第43話・お漏らし魔【後編】
「……はあ。で、道はこのままで良いのかい?」
「そうだね。俺もパベルと同じことが気になっていたんですよ。関所を通ってから一本道ですけど、この道はどこにつながってるんですか?」
「この道をまっすぐに行くと港が見えます。そこで船に乗りましょう。」
テイさんが進む道の先を指さしながら、これからの予定を口にしてくれたが。
なるほど、そう言うことか。
レイさんが言っていたな。
ムーカルッスは島だと。
「へえ……。俺は船に乗るのは初めてだね。汐はどうだい?」
「俺は何度かあるかな。……それよりもパベル、気を付けろよ?」
「ああ。……レオーネが何をして来る分からないからな。直接会ったら……覚えていやがれ。」
パベルの表情が強張っている。だが分からなくもない。カットゥーノとの一件があったからな。
聞いた話によると、あのガットゥーノはパベルが魔王軍に入った時の同期らしい。年齢に性別、何より性格の相性も良く、すぐに仲良くなったと。
……海魔将レオーネだけは俺も許さない。俺の仲間をここまで傷付けやがって。この三魔将だけは俺も個人的な理由をむき出しにせざるを得ない。
自然と強く拳を握りしめる俺の手に誰かがそっと触れてきていた。
誰だ?
振り返るとそこにいたのは意外にもマイさんだった。
「……怒る気持ちは分かるけど、ダメだからね? さっきの襲撃の意図が分からない以上は迂闊な行動は、ね?」
「そうですね。気を付けます。」
レオーネは海魔将、ヘタをすると海上でも襲ってくるかもしれないから。船で海に出る以上は警戒を怠ってはならないのだ。
……このマイさん、テイさんが言うには気配感知の才能が桁違いだと言う。その人が真剣な表情をして俺に忠告をしてくるのだから、具体的な何かを感じ取ったのだろうか?
後ろでテイさんも不安そうな表情を浮かべている。
……船上での戦闘か。
俺だけではなくパベルも経験がないと言うのだから、本当に気を付けなくてないけないな。
「はああああああああ!! やっぱり、こんな時はカンナちゃんにスリスリしない元気が出ないよおおおおおおお!!」
……マイさんの評価を上昇修正したばかりだと言うのに。この人はこう言うところがあるからダメ人間に見られるのだ。
「マイさんってば、痛いですよ!! マイさんって前よりもお肌がカサカサになったから本当に痛いんですう!!」
……カンナは本当に純粋無垢だよ。
カンナの言葉を聞いた頬を擦り寄せるマイさんの高速の動きがピタリと止まってしまった。
お肌がカサカサって……。この発言はカンナにしかできないだろうな?
あ。マイさんの顔がお漏らししてる。
「汐くん!! 今、あたしの涙を見て『顔がお漏らしした』って思ったでしょう!?」
げっ!! なんで分かったんだ!?
レイさんと言い、どうして雷太の仲間たちはこんなにカンが鋭いんだよ!!
「そんなこと思ってませんってば!!」
「絶対に思ったよおおお!! それで『あ、カサカサのお肌がオムツみたいにお漏らしを吸収してる。』とか考えてるんだよおおおおおおおおお!!」
考えてねえ!! マイさんの方が辛辣なことを言っているからね!!
だから俺の両肩を掴んでくるな!!俺の体を激しく揺するんじゃねえ!!
「マイさん!! 『公衆の面前でお漏らし』とか言わないで下さいよ!!」
「誰が『公衆便器でお漏らし』よおおおおおお!! 汐くんに責任を取って貰うからね!!」
そんな恥ずかしいことを言えるか!! 耳がおばあちゃんかよ!!
頼むから、すれ違う人のいる、この道で卑猥なことを言うんじゃない!!マイさんって曲がりなりにも領主なんだよね?
そもそも責任ってなんだ!?
俺はマイさんの駄々に参ってしまった。
すると一人の女性が後ろから俺の肩に手を置いてきていた。
「テイさん?」
「汐さん、……マイが肥料扱いされる理由を知りたいですか?」
「いえ、1ミリも知りたくありません。」
「そう言わないで私の重荷を背負って下さい。」
実の妹を重荷に扱い!?
テイさんってなんだかんだ言いつつも妹思いの素敵なお姉さんと言う印象だったのに……、この領主様は領民からそこまでひどい言われようを受けているのか?
本当に聞くのが怖くなってきたんだが。
「……聞くだけ聞きます。」
「……ムーカルッスは伝統的に有機農業を心がけているんです。だからマイはムーカルッスの農民から有機農業の宣伝アイドルになるように懇願されたのです。……色々な意味で。」
「へ、へえ?」
色々な意味ってなんだ!?
「因みにデビューシングルが『おトイレの女神様』と言う曲でして……。」
どうしたらデビュー曲をそんな曲名にするのかな!?それにマイさんって歌手デビューしてたの!? 領主なのに!?
俺はこれから海魔将と戦う決意をしたばかりだったはず。……なのだが、目の前で泣きじゃくるマイさんを見て脱力せざるを得なかった。
「雷太の野郎、どう考えても日本人が悪ふざけした曲名じゃないか……。」
雲の彼方からVサインをしながら見つめてくる親友に俺は怒りを露にするのだった。
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