が一番判ってる」
レンズの向こうの蛇眼は静かに燃える。そうだ、奴等の今までの所業を忘れてはならない。蛇神は齢四つの私を狙い、千羽の町に逃げ延びてなお私を捕らえる為の刺客を差し向けてきた。現に今だって奴等は暴霊獣を放って千羽の町を目茶苦茶にしている。そんな奴等に向ける同情なんて持ち合わせてはいない筈なのに、どうして私はそんな事を考えて。
『………何か困り事かね?小娘』
「え」
―本当、何を考えていたんだろう。そんな事を考えている余裕なんて、何処にも無かった筈なのに。
―――目の前の世界が血の赤に染まる。
地面に転がる死体は六つ―たった今増えて七つ。つい五分前まで暴霊獣を討滅して喜んでいた筈の白部の兵が、臓物の
「アハハハハハハハハハハハハ!たーのしー!」
「………何、してるの」
血溜まりの向こうに立つ命は一つ。身の丈以上の戦斧を手にしたゴシックロリィタ風の衣装の女。青の髪の間から覗く黒の角から察するに鬼の類と推測する。羅刹の女は此方に身体を向ける事無くにたりと嗤う。
「何って、遊んでただけだよ?でもつまんない、このコ達すぐ壊れちゃうんだもん」
「………殺す事が、遊び、ですって」
「うん!だって楽しいもん。…もしかして、キミも遊んで欲しいの?」
悪鬼の斧が此方に向く。判っている、タイミングから察するに恐らくこの羅刹の女も暴霊獣の群れと同じく蛇神の刺客なのだろう。悦楽の為に多くを殺し嗤う悪鬼に対し、敵意を向けながらそっと距離を取る。
「キミの事は知ってるよ。暴霊獣の霊薬に抗ったって噂の〈夜叉鴉〉、
「…夜叉を名乗った覚えは無いんですが。それと遊びに付き合う暇も無い。急いでるので」
「気にしなくていいのにー。どーせすぐに終わるんだし」
―壊れた心が全力で警鐘を鳴らす。判っている、真正面から戦って勝てる相手じゃない。そもそも僕は戦の心得など持ち合わせてはいないのに、立ち向かうのは無謀に等しい。避難誘導の為に駆り出されただけのわたしが意地を張ったところで、一瞬で屠られて無惨な鳥ミンチと化すのが関の山。即ち、今の僕が取るべき最適解は。
「…それじゃ、遊ぼっか!」
「―『
羅刹が踏み込む瞬間、一気に後方に踏み込んで撤退、伴い身の内の妖力を放出する。三十六計逃げるに如かず、撤退こそが最善の策。
「クソッ、逃げないでよ!」
そもそも戦力差が明瞭なのだ、白部の兵を玩具を壊すように殺して回る妖になんて僕が勝てるワケが無い。救えないわたしが、一人でアイツに勝つ方法なんてあるハズがない。
「…まずは羽生さんと合流しないと…!」
「こんのっ…!逃げるなって言ってるでしょ!」
逃げるなと言われて歩みを止める莫迦が何処にいるのだ。幸運にもこの大雨で視界は劣悪、加え地の利は此方にある。込み入った路地裏にでも逃げ込めばあの青鬼を振り切るのは簡単だ。
「…そんなに遊びたいなら付き合ってあげます。例えば…フリスビーなんていかがでしょうか!」
駆けるブーツでそのままマンホールを踏み抜いて取り外し、そのまま追手の方向に蹴り飛ばし―そして一瞬で戦斧によって叩き壊された。けれどマンホールに視線が向いた一瞬、斧を振り抜いた一瞬さえ得られれば問題は無い。細い裏路地の影に飛び込んでしまえば僕の勝ちだ。
「何あの脚力!?マンホール蹴り上げるなんてヤバすぎ…って、逃げられた…?」
―――やった。何とか振り切った。自分の無力を何度も呪った僕だけど、無力なりに逃げ延びた。例えあの鬼が妖力の感知に長けていようとも、逃走中に撒き散らした僕の妖力がチャフのように奴の感知を阻害する。そのせいで妖力の大半を使い切ったような気がするが、逃げ延びる為なら必要経費と割り切ろう。兎にも角にも、なるべく早く羽生さんと合流して状況を報告しないと―――。
『―れは私が一番―』
「………羽生さんの声?」
良かった、町を這々の体で探し回る必要が無くなった。あの悪鬼羅刹と再び鉢合わせる前にこの路地を抜けて現状を伝えないと。大丈夫、僕と違って彼女は強い。羽生さんならあの青鬼なんて簡単に対処出来るんだから。
「羽生さん!良かった、探しました―」
―――瞬間、僕の横に飛び込む人影が建物を砕く。撒き散らす鮮血の紅が目に映り、ガラスと木材が砕け散る音が反響する。逃げ延びた筈の地獄の先に辿り着いた途端、また新しい地獄が視界に飛び込んだ。
「………クソッ、油断した」
コンマ一秒の奇襲に吐き捨てる。魔眼抑制の眼鏡は砕け散り、私が吹き飛ばされた箇所にはクレーターが出来上がり。思考は回る、視界も明瞭。けれど右手は動かない、
「羽生さん!?」
「…黒羽君?貴女、確か避難誘導してたんじゃ…」
「今重要なのはそっちでしょう!?一体誰が―」
駆け付けた深紫の少女に視線で合図を送る。二人の視線の先には、髭面の老人と瞳の無い巨人の姿。目測にして凡そ五十メートル程の巨躯を誇る人形の拳には、私を襲った時に付いたであろう血が雨水と混ざって滴っている。
「………羽生さんに何してんの、お前」
「出会い頭に失礼だの、紫の小娘。儂等はただ、蛇神様の娘を連れ戻しにきただけじゃよ」
「あっそ。ならさっさと死に晒せ!」
刹那、怒号と共にアスファルトを蹴り飛ばす深紫。ぶかぶかのコートの袖の中で小刀を握り、一瞬の跳躍と共に髭面目掛けて刃を振り抜く。
「藍立」
しかし、その一閃が老君に届く事は無かった。髭面の退魔士の呼び声が鳴った瞬間、マフラーの少女は小刀の一撃ごと大地に撃ち落とされた。
「やっと見つけた。追いかけっこは私の勝ちー」
「よくやったの、藍立。ところで夕立はどうした」
「あー、何か白部の幹部とやり合ってるってー」
くるりと戦斧を回す迎撃の主たる青鬼はくすりと笑う。それにしても、今なんと。蛇神の娘を連れ戻しに来たって、何。あの蛇神の退魔士は当主の娘で、態々千羽まで家出しに来たとでも―否、そんな訳があるか。どうやら私はさっきの奇襲で頭も打ち付けたらしい。
「…さて、『蛇神 有希』よ。お父様が首を長くして待っておる。疾く帰路に着きなされ」
「…あのクソ野郎の娘になった覚えは無いのだけど」
「…ふむ。娘を連れ戻す為なら手段は問わぬと当主様から言われておるのでな。そうさなぁ、日辻の倅やそこな妖を殺せば帰ってくれるかの―」
「黙れ。そんなに死にたいならどいつもこいつも縊り殺してやるわよ。私の大切なモノを、蛇神なんかに奪われてなるものですか!」
嫌悪と共に魔力を回す。先刻の奇襲の主はあの巨人だ、魔力反応からしてアレも暴霊獣なのだろう。けれど瞳の無い敵には私の魔眼は通じない。ならば先に取り巻き二人から殺せばいい。ただ殺意の向くままに、害悪共を屠ればいい。そうだ、悪女なら悪女らしく暴虐の限りを尽くせばいいんだ。
「『
「
「―お願い、日辻!」
再び振り下ろされる巨腕、しかしてその一撃は白亜の壁に食い止められた。豪雨ですぐに萎むその障壁の主は、氷のような蒼の瞳を見開いて。
「…ごめん、遅くなった」
「本当によ!日辻はソイツお願い、私は取り巻き共から殺すから!」
合図を出し、瞳の魔力を解いて全身に巡らせてアスファルトを蹴り飛ばす。まずはあの糞爺から潰す、弱い奴から先に仕留めるのは
「速い―」
「砕け、『
防御の暇など与えない。魔力を込めた飛び蹴りの一撃は確かに髭面の首を狙い、そして肉を捉えた感触が革靴越しに伝わって。
「…ふ、甘いの」
けれど、想定していた骨を折る感触は無い。そもそも捉えた感触は老君の相貌から予想していた物とは大きく違っていた。老骨のものより随分と密度のある、若い筋肉の感触と知ってようやく霞んだ現実が視界に飛び込んでくる。
「助かった、夕立」
「また増援…!」
私の蹴りを防いだのは、赤の長髪を濡らす笠被りの妖。折角日辻が駆け付けて優位を得たと思ったのに、これでは勝ちの目がまた見えなくなって。
「…これも仕事なので」
瞬間、意識が霞む。どうやらあの笠被りから重い一撃を貰ったらしい。
「有希………!」
―駄目。私はまだ、此処で死ぬ訳にはいかないのに―
ばたん。鳩尾への一撃を喰らい、錆鉄の退魔士は沈黙する。
「こっのぉ………!」
「余所見はいけんの、小僧」
そして、日辻の退魔士にも巨人の一撃が降り注ぐ。綿の壁も豪雨のせいで柔くなり、致命こそ免れたが意識を落とすには十分な威力だったらしい。錆鉄が、日辻の退魔士が、夜叉の鴉が豪雨の町に無様を晒す結果となった。
「…ようやく片付いたわい。巨人よ、魔眼の娘を研究所まで運んでくれ」
「爺、他の二人は殺しとくー?」
「捨て置け。放っておいても死ぬわい」
「…
「ふぅむ。ならカードキーの予備を渡しとくわい。それがないと入れんからの」
取戸と呼ばれた髭面の退魔士はプラスチックの袋に入ったカードキーを手渡し、ギガスと呼んだ巨人と藍立と共に千羽の夜闇に紛れて文字通り姿を消した。
「…空間移動、だったか。便利な魔力持ちがいると違うな」
ふと、赤髪の行脚は笠を外す。強雨で濡れる前髪を手櫛で掻き揚げ、短い角を外気に晒しながら雨雲を睨む。
「…あー、クソ。命令とはいえ魔眼の姉ちゃんには酷い事しちまった。やっぱ気分のいいモンじゃねェな、密偵って」
「…なんの…つもり…?」
「お、やっぱ半妖の方は意識はあったか。そんじゃ話は早いな」
言って、赤髪は夜叉の前に先程受け取ったプラスチックの袋を投げ捨てる。そして再び笠を被り直したかと思うと、背中を向けてひらひらと手を振った。
「………待って。本当になんのつもり」
「そういうのは無粋って言うんだぜ。万一お前等にその気があるって言うなら俺は邪魔しねェ。精々頑張れ、
「…るっさい、
そして、夕立と呼ばれていた行脚姿も夜闇に消える。追い掛ける体力どころか立ち上がる気力さえも僕には無かったけれど、けれど一縷の希望に手を伸ばす事だけは。
「完全敗北、キッツいなぁ………」
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