第86話・対元凶
威圧感。圧倒的な威圧感を放つ男が、そこにいる。
鎌を携え、まるで神話の世界に出てくるような白い布で身を包んだ男。
チェニッカとトガだったか? ガイアと同系統の衣服。
そして男の視線は魔王に固定されている。男の目には魔王に対する明確な殺意が込められている。
男は静かに口を開いた。
「魔王よ、まだ生きているのか? 早く死ねば良いもの、中途半端な強さは見苦しいだけだ」
「……ゼウス」
確定だ。
あの男がゼウス、ガイアの上司にして魔王から全てを奪った男。いや、神か。
「あんたがゼウスか。俺を、この世界に放り込んだ張本人。」
「丸木 汐か。……早く魔王を殺せ。それが、お前に与えられた使命だ。お前が使命を放棄しそうだからケツを叩きにきたぞ?」
「お前はふざけるな。俺を勝手に日本に放り込んでおいて、今度は実の父親を殺せと言うのか?」
俺とゼウスは互いに強い視線で睨み合う。その様子をアタフタと焦った様子を見せるガイア。
当然か。あの男は上司で、ガイアは俺が魔王を倒さないと天界には帰れない。
だが当の魔王との関係を知ってしまい、先ほどまで混乱していたのだから。そこにゼウスは現れた。
そして姿を見せるなり俺に魔王を殺せと命じてくる。ここにいる誰もが状況を整理できずにいる。
だが三人だけ同じ想いを抱える人間がいた。俺とパベルそれに魔王だ。
俺とパベルはゼウスの正体を知ってから、即座に臨戦体制に入った。俺もパベルも魔王の、実の父の無念を知ってしまったから。
願いを知ってしまったから。
俺は浮遊魔法でゼウスに立ち向かった。
「……ガイアは関係ない。」
「人間風情が神に反旗を翻すか。」
「俺は魔族だ!! 『ファイヤーカーテン』!!」
俺よりも上空にいるゼウスに炎の膜を張った。これは魔王との戦闘でも使用した合体魔法がスキルになったもの。
俺は浮遊魔法を覚えたてだから、本格的な空中戦になると圧倒的不利だと思う。
だから先手を打ったんだ。広範囲に網を張ればゼウスも不必要に動けないだろ!?
「俺も行くぜ!! 『ワイヤーホーネット』!!」
「……パベル、君は好きに走ると良いさ。」
「さすが汐だ!! 俺のやりたい事をよく分かってる!!」
パベルは地上から追跡型の魔法をゼウスに放った。当然、俺への援護なわけだが、彼女の性格からすれば、これで終わりなはずがない。
俺もスキルの『DIY』でパベルの足場を作成して彼女の援護をする事にした。
この建物が頑丈そうで良かった。何より、ここは地上六階。アンドリューが構える根城の最上階だ。
最上階なら建築素材を多少拝借しても建築強度には影響が出ないだろう。
「……魔族如きが、またしても神に逆らうか?」
ゼウスが俺とパベルに憎悪の視線を向けてくる。この神は……。
「神と魔族が好き合って何が悪いんだ!?」
「ゴミムシの思想を神に語るか!!」
何だ? この雰囲気、この空気。ゼウスが俺たちを睨みつけた途端に大広間の空気が重くなった。
「あああ……、この感覚は……キョニュースキーのスキル……じゃないか!!」
「パベル!?」
足場を駆け上がっていたはずのパベルの動きが突如として止まる。ゼウスの仕業か!?
「パベルに何をした!?」
「……ほお、ゴミムシの分際で神のスキルに抗うか? 俺のスキルは敵に恐怖心を植え付ける。お前も俺に恐怖しろ。」
恐怖心を敵に植え付ける? そのまま解釈すると恐ろしいスキルに聞こえる。事実、パベルは身動きが取れなくなったわけで。
……俺が視線を地上に向けると仲間全員が苦しそうな様子を見せている。
スタミナの切れたジョルジョルと俺に攻撃を受けた魔王は特に危ない。
カンナとアンドリューは……カンナが必死になって回復魔法をかけている。よく見たらカンナは獣人化しているじゃないか。
カンナは獣人化によるステータス上昇で、ゼウスのスキルにギリギリのところで抗っているんだ。
ガイアには変化が見られない、彼女が女神だからか? ……彼女はそっとしてあげたほうが良い。
「恐怖なんて『掃除』してやる!! 喰らえええええええ!!」
俺は握りしめる短刀に魔法を流し込んでいた。俺の拳に魔法を固定させた技法の応用とでも言えば良いだろうか。
風魔法の『ウィンドスラッシュ』を固定して短刀の切れ味を向上させているんだ!!
「何故だ!? 魔族の分際で俺のスキルをものともしないだと!?」
「うわああああああああああ!!」
俺は短刀でゼウスに斬りかかった。逆左手で握りしめたゼウスの左肩を刺し、そこを起点として背中に二本目の短刀を突き刺した。
「ぐっううううう!! 魔族の分際で神に逆らうな!!」
ゼウスが怒気を発しながら鎌を振りかざす。
ゼウスの握りしめる鎌から、禍々しい圧が発せられている。あれは普通の鎌ではない、俺は初見にして、違和感を感じた。
俺の目の前でゼウスが数回、鎌を振るう。素振りか? ゼウスの鎌は刃音を立てるだけだった。
だが俺の予感は的中した。その結果を己の身で思い知ることになろうとは。
次の瞬間、俺の体から血飛沫が飛び散った。俺は飛び散る自分の血を見ながらグラリと項垂れながら落下していった。
ゼウスが俺を見落としながら口を開く。
「我が鎌、アダマスは万物を切り裂く。……この世界の王族に与えたオモチャとは威力の桁が違うんだよ。」
俺は落下しながら手を伸ばすも、ゼウスの姿は遠のくだけだった。
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