第44話・対海魔将③【船上での戦闘①】

 船が海上を走る。


 肌に感じる風はどこの世界にいても同じだと実感してしまうな。


「汐さん、後2時間もすればムーカルッスの本島が見えますから。」


 カンナが楽しそうに俺に話しかけてくる。子供は無邪気だと心の底から思える光景。いや、俺がやさぐれているだけだろうか?


 「そっか。そう言えば俺はムーカルッスを良く知らないんだけど、カンナは詳しいのかな?」


「……ムーカルッスは過去に獣人たちが差別されていた時代に当時の王族様が作られた『私たち』の避難場所です。」


 『私たち』ね……。


 カンナは俺たちに懐いてくれている。それは間違いない。だが、この子はその心の何処かに、まだ壁があるように感じる。


 それを感じつつもカンナに笑いかける自分が後ろめたくて、俺はこの子の頭を撫でてしまう。俺は仲間だと思っているのにな……。


 込み上げる悲しみ。いや、この子は仲間だからこそ打ち明けられない何かがあるんだ。


 獣人化か。


「汐さん、ガイアさんとパベルさんは船内で休憩を取るそうです。」


 ガイアとパベルは船酔いしたらしい。ガイアはともかくパベルが使い物にならなくなると想定外だ。この状況下で海魔将に襲われたらと考えると何と不安なことか。


 パベルは主力なんだけどな……。


「テイさん、仲間が迷惑をかけてしまってすいません。……そう言えばマイさんはどうして船首から動かないんですか?」


「あの子は索敵をしているんです。海上は障害物が少ない反面死角も存在しますので。」


 出会い頭でマイさんの人物像に衝撃を受けた俺だったが、今はその感想を改めていた。船首からその先に広がる地平線をジッと眺めるマイさんの真剣な顔つき。


 確かに海は360度視界がクリアだが、海中と言う死角も存在する。すでに奇襲を受けた俺たちには油断できるだけの余裕はない。


 テイさんのそんなマイさんを見つめる目が優しい、……この二人が心配しているものの予測が立つだけに申し訳なく思う


「カンナは船酔いにはなってないかな? キツかったら船内で休んでても良いんだからな。」


「大丈夫です!! 私は旅慣れしてますから。」


 旅慣れか、この子はお母さんを探す旅をしている。そして当のお母さんは魔王に捕まっているわけで。にも関わらずカンナの笑顔が眩し過ぎる、……俺の魔王討伐理由を考慮するとね。


 これはレイさんにも指摘されていたかな? さて、どうしたものか。


 だが俺が自責の念を抱き始めていると、船首にいるマイさんの様子が突如として急変した。


 なんだ?


「……お姉ちゃん、何かが来る。海中にいるよ!!」


「そう……、船底を補強しておいて良かったわね。マイ、敵の数は?」


「……今回も100。お姉ちゃん、敵の正体はマーフォークだよ!!」


 マーフォーク?


 確かマーメイドとかの種族総称名だったか?


 海上は鬼門だと踏んでいたが、まさかこの状況下で襲撃を受けるとは。主力のパベルと魔法攻撃が強力なガイアが寝込んでいる、この状況下で?


「テイさん!! 船底を補強してるって事は荒事になっても問題ない、と考えて良いんですよね?」


「多少は。ですが、被弾次第では保証ができませんからね?」


 俺はテイさんに船が戦闘に耐えうるか、それを確認したかった。だが逆に俺が釘を刺されるとは。


「マイさん!! 襲撃の方角はどっちですか!?」


「船首の真正面、後中数秒でこの船に到達する!! 汐くん、どうする気!?」


「まずは足止めでしょう!!」


 視認できなくとも接近してくる方角さえ分かれば最低限の対応はできる。この場合は『見えない場所に敵がいることが確実』なのだから。


 ジョルジョル、お前の力を使わせてもらうからな!!


「汐さん、どうするつもりですか!?」


「テイさん、こうすれば良いんですよ。『ウィンドスラッシュ』と『ストリームステイト』!!」


 海中に風の壁を作れば敵はこの船に近づくことができないはずだ。


 俺がジョルジョルから教わったこのスキルは思った以上に便利なものだった。俺も当初は爆風を発生させるスキルだと思い込んでいたが、その認識は違った。


 このスキルは風を固定するものだったのだ。ここは海上。風ならばいくらでもある。


 さらに言えば俺が魔法で風を作り上げれば、さらに!!


「汐くん!! 君ってすごいねえ!?」


「マイさん、褒めて貰って嬉しいけど今は索敵に集中してくれません!?」


「汐さん、マイの言う通りです。……まさか海中から、これほどの風柱が立つだなんて。しかも、それが船を取り囲むほどの規模とは。」

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