第84話・母親
俺が地面に着地すると仲間たちが走る寄ってくる。
パベルとガイアか。カンナは……母親の元を離れようとしない。
俺は魔王に視線を戻す。
「……それで良い。お前は俺よりも強い。強くなった。」
「あんたは何がしたいんだ?」
俺は魔王が分からなくなっていた。一度は、この男に憎悪を覚えた俺だったが、この男は俺に敵意を向けて来ない。
今になって冷静に考えてみれば、以前戦った時も魔王は俺に敵意や憎悪を向けてこなかったように思える。
こいつの目的が分からない。
「神を倒して欲しい。」
「あんたは……そのためだけに、自分の手でマザーとカンナの母親を殺したんだろうが。」
「殺してはいない、マザーも獣人の娘も力を抜き取っただけだ。時間が経てば目が覚める。」
「え?」
俺たち三人は一斉にカンナの方を向く。良く見るとマザーもカンナの母親も微かに動きを見せている。
「……どう言うことだ?」
「俺は魔族だ。魔族は神のなり損ない、奴らからすれば見下すべき存在だ。そんな男が人間や、ましてや神の娘を愛するなど奴らにとって許し難いことだったらしい。」
魔王が穏やかな口調で話し始める。
「俺の初恋は神の娘だった。八重歯が似合い健康的な娘だった。その娘との間に子ができた、それがお前だ。」
「俺は魔族と神のハーフだったのか?」
「そうだ。……だが神は、それを許さなかった。お前を、この世界から追放し、お前の母も俺も刑を受けた。俺は絶望したよ、もはや生きていても意味がない。本気でそう思った。だが、そんな俺に笑顔を向ける人間の娘がいた。その娘の介抱の甲斐あって一命を取り留めた。その人間の娘こそ、パベル、お前の母だ。」
「……そんな話は初めて聞いた。」
パベルは神妙な様子で魔王の話に耳を傾ける。
「……俺は、お前の母に後ろめたさを感じていた。何しろ、俺はずっと汐の母親を愛していたんだ。それを理解しながらも彼女は俺を支えてくれた。そして、彼女は俺に言ってくれたんだ。自分のやりたいことをやれ、と。」
「それが神への復讐なのか?」
「……だが、神のなり損ないが神に破れたものたちの力を得たところで勝てるわけがない。そんな時に汐、お前は帰ってきた。」
「俺に神を倒せって言うのか?」
「お前とパベル、二人でだ。汐、お前には隠された称号がある。『魔返り』と『不屈の魂』だ。それらは魔族の子孫ある、お前にしか備わっていない称号。そのお前に俺が三大獣から得た力の全てを託す。」
魔王の行動の全てが復讐を果たすためだったわけか。アンドリューから聞いてはいたが。だが、こいつのパベルを見る目つき。あれは娘に向けて良い目ではなかった。
いや、待てよ。もしかして魔王は……。
「魔王、一つだけ教えてくれ。お前はパベルを、どう思ってるんだ?」
「……パベルの母親は女性らしい女性だった。その娘たるパベルには、その面影すらない、……だが自分の娘だ。俺の復讐に巻き込んで良いはずもない。俺は自分が憎い、自分の目的を果たすために自分を愛してくれた女性の死にも立ち会わず、自分の子供らを巻き込むのだから。」
そうか、こいつがパベルに向けた目は申し訳なさだったんだ。自分を支えてくれた女性の死を知って後悔していたのか。
何ともね。こいつもか、ジョルジョルやアンドリューに続いて、知ってしまうと戦い難い事この上ない。
だが俺は一つだけ疑義を感じている。
「魔王、あんたと俺の母親だと言う神の娘。どちらも刑を受けたと言っていたな? お前は生きているわけだが、母親の方はどうなったんだ?」
「……神に憎悪すら感じるよ。」
「魔王!! 教えてくれ!!」
「言っただろう? 八重歯が似合うと、ブロンドのショートカットが似合う健康的な美少女だった。少しだけ騒がしかったが、そばにいてくれると俺も笑顔になれた。」
俺は愕然としてしまった。何故ならば魔王の口にする娘の特徴は俺のよく知った女神に完全に一致しいているのだから。
俺は後ろを振り向いて、『その女神』に視線を向ける。当の女神は、魔王の言葉を理解していないらしい。
キョトンした表情で首を傾げているのだから。
「おい……、俺の母親はどうなったんだ!?」
「記憶を消されて転生した。再び女神にな……」
俺だけではない、パベルも遠くで俺たちの状況を見守るジョルジョル。それにアンドリューとカンナまでもが一斉に彼女に視線を向ける。
まさか、……俺の母親は……魔王が愛したと言う女性は……。
俺は頭を抱え込んでしまった。
そして魔王が言葉を口にするのをひたすら待った。
その言葉に俺は驚愕することになる。
「俺の愛した娘の名前は『ガイア』、大地の女神だ。」
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