第92話・対元凶⑦

 ゼウスの動きは明らかに俺のそれを凌駕していた。さすがは神と言うべきか。


 俺とパベルを掴むため手放したアダマスを再びその手に握りしめて俺を攻め立てる。


 対する俺はと言うと、急所を守る事に手一杯の状況。俺は一刻も早くガイアの治療を開始したい。


 だがゼウスがいる限り、それは叶わない。だったら、先にゼウスを倒すだけの事。にも関わらず俺は攻撃に転じれない、攻撃をしなければ勝負には勝てないと言うのに。


「さっさと沈め。俺の手を煩わせるな。」


 ゼウスは不機嫌な様子で俺を攻め立ててくる。イラつくも焦らず淡々と俺を攻めてくる。


 この神は本当に余裕があるんだ。俺は攻勢に転じるチャンスを掴めずにいた。


(……丸木 汐。聞こえますか?)


 俺の脳裏に聞き覚えのある声が聞こえた。耳にではない、脳に直接聞こえてくるように感じる。


 なんだ?


(私はマザードラゴンです)


(マザードラゴン!? どうして、あんたの声が俺の脳に響いてくるんだ!?)


 声の主は魔王によって倒されたマザードラゴンを名乗った。どう言うことだ?


(あなたは魔王から私の力を譲渡されました。あなたは融合者となったのです。三大獣は融合者と意思だけで会話が可能になるのです。)


(ちょっと待て!! 俺は、見ての通りで余裕がないんだ。ゼウスの攻撃を裁くので手一杯なんだよ!!)


(……そのようですね。ですから簡潔に要件だけを伝えます。私がゼウス討伐に協力しましょう。)


(!! 良いのか? あんたは地上神だったか、とにかく神なんだろ?)


(ゼウスは危険と判断しました。如何に絶対神でも、神の頂点に君臨するにあるまじき行動が目立ちますので。)


 この絶対絶命の状況下で、マザーの協力の申し出はありがたい。俺はマザーと戦ったことがあるから、よく分かる。


 彼女の助力は何よりもありがたい。


 だが……。


(……ゼウスを倒したとしてマザーはどうなる?)


(汐には関係のない事です。忘れなさい。)


 確定だ。ゼウスは絶対神なのだから、そのゼウスに手を出せばマザーは……。


(本当に良いのか? 後悔しないか?)


(後悔、……寧ろ、ここで彼を止めない方が後悔するでしょう。あなたにも言ったはずです、今の私は雷太の意思を受け継ぐ者を探すだけのただのドラゴンだと。)


 つまりマザーは雷太の復讐をしたいと。


 俺の親友ならば考えそうなことだ、あいつならば仲間を害するような輩は好まないはずだ。


 マザーは、その意思を受け継いて、ゼウスを倒すと言うんだな?


(分かった。今回の申し出は受け取ろう。寧ろ俺の方から協力を頼みたいくらいだ。何しろガイアが危険な状態なんだ。俺は一刻も早く彼女を治療したい。)


(その心配は要りません。ガイアの治療は済ませましたから。)


 マザーの不意をついた言葉に俺は防御を固めながら視線をガイアに向けた。ゼウスによって付けたれたガイアの傷が塞がっている。


 マザーは良いやつ、と言うことか。俺が申し出を了承する前にガイアを治療していたのだから。


 少なくとも損得で動くやつでは無い。


(さすがは俺の親友の元相棒だ。)


(……あなたとも上手くやっていけそうです。では具体的な話をしましょう。融合者は三大獣と融合した時点で、その能力が大幅に向上するのです。試してご覧なさい。)


「いい加減、飽きてきたぞ。丸木 汐よ。そろそろ終わらせよう。……死ね。」


 俺がマザーと話をしている間にもゼウスが、この戦闘に終止符を打つと宣言してきた。


 今までのゼウスの攻め、あれは本気ではなかったと言うことか? 俺は寒気を感じている。それは俺自身がゼウスの言葉を本気だと認識しているからだろう。


 だが、今の俺には、その背中を押してくれる存在がいる。俺に語りかけてくる仲間がいるから。


(マザー!! 頼りにしてるぞ!!)


(大船に乗ったつもりでいなさい!! まずは、このマザーの『融合者』になったことを証明して見せましょう!! 槍を振るいなさい!!)


 俺はゼウスが振り下ろしてくるアダマスに合わせて槍をぶつけた。すると思いも寄らない結果が待ち受けていた。


「うおおおおおおおお!! ゼウス、俺は、お前を倒す!!」


「急にやる気になったとて、……ぬおおお!?」


 俺が振り抜いた攻撃はゼウスを大きく後退させた。俺の攻撃はゼウスに通用するんだ。


 マザーの言った通りだ。融合者となったその時点で俺の身体能力は大きく向上したんだ。


 俺は、まだ戦える。俺はマザーと共に戦うぞ!!


「ゼウス!! 決着を付けるぞ!!」


 俺は再び槍を振るうため、ゼウスに向かって全力で走り出したんだ。

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