第91話・対元凶⑥
「ぐうう……、がっは!!」
「ふん!! 言っただろう? 俺は人間界に来るときに己の力を抑制していると。」
「……その力を解放したのか?」
「全力を出せば魔族如き、遅れを取る俺ではない。……死ね。」
ゼウスが俺を見下す。俺は片膝を突いて貫かれた腹を押さえる。ゼウスは、その俺をサッカーボールキックで蹴り飛ばしてきた。俺は大きく飛ばされ壁に叩きつけられ、ズルズルと地面に崩れ落ちていく。
その俺を睨みつけながらゼウスがゆっくりと俺に向かって歩み寄ってくる。
「汐!!」
「……ガイア、ダメだ。来るな。」
崩れ落ちた俺にガイアが駆け寄ってきた。彼女は俺を心配そうな目で見てくる。
俺の手当てをするつもりか?
「ガイア、君は回復魔法を使えないじゃないか。」
「ごめんね、女神のくせに回復魔法も使えないなんて……。本当に自分が情けなくなってくるわ。」
ガイアが大粒の涙を流しながら慣れない手つきで俺の止血を始める。
「ガイア、ソコを退け。」
「ゼウス様、……嫌です。私は絶対に引きません!!」
ガイアが仁王立ちの姿勢で俺の前に立つ。ゼウスと俺の間に割って入る気だ。防御力1の君が何をしようと言うんだ。
「お前は神だぞ? にも関わらず、その神の頂点たる俺に逆らうのか?」
「私は天界から汐のことをずっと見て来ました。最初は両親の代わりに家庭を支えて、今兄弟たちの面倒を見て、苦労人だなって思う程度でした。」
「……退け。絶対神の俺が命令しているのだぞ? これは最後通告だ。」
「でも日に日に汐のことが頭から離れなくなって……、この子を自由な世界に解き放ってあげたいと思うようになりました。自分でも不思議でした、なんで一人の人間に私は、そんな感情を抱くのか。理由に検討が付きませんでした。」
「……ガイア、早く逃げろ。」
「その理由が、ようやく分かりました!! 汐が私の子供だからです!!」
俺の視界が真っ赤に染まった。俺はガイアに手を伸ばした、彼女を守りたかったから。
ガイアが啖呵を切った瞬間、ゼウスが手刀を振りかぶる姿が見えたから。ゼウスはガイアに向かって明確に敵意を持った瞬間だった。
そしてゼウスの手刀が振り下ろされると、俺に背を向けるガイアから血飛沫が飛ぶ光景を目の当たりにした。
俺の目の前でガイアが崩れ落ちていく。
「……出来損ないが、神の面汚しは消えろ。」
ゼウスが俺の目の前でガイアを害した。ガイアが俺の方に倒れ込んできた。俺は咄嗟になって倒れ込む彼女の体を抱き上げる。
「ガイア!!」
俺が名前で問いかけるも、「うう……」と小さく呟くだけで当の彼女からの返答はない。
生きてくれている。今の俺には、それだけ吉報だった。そして、俺は自分が許せない。仲間を、ガイアを守れなかった無力な自分が許せない。
ダメだ、ちょっとやそっとの回復魔法ではガイアの傷は塞がらない。
初めての感覚だ。ここまで自分を憎いと思うと、どれだけ深い傷を負っていても立ち上がれるのか。
「丸木 汐、あくまでも俺に抗うか?」
「お前に降る理由がない。」
俺は火炎魔法で自分の傷口に止血を図った。焼灼止血法、熱でタンパク質の凝固作用を促しての止血。
回復魔法でも治療を施しているが、れだけでは俺の受けた傷はすぐには塞がらないから。
ゼウスから受けた傷は、それほどまでに深かったと言うことだ。今は血が止まればいい。俺は一刻も早くゼウスを、ぶん殴ってやりたい気分なんだ。
俺は血が滴るほどに拳を強く握りしめながら、一歩一歩ゼウスに向かって歩み寄る。
「良いだろう。ここまで神に刃向かった魔族は、お前が初めてだ。この俺の手で刑を執行する。」
「逆だ。俺が、お前を裁く。ゼウス、お前は人の上に立つべき人間じゃないんだよ。」
俺とゼウスは示し合わせることもなく同じタイミングで構えを取った。なんの因果か、俺とゼウスの構えは鏡に写したかのように寸分違わぬものだった。
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