第46話・情報得られず【前編】
ここはムーカルッスの領主の屋敷、つまりテイさんたちの自宅だ。この屋敷にある部屋の一室、その片隅でカンナが浮かない顔をしている。
俺たちの存在に気付かないほどに、あの子は気落ちしている事が手に取るように分かってしまう。
落ち込む理由も至って単純、あの子のお母さんの情報が得られなかった。
ムーカルッスの領主の屋敷に来て早々の結果だった。子供が落ち込むには充分過ぎる理由だろう。
カンナの落ち込みようには俺だけではなく、他の二人も思うところがあるらしい。特にパベルなどは彼女自身が魔王と接点があるだけに、悔しさを隠せそうにないようだ。
「ああ……、何だ? カンナのお嬢ちゃんも、そう落ち込むなって。ここで手に入らなかっただけで、情報はあるところにはあるもんさ。」
「……どこにあるんですか?」
カンナの声が明らかに低い。普段の明るいこの子からすれば、考えられないトーン。そんなカンナの様子に励ますつもりで声をかけたパベルも、返答ができずにいる。
……パベルも失敗したな?
「それは……すまん。軽はずみな発言だった。」
二人のやり取りに及び腰な様子を見せるガイア。俺たち四人に初めての不協和音が鳴り響く。なんだかんだで上手くやっていたはずだったが、今回はマズイな。
カンナは既に自分の周りが見えていないのだから。
この子を心配して、後ろに立っているテイさんたちの方が苦しそうな表情をしているのに。
聞いた話だと、カンナのお母さんはテイさんたちにとっても仲間だったらしい。この場にいる誰もがやりきれない気持ちになる。
だが、この際だ。
不協和音が鳴り響いたのであれば、俺は徹底的に響かせるべきだと思う。疑問に思いながらも口にできなかった事を口にしてしまおう。
壊れたものは改修よりも、壊してから組み直した方が早い時もあるのだから。
「パベル、君はカンナのお母さんが魔王に捕まっている事実を知っていただろ?」
「ん? ああ、それがどうしたんだ?」
「知らないのは捕まっている理由であって、捕まってること自体はは知ってるんだろ? 知っているっては事は君が直接見たか、誰かから聞いたからじゃないのか?」
「そりゃあ、……あ!!」
……はあ、やはりか。
パベルは言っていたんだ。『捕まっている理由を知らない』と。そしてカンナのお母さんが捕まった事実は知っている。
これはカンナの疑問とは交差しない答えだから。カンナはお母さんのいる場所を知りたいだけなんだ。だからこそ俺はここに向かう旅路では、あえてこの話題に触れて来なかった。
理由はカンナが焦っていたから。
それは情報を聞いた途端に目的地を変えてしまいそうなほどに。無理もない。この子は父親が魔王に殺されているのだから、同じ心配を母親にすることは当たり前。
カンナは周りが思っている以上に生き急いでいると思う。
だから俺は意図的にブレーキをかけたのだ。勿論、カンナ自身には悪いとは思いつつもだが。
仲間が仲間に死んで欲しくない、と思って何が悪い?それの俺はレイさんと約束したんだ、誰も死なせないと。
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