第44話・対海魔将③【船上での戦闘②】

 この二人は俺のスキルを褒めてくれる。だが今はそんな事を言っている場合ではない。


 膠着状態。現状を表現するにはしっくりくる言葉だ。何しろ俺の魔法は敵を倒したわけではないのだから。


「二人とも、俺の魔法は敵の接近を拒むけど逆に、この船は身動きが取れなく立ったんですよ?」


「……そうですね。確かに、その場しのぎでしかありません。マイ、マーフォークの動きはどうなっているの?」


「うんっとね……。この船の周囲を旋回しているよ。汐くんのスキルってどれくらい維持できるの?」


「初めて使ったスキルだから確証はないけど10分くらいかな?」


「……その間に対策を練らないといけませんね。カンナちゃん、船内に避難してなさい。」


「え? テイさん、でも……。」


「良いから早く!!」


 テイさんが声を荒げるところを初めてみた。俺はこの二人と今日が初対面。だが、それでも驚いてしまった。それでも意外とは思わない。


 それだけ緊迫した状況だから。


 テイさんの様子にカンナは驚きつつも、悲しそうな背中を俺に向けながら船内に走っていく。俺のもっと力があれば。隣にいるカンナを守れる様な力が……。


 悔しさで思わず俺の拳に力が入る。


「汐くん、確認したいんだけど電撃魔法は使える? もしくは土属性の魔法でも良いんだけど。」


「使えないですね。ガイアなら土属性の魔法を使えるんですけど……。どうするんですか?」


「電撃魔法だったら海に撃ち込めば一網打尽という事です。土属性なら物質化攻撃ですから、魔法を散弾させれば良い。マイ、そういう事でしょう?」


「さすがはお姉ちゃん!! そう言う事、……私たちって魔法がからっきしなんだよね。」


 マイさんとテイさんは、この状況を打開する具体的な方法を思い描いている。だが俺には、この二人のように知識も経験もないから具体案を出せない。


 確定だ。


 ここはガイアに無理をして貰うしかない。船酔いのところ悪いけど、命と天秤にかけるまでもない。


「俺がガイアを起こしてきます!!」


 俺はカンナの後を追いかけるように船内に向かおうとした。


 そう、したのだ。だが俺は聞いたんだ。俺が呼びに行こうとした彼女の声を。そして、俺が声のする方向を振り向いた。


 ……上か?


「汐くん、あの子って空を飛べるの!?」


「マイ、落ち着きなさい!! ……汐さん、あれは?」


 俺はテイさんたちの視線を追って上空を見上げた。


 するとそこにはガイアが、その翼で颯爽と空を駆っていたのだ。


「ガイア!? 君は空を飛べたのか!?」


「翼があるんだから当たり前じゃない!! それよりもマーフォークが海中にいるんでしょ!?」


 当たり前なのか!?


 そう言う事は先に言ってくれ!!……もしかして俺がガイアを駄々っ子だと決めつけていたことが原因か?


「ガイアさん!! 悪いけど船の周囲に土魔法を撃ち込んでくれないかしら!?」


 テイさんが上空のガイアに声をかけている。


 うわあ……、ガイアが嫌そうな顔をしている。あんの駄々っ子女神が!!


「ガイア!! 君は関所の飲み代をテイさんに出して貰ったのを忘れたのか!?」


「汐おおおおおおおお、それ以上は言っちゃダメよ!! すっとぼけられなく

なるから!!」


 あいつ……、上空から大声でそんなことを宣言したらダメだろうが!!君は女神だろうが!! 人間に借金しておいて踏み倒すんじゃねえ!!


 そもそもテイさんがお金勘定を忘れるわけないだろ!?


 俺はテイさんとマイさんに視線を向けた。ほらあ、二人とも唖然としているじゃないか……。


 テイさんなんてガイアの胸が上空で揺れているから、現実を逃避していしまっている……。だからテイさんは手短なものを服の中に入れようとするんじゃない!!


「……テイさん、ガイアの借金は必要とあらば彼女を強制労働させますので。」


「汐おおおおおおお!? 私をどうしようって言うの!?」


 どうもしねえよ!! お前が大声で借金の踏み倒しを宣言したから、代わりに謝罪してるんだろうが!!


 テイさん、俺の土下座だけで、この不始末の謝罪として足りますか!? あんな駄々っ子でも俺の仲間なんです!!


 俺……、もう泣きそうなんだよね?


「ガイアさん、関所の飲み代は領主のマイが持ちます!! だから土魔法を早く!!」


「ええ、お姉ちゃん!? それって私のお小遣いの何年分!?」


「…………二年分ね。お願いだから我慢して……、我々の領地はオールウェイズ金欠なのよ?」


 テイさんとマイさんが……抱き合いながら本気で泣いている。この二人が憐れすぎて、俺は涙が止まらないよ。


 それよりもオールウェイズって何!?


 だが俺の感情を置き去りにして上空で旋回するガイアが動きを止めていた。あれは魔法を使う準備をしているのだろう。


「しゃあああああああああ!! 飲み代がタダになるんだったら、やってやろうじゃないの!!」


 頼むから君は飲み代と関係なく仕事をしてくれません? 女神なのだから。ただでさえ使えないのだから……。


 などと俺が、この世界の女神に憂いている間にもガイアの魔法準備が整ったらしい。


「ガイア!」」


「分かってるわよ!! 行くっわよ、『ダイヤモンドスピア』!!」


 ガイアの声と連動して彼女の手のひらからダイヤモンドスピアが飛散する。それは俺たちのいる船を囲うように撃ち放たれる。


 ダイヤモンドのシャワー。


 俺が一番最初に思いついた表現だった。今までのダイヤモンドスピアはガイアが横から放っていたが、方向を変えるだけでこうも印象が変わるのだろうか?


 悔しいが俺はこの光景を美しいと思ってしまった。なんだかんだ言ってガイアはすごい奴だと俺は思い知らされてしまったわけだ。


 そして彼女が魔法を撃ち終わった頃には、船の周囲に夥しい数のマーフォークが浮かんでいた。


 俺だけだけではない。テイさんとマイさんも、この突きつけられた結果に目を見開いて驚くしかないのだった。


「飲み代ゴチでっす!! いえーい、ピース!!」


 ガイアが上機嫌に上空を舞う。その様子に俺は思わず息を飲んでしまった。


 しかも案の定、彼女の手は傷付いている。


 あの手でVサインをされると、俺も彼女をどう扱えば良いか分からなくなるんだ。


「……決め台詞にしては締まりがないじゃないか。」


 俺はいつになったらガイアを推し量れるのだろうか?

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