第89話・対元凶④

 俺の初手は短刀による投擲。


 ゼウスはパベルを相手取っている。隙はある。だがゼウスには当たらないだろうな。


 俺の担当をゼウスは難なく二本の指だけで挟んで止める。


「丸木 汐、奇襲にすらならんぞ。」


「だろうな!! パベル!!」


 俺の声にパベルは小さく首を縦に振る。彼女が魔法を放つ。


「『ファイヤーホーネット』!!」


 彼女の魔法は追尾型、この魔法を習得してからの彼女の戦い方は大き変わった。今までの彼女は格闘戦と魔法を別々に捉えていた。


 だが、彼女は、この魔法で時間差攻撃を駆使するようになったんだ。ならば俺は君を援護しよう。


「パベル、悪いけど多少のダメージは覚悟してくれ!! 『ファイアーカーテン』に『ウインドスラッシュ』!!」


 俺は炎の幕を作り上げた。俺の、この魔法の使い方、それは敵に押し出す形が常だった。


 この魔法は有効範囲が広い。ファイアーヤーバレットを薄く伸ばした形状で放つゆえに威力自体は、さほど高くはない。主目的は目眩しか敵の足止めだ。


 だが援護なら充分な威力だ。


 ゼウス、この魔法は不可避だ!!


「……頭上に炎の幕を作り上げただと?」


 俺とパベルが魔法を放ちつつ、加速を開始する。ゼウスを物理的に挟撃するためだ。


 パベルが打ち分けたファイヤーホーネットはゼウスを四方から襲いかかる。俺のファイヤーカーテンは頭上を押さえた。


 ゼウスは四面楚歌、もはや防御しか道はないはずだ。


「汐!! ゼウスのアダマスには気を付けろよ!!」

 

 パベルが俺に警戒を促す。分かっている、俺は一度、身をもってアダマスのカマイタチ攻撃の威力を経験したから。


 案の定、ゼウスは俺たちにカマイタチを放ってきた。


「そもそもが神の俺に魔族の矮小な魔法などが致命傷になるものか!! お前たちの直接攻撃を受けさえしなければ良いのだ!!」


「神ってのは意外と脆いもんだな!!」


「魔族の小娘が……、神の能力は絶大だ、それは世界そのものに影響が出るほどにな。それ故に神は天界を出るときに自らの力を抑制しているんだ!! 本気が出せればお前たちなんぞ!!」


「要は負け惜しみかよ!! ネチネチと汐とガイアのお嬢ちゃんを使って親父に復讐するわでセコい神だな!!」


 パベルとゼウスが舌戦を繰り広げている。


 その間にもゼウスに俺たちの魔法が直撃した。奴は完全防御態勢に入った。


「ぬおおおおおおおおお!! 魔族如きの魔法、効かぬわ!!」


 ゼウスが雄叫びをあげる。その雄叫びも魔法の直撃によって発生した煙に包まれていく。


 俺とパベルはゼウスの放ったカマイタチを全て回避しながら最短のルートでゼウスに接近を果たした。


「汐のウィンドスラッシュのおかげでアダマスの攻撃を全て回避できた!! 助かったぜ!!」


「以前の魔王戦で土煙を起こして退却しただろ? それと同じさ。」


 俺は真空魔法で、この大広間の土煙を発生させていた。カマイタチは目視できない現象だからこそ、恐怖を感じる。


 その上で真空魔法を大きく上回る連射性能と威力。


 だったら目視できるようにすれば良いだけだ。俺は真空魔法で、この大広間を煙で充満させただけ。


「こうすればカマイタチを目視できるんだ!! ゼウス、喰らえええええええ!!」


「汐に続くぜ!! 『ダークナックル』!!」


 俺とパベルが渾身の一撃をゼウスに放った。直撃だ、大きな衝撃音が大広間に響き渡った。


 確かな手応えを感じる。どうやらパベルも俺と同く手応えを感じているようだ。彼女の目に力を感じる。


 ……俺たちの勝ちか?


 後はゼウスが、どう出るかだが。煙がゼウスを覆っているから状況が判断できない。


 俺もパベルも警戒を怠らず、ゆっくりと拳を胸元の位置に戻す。その時だった、煙の中から手が伸びてきた。その手が俺とパベルの腕を掴んできた。


 ゼウスの手か!?


「……このスキルは神らしくない。スマートさのカケラも感じないからな、できれば使いたくなかった。だが、俺を、ここまで追い込んだお前らが悪い!!」


 煙が飛散し、ゼウスが姿を現した。こいつの顔に殴打を受けた痕が二つ残っている。俺とパベルの攻撃は確かにゼウスを捉えたんだ。


 と言う事は単純にゼウスが俺たちの攻撃に耐えたと言うことか。


「くっそお!! 『ファイヤーホーネット』!! ……魔法が出ない!?」


「魔族の娘よ、お前は典型的な格闘戦タイプだ。魔力の残量を考えながら戦うべきだったな」


 パベルが魔法の発動を試みるも、魔法は一向に発動しない。パベルの魔力の底が尽きたらしい。


「離せええええええ!! ゼウス!!」


「丸木 汐よ。この手は離さんよ、……お前たちの体に直接毒を送り込んでやる。」


「毒!? そんなもの、俺が掃除すれば良いだけの話だ!!」


「拡散させれば、或いはそうかもな? だが、お前たちの体内に直接流し込めば結果も変わる!! 死ねええ!!」


 ゼウスが俺たちに毒を流し込んできた。すぐに分かった、目の前でパベルの肌が紫色に変色していく様子が分かったから。


 パベルが目を閉じ、前のめりになった倒れていく。


「パベル!?」


「まだまだ終わらんよ!! 今度は、この部屋全体に充満させてやるぞ!!」


 ゼウスの体から、紫色の煙が噴出された。その煙は一瞬にして大広間の隅々まで広がっていく。


 ヤバい!! このままでは仲間が毒に侵される!!


 俺が周囲を見渡すと仲間たちが次々と倒れていく。さらに最悪な状況なのは、ゼウスが俺の手を掴んで離さないことだ。


「くっそ!! 俺の手を離せえええええええ!!」


 俺の悲痛な叫びが大広間に響き渡る。

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