第85話・怒りの矛先
「魔王、あんたは、どんな受けた刑罰を受けた?」
「……些細なことだ。」
「教えてくれ、知りたいんだ。」
俺は魔王と言う男を知りたくなっていた。
出会いは最悪だった。この男には憎悪しか感じなかった。
不思議なものだ、自分の実の父だと知って全身から血を全て流し尽くしたいと思ったのに。
この男と同じ血が流れる肉体を切り刻みたい。
そう感じたことが嘘のように思える。
「魔王、あんたは俺のスキルを欲していたな? 汐は主人として役不足とも挑発した。あんたは最初から汐や俺が強くなると知っていたのか? だから、あんな挑発を?」
パベルが魔王に話しかける。俺が質問をしている最中なのだが。
それとも、俺の質問を遮ってまで確認することなのか?
「知っていた。俺の子供たちだからな。俺は子供の頃から負けず嫌いだった、負けたら勝つまで諦めない。例え他人を巻き添えにしても勝つことを選ぶ。……大人になった今も変わることのない性分だ。」
魔王はアンドリューとカンナに視線を向けて、思い出すように自分を語る。
この男は理解してたんだな。自分の復讐がカンナたちを巻き添えにしたと。
だが、これだけ負けず嫌いな男が、どうして他者に。ましてや自分の子供たちに復讐を託す?
俺には理解できない。魔王だったら自分の命を投げ打ってでも神に立ち向かいそうだが。
そうか……、そう言うことか。
「魔王は神に逆らえない呪いをかけられたのか?」
魔王が悔しそうな表情になって、俺の目を射抜く。
「正確には天界に入る資格を奪われた、神への憎悪を増幅された状態でな。……俺は自力で復讐を行えないんだ。……神への復讐を諦めたように見せかけるために、神を動かすために魔王軍を興した。結果、全魔族すらも巻き添えにした俺は重罪人だ。」
憎悪の感情だけ増幅されて、復讐を果たせない状態にされる。魔王の様な男からすれば最悪の状況だ。
だが、さらに最悪な事がある。ガイアだ。
俺はガイアの砲を向くも、肝心の彼女は上の空の様子だ。魔王の話によると彼女は記憶を消されたわけで。
であれば状況を把握できないだろう。そもそもが、今回の最大の被害者はガイアだと思う。
「わ、私は何も知らないわ!! 私が魔王と? ……嘘よ、知らないわ!! ねえ、汐!! 信じてよ!!」
ガイアが必死になって俺にしがみ付く。弱々しい力で、アンドリュー戦で怪我をした手で俺の衣服を掴んで離さないんだ。
何も知らされず、最愛だった男を討伐する運命にあったのだから。偶然とは言え、俺と契約し、魔王を倒さなくてはいけない状況になったのだから。
いや、……この偶然は不可解すぎる。
あまりにも偶然が重なっているのだから。
最愛だった男を自分の息子と一緒になって討伐する、しかも記憶があるのは男の方だけ。
こんな悲惨を俺は知らない。
「……寧ろ、この状況は必然だった、と片付ける方が自然だ。」
俺の声は低かった。恐ろしいほどに低かった。それは、大広間にいる全員が固唾を飲むほどに。
俺がの心が怒りに満ちている証拠だろう。
そんな俺を見上げながら魔王は口を開く。
「お前は、この状況が作られたモノだと言うのか?」
「偶然が重なった、では理由にもならない。……ガイア、君の上司の神が俺を、この世界に追放するように指示を出したんだったね?」
ガイアがビクッと体を震わせる。彼女は俺の雰囲気に飲み込まれたのだろう。
俺は仲間を怖がらせたいわけじゃない。怒りの矛先を明確にしたいだけだ。
「え、ええ。……私の上司のゼウス様よ。」
「ゼウス!?」
魔王の表情が俺と同質のものに変貌した。深い怒りを表情に乗せて、矛先を失った怒りの感情をぶち撒けたように見える。
魔王の様子を見て俺は確信した。
「確定だな。」
俺は何かに背中を押されるように頭上に視線を向けた。
すると、そこには禍々しい黒い渦が発生していた。
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