第45話・海魔将の根城【後編】

「汐? どうしたの?」


「ガイア、あの塔って、何かこうおかしくないか?」


 ガイアが俺に怪訝な表情を向けるが、今の俺には余裕がないのだ。


 ……テイさんがクライマックスだから。


「パベルさん、もう私とコンビを組みましょう!! お互いの利点は明らかよ!!」


「だから暑苦しいんだよ!! 俺は今の現状に誇りをもってるんだ!!」


 ……パベルも誇りを持ってるのならカンナたちの言葉に落ち込むなよな?


「パベルさん!! 『真実の目』で確認したんですけど、パベルさんはAーカップでテイさんはAーーカップでした!!」


 ……カンナは親切心で言ってるのだろうな。


 あの子の目が語っているのだ。


 私も役に立ちたい!! と。


 習得したばかりのスキルを、これでもかと自慢する姿が微笑ましいじゃないか。


「カンナちゃん!? 私ってエグれてるの!?」


「テイさんの胸は傾斜が小さいんです!!」


 カンナも元気だね?  そんなに大声で言わなくても良いのに。


 ほらあ、今度はテイさんだけではなくパベルまでもが口から霊体みたいなのを吐き出しているじゃないか。


 ……ん? 傾斜が小さい?


「汐? あの塔って風が服と揺れるんじゃないのかした?」


 ……揺れる?


「ガイアさん!! 揺れるとか、傾くとか私を虐めて楽しんでません!? 胸の大きさはテイ辺×高さ割る2ですがらね!!」


 三角形の面積を求める公式じゃねえか!!


 そもそも『テイ辺』ってなんだ!?


「きゃあ!! 汐おおおおおおお、このお姉さんが私をおおおおおお!!」


 うっさいわ! 今は黙ってろよ!!


 俺はスキルの『洞察力』を使って、海魔将の塔を観察してみた。


 すると、確かにガイアの言った通りだった。


 あの塔は風で揺れている。


 しかも海岸沿いに建設されているから時折、強風が吹き荒れる。


 すると塔の傾きがより顕著になっていく。


 そう言う事か!!


「汐くん、難しい顔をしてどうしたの? あまり小難しい事を考えるとお姉ちゃんみたいにペチャパイになっちゃうよ?」


 俺は男だっつうの!!


 その時点でペチャパイなんだよ!!


「マイさん、あの塔は傾くんだ!! だから内部に人が入ってバランスが崩れると傾斜がついたように見えるんだよ!!」


「どう言う事? 汐くんの言っていることが良く分からなんだけど?」


 使えねえ!!


 まさかマイさんがここまでおバカだとは思わなかった!!


 ……俺にキョトンとした表情を堂々と晒すムーカルッスの領主。


 俺にはこの人に事実を伝える自信がありません。


 頼むから帰って来てよ、……テイさん!!


「うわあああああああ!! 汐さんが揺れるとか、傾くとか!! 私を馬鹿にするのおおおおおおお!!」


「だから引っ付くなって!! テイさんも良い加減にしなよ!!」


「パベル!! この人が私の肉まんを上下に揺らすのおおおおおおお!!」


「テイさんの胸が大きくなったら私のブラをお下がりであげますね!!」


 ……修羅場だ。


 しかも11歳のブラをお下がりで貰うなどと、……俺はテイさんが憐れでなりません!!


「いやああああああああ!! カンナちゃんも私をイジメないでええええええ!!」


「んもう。お姉ちゃんもそんな言うんならパッド入れてば良いのにね?」


 マイさんが俺に恐ろしい事を言ってきた。


 俺はエディベアで経験済みだから。


 胸を盛ると、あの手の人はさらに壊れるんだよ。


 レイさんのように!!


 俺は遠くから徐々に壊れていくテイさんを眺める続けるしかなかった。


 真面目な人が壊れるって恐ろしいと思う。


「俺も不用意にテイさんが好みだって言っちゃったけど、訂正します。」


 俺には荷が重すぎる!!

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