第43話・お漏らし魔【前編】
「……ガイア、太った?」
「うぐっ!! し、汐は何を言ってるのかしら!?」
「ガイアのお嬢ちゃんは毎日しこたま飲んでるからな? ……腹回りが肥えたか。」
「パ、パベルまで何言ってるのよ!! 私は太ってないから!!」
「……カンナ。」
俺は右手の指でパチンッと音を立ててカンナに指示を出した。
「はいはーい。えいっ、スキル『真実の目』!! うーん、……ウエストのサイズと体重が増えてますねえ。」
「ちょっと何するのよ!! 私にだってプライバシーと言うものがあるのよ!!」
以前ガイアは彼女自身でそのプライバシーとやらを披露したにも関わらず、体をくねらせながら赤面している。そして泣いているのだ。
理由は至って単純。
カンナが『真実の目』を取得したことでパーティー内での自分の立ち位置を危惧してるのだから。
使えねえ……。
だが俺とパベルはカンナのスキル効果を見て驚愕してしまったわけで。何故かと言うとカンナの『真実の目』は身長と体重まで確認できるのだ。
ガイアは駄々っ子ながら女神故に羽まで体重にカウントされる。ガイアが嫌がる原因はそれなのだ。
俺とパベルはその正体を把握しているけど、カンナは相変わらず彼女を女神とは信じていない。
でだ。そんな俺たちのやり取りを物陰から除く二人がいる。
……不審者かよ!!
「テイさんたち、道案内してくれませんか?」
「そうですよ!! テイさんもマイさんも一緒に歩きましょうよ!!」
カンナが笑顔であの二人に手招きをする。こう言うところは純粋に可愛いと思う。
……『こう言うところ』はね?
「カンナのお嬢ちゃん、……その手に持っているものは……なんだい?」
「え? パベルさんはこれを知りませんか?」
「いやあ、……知っているんだけどね。どうして持っているのかなって話だよ。」
俺もパベルと同意見だ。カンナ、君はどうして『尿瓶』なんて持ってるの!?テイさんたちが俺たちから距離を取る理由。
それはこの『尿瓶』が怖いんだってさ!!
「汐さん、…………離れていて下さい。」
「へ?」
テイさんの大人しめの声に反応して彼女の方を振り向いた俺だったが、そこで恐ろしいものを見てしまった
「はああ!!」
……見えなかった。テイさんが目を発光させながら、後ろから尿瓶にナイフを投擲した。中身が入ってない状態で良かった……。
瓶が粉々やんけ!!
俺が見てしまったと表現したのは、尿瓶が粉々になることだからね?
「ふええ!? どうしてヤカンが壊れちゃったの!? せっかく食堂の人がくれたのに……。」
その尿瓶は食堂の人から貰ったのか……。そう言えば関所の人たちのテイさんたちを見る目は常軌を逸していたからな。
お漏らし癖は問題があるものの、それでも美人だからレイさんと同様に人気があるのだろう。
そもそもヤカンではないからね!!
うちのカンナに間違った知識を植え付けやがって……、帰りに関所の奴らをボッコボコにしてやろう。
「……関所の奴ら、来月の給料は減額ね。領主権限を発動させてやる……。」
……マイさんの目つきが怖いんだよね。頭部に血管を浮かび上がらせならがら公私混合を公言する、姉妹のより残念な方のマイさん。
ギリギリ20代と言い張る彼女は俺に向かって、やたらと胸を強調しながらぶりっ子のフリをしてくるのだ。
ほらほら。
マイさんの隣でテイさんが怒ってますよ?テイさんは知的な雰囲気のままで、背景に火柱を立てるタイプだから怖いんだよ。
「……マイ? それは私に対する嫌がらせかしら?」
「へ? 違うってばあ!! お姉ちゃんの胸は量産型でしょ? だから、あたしがお色気担当をしないとダメじゃない!!」
……マイさんって本当にアレだよね?
言っていることの意味も分からないし、迂闊なことを言い過ぎて自然と敵を作るタイプなんだろうな。
そもそも胸の量産型って何!?
「……来月のマイのお小遣いは無しね。」
領主なのにお小遣い制なの!?
「そんなあ、あたしはお姉ちゃんと違ってブラの素材が緩みやすいの!! 許してよおおおおおおお!!」
おお……、マイさんも至極もっともっぽい言い訳を言ってはいるが。
アレは火に油だな?
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