第93話・対元凶⑧
「がああああああ!!」
「ぐがあっ!! この感覚、この痺れ!! 貴様、マザーと融合したな!?」
俺の繰り出す槍を捌きながらゼウスが問いかけてくる。やはりと言うべきか、ゼウスはマザーのスキルを知っていたな。
そして、その知識を現状の変化に直結させる。
(汐、ゼウスが対策を取る前に決着を付けるべきです!! この男は私を知り尽くしている!!)
(マザーの意見に同意だ!! 速攻でケリを付けてやるぞ!!)
マザーのスキル、それは麻痺攻撃と影を縛り付けるものだ。俺の攻撃を当たり続ける限りゼウスに麻痺を付与させることができる。
俺は攻撃の手を緩めたらダメなんだ!!
「貴様!! 俺の影を縛っているのか!?」
「そうだよ!! ゼウス、俺がお前を一方的に攻撃してやる!!」
俺の攻撃がザクザクとゼウスに当たり続ける。当然だ、俺はゼウスの影を縛りながら麻痺効果を付与し続けているんだ。
ゼウスの影を縛ることで、こいつの動きを強制的に束縛する。その上で麻痺攻撃を付与し続けているのだから。ゼウスが動ける道理なんてないんだ。
俺はゼウスをハメているんだ!!
俺の圧倒的優位、この現状を表現するならばそれだ。だが、不安要素がないわけでもない。
そして、それを知っているからこそマザードラゴンも俺に早期決着を勧めてくるわけで。
俺は攻撃に集中しすぎていたらしい。ゼウスを如何に早く沈めるか、俺の頭はそのことで一杯だったから。だから、この大広間に近付く人の気配にも気付かなかったらしいな。
「この状況は何ですの!?」
後ろからヴィーナスさんの叫び声が聞こえてきた。俺は後ろを振り向くことはできないから。だから足音だけで状況を判断するしかない。
ヴィーナスさんだけじゃない、イジューインさんにファントムスレイヤーの二人も大広間に駆けつけてくれている。
彼女は王族、護衛も付いてくるのは当然か。
と言うかジョルジョルの言っていた一時間が経過したのか、だが今の俺にとっては都合が良い!!
「ヴィーナスさん、悪いけど倒れている奴らをここから運び出してくれ!!」
「汐さん!! まずは、この状況に至った説明を……。」
「そんな余裕はない!! 今は俺の言う通りにしてくれ!! できれば、そこにいる魔王も頼む!!」
「魔王を!? 何故ですの!? あなたは魔王を倒すために戦っていたのでしょう!? それに、あなたが戦っている殿方。其方は……。」
「頼む!! 今は本当に余裕がないんだ!!」
俺はヴィーナスさんに無理を言っている。何しろ、一切の説明もなく頼み事を押し付けているのだから。
それにヴィーナスさんにとって仇であるはずの魔王を助けろと言っているんだ。彼女から反発を受けてもおかしくないわけで。
だけど本当に余裕がないんだ。俺はゼウスをハメつつ、圧倒的優位に立っている。それでも余裕があるわけではないんだ。俺が気を抜けばゼウスに自由を与える結果になりかねないから。
(ヴィーナス、このマザードラゴンの名の下に命じます。丸木 汐の言う通りにしなさい。)
マザーはヴィーナスさんとも頭の中で会話が可能らしい。それは彼女が生まれた時点でマザーに血を分け与えてもらっているから。
この国の女王は生まれた時点でマザーとの会話を許されてるのだと言う。
(え!? マザーがそこにいるんですの!?)
(汐と融合しました。とにかく急いで死傷者を運び出しなさい、……これは命令です。)
(……心得ました。)
「全員で死傷者を飛空艇まで運び出します!! イジューイン、ファイスにマークツー!! 急ぎなさい!!」
「「「はっ!!」」」
ヴィーナスさんがマザーの命令に従って死傷者を運び出してくれる。彼女の指示に従って護衛の三人が全員を担ぎ上げてくれた。
ヴィーナスさんのおかげで俺の憂いは全て取り除かれた。彼女には感謝の念しか浮かばない。そしてヴィーナスさんは俺に一瞥しながら、一言だけ残して大広間を去って行った。
「……あなたは生き残って下さいましね。」
「……ありがとう。」
『あなたは』、か。つまり雷太のようにはなるな、と言うことか。
彼女なりの檄なのだろう。だが、彼女の姿を見て俺は確信してしまった。俺の考える『不安要素』は存在すると。
ヴィーナスさんの姿を見てゼウスの表情が一変したんだ。やはりゼウスは『あのスキル』を使えるんだ。
ゼウスのスキルや武器はサウザンディ王国の王家が所持する神具と同じ効果を持っている。つまり、ヴィーナスさんの神具と同等もしくは、それ以上に効果を持つスキルをゼウスは使えると言うこと。
ーーーーアイギス。
己の意に反するものを攻撃する強力な大量破壊兵器。山を一つ丸々破壊できるスキルをゼウスは所持しているんだ。
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