第3話

 しんしんと雪が降る。深夜から降り続いているこの雪はこの町を白く染め上げた。

 朝、起きると息も白くなっていた。身を竦める程の寒さだが、気持ちを切り替えるためにも窓を開けた。

 刺すような冷たさの空気が部屋へと流れ込んできた。この寒さがマンドラゴラの薬効を高めるのだと彼から聞いた事を思い出した。


 狐森家は薬師としての顔も持つ。特に、マンドラゴラはこの地域では狐森家しか栽培が認められておらず、狐森家と言えばマンドラゴラの薬だと思い浮かべる者も少なくない。

 マンドラゴラは年末に収穫される。この地域では収穫したマンドラゴラを祭壇に飾る風習がある。それを終えて漸く年を越すことができるのだ。

 マンドラゴラの収穫は僕も参加する。狐森家に連なる全ての人はこの行事に加わる義務があるためだ。

 マンドラゴラの収穫は一般的には危険が伴う作業である。引き抜いた際に上がる叫び声が人を殺める、というのは有名な話だろう。しかし、狐森家では、秘伝の薬品をマンドラゴラに注射することで、この叫び声を抑えることに成功した。叫ばないマンドラゴラの収穫は人参と変わらない。ただ、伝統として人の手で抜かなければならないのだ。

 彼が初めて薬品を調合した時のマンドラゴラを収穫したのは僕だった。自分で抜くと言って聞かなかった彼を説得するのは大変骨が折れた。彼が調合したのならば誰よりも安心して抜けるよ、と何度も伝えたのだ。本心を言えばこうだった。彼が調合した薬品で死ぬ事になったとしても後悔はない。そのためにこの家に引き取られたのだから。

 僕が今も生きている事からもわかる通り、彼の調合は完璧であった。あの夜、僕らは二人だけで祝杯をあげた。そして、改めて誓ったのだ。この人に遣え続けると。

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