第2話

 マンドラゴラを育てて二ヶ月が立つ。葉は青々と輝き、秋の風がそれを揺らす。

 この季節が訪れると彼の舞を思い出す。それは幼少期の美しい思い出の1つだ。


 彼はこの家の次代当主として過保護に育てられていた。僕はその相手に身繕われた形で狐森家に引き取られた。

 狐森家はこの地域では知らぬ者はいない程の呪術士の家である。祭事や政治には欠かせない役割を担っていた。

 彼もまたその役割を全うするための英才教育を施された。神事の際に踊る舞を徹底的に仕込まれる。それを密かに僕に見せてくれたことがあった。

 それは月明かりが綺麗な夜だった。彼と二人だけで舞殿に忍び込み彼の舞を観賞した。

 そこは月明かりが差し込む構造になっており、踊場は灯りが無くともよく見えた。彼はそこに立ち、一息つくと踊り始めた。

 彼の舞はどこか軽やかな印象があった。本来の舞は腰を落とし重厚な雰囲気を見る者に感じさせるものである。しかし、彼のそれは心行くままに踊っているかのような、まるで見せ物のダンスのような、そんな風に思えたのだ。

 軽快に舞う彼を月明かりが照らす。丁寧にといである髪はその光に当てられて銀色に輝いていた。

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