第42話・テイ&マイ後編

「ああ、……だんだん俺もこの二人が憐れに見えてきちまったよ。汐、優しくしてやりなって?」


「パベルうううう……、君は霊体に抱きつかれていないから、そんな呑気なことが言えるんだよ!!」


「……その人たちのファンクラブ、……『TMOMT』だってさ。」


「ん? パベル?」


 パベルがウィスキーが注がれているグラスに口をつけたかと思えば、今度は大きくため息を吐いている。


 ……何度でも思うが、良い予感がしない。


 そもそも俺の親友は、どう言う経緯でテイさんたちと仲間になったんだよ?


「テイ・マイ・お漏らし・もっと・たくさん、だとよ?」


 この二人のお漏らしって世間様にも認知されてるってこと!?


 俺は思わず、この二人を哀れみの目で見てしまっている……。


 そうか、俺はこの二人に優しくしないといけないんだな?


「テイさんは知的な美人さんなんだから、いつか結婚できますよ? 俺が保証する。」


「ほ、本当ですかあああああああ!? 汐さんが私に優しくしてくれる……、もう、この機会は逃せませんね。」


 ん? テイさんが何かブツブツと呟き出している。


 ……もしかして俺って泥沼にハマってしまったのかな?


「汐くん!! マイは!? マイは結婚できると思う!?」


 おわっ!! マイさんも、いや。マイさんの霊体が俺に話しかけてくる!?


 こっちもフォローが必要なのかよ、……メンドくせえ。


「マイさんは、…………うん! できるよ、多分だけど。」


「お姉ちゃんは断言しておいて、あたしにはしてくれないのおおおおおおおお!?」


「いやあ、マイさんは領主だし。うーん、自由恋愛はダメでしょ?」


「そう言う事じゃないの!! 『マイたち』のお漏らしを笑って許してくれる人がいるかって事でしょ!?」


 でしょ!? じゃねえよ!!


 どこの世界にお漏らしを許容する男がいるんだよ!!


 ……いるのか? いそうだけど断言できません!!


「マイ…………。『マイたち』ってどう言うことかしら?」


 ふぁ!? テイさんの血管が数本切れちゃったの!?


 だが、確かにマイさんの声が大きかったからな。


 もしかして、これで俺は二人から解放されるのかな?


 テイさんの怒りがうまい具合にマイさんに向いたから……。


 この二人には『ジェットコースター作戦』の効きが悪んだよね?


「お姉ちゃんだって、お漏らしするでしょ!? あたしだけバカにされるのは、もう嫌なの!! どうして領主なのに領民から肥料扱いされないといけないの!?」


 恥ずかしい!! 領民もマイさんに優しくしてあげれば良いのに……。


 肥料扱いって……そう言う意味だよね?


「マイ!! 私だけでも結婚して幸せになります!! もう汐さんと添い遂げる覚悟ができました!!」


 そんな覚悟はせんで良いわい!! ゴミ箱にでも捨ててしまえ!!


「お姉ちゃんだけヒドい!! マイだって汐くんと結婚するんだもん!!」


 もん!! じゃねえ!!


 頼むから関所のセキュリティーを上げる暇があったら、股間のセキュリティーを上げてくれません?


「汐さん、お漏らしってどう言う事ですか?」


 げげえ……。カンナがお漏らしに興味を示しちゃったよ。


 ここは流石に慎重に言葉を選ぶ必要があると思う。


 どうしようかな? カンナはこの二人に懐いているみたいだし、……そうだ!!


「ほら、この二人は元・諜報員だから情報が漏れたらマズいよねって話だよ。」


 しゃあ!! 完璧な言い訳だ!!


「そう言う事ですね。私だって3歳の時からお漏らしなんてしてないのに、大人でお漏らしをしたら恥ずかしいですよね? 私も情報が漏れないように気を付けます!!」


 俺の言葉に可愛い敬礼を返してくれるカンナだったわけだが。


 だが、どうやらカンナの言葉がトドメになったらしい。


 何しろマイさんだけではなく、テイさんまでもが口から霊体を出して固まっているのだから。


 カンナの純粋無垢な言葉は凶器だなあ。


 そもそも、この二人が起きてくれないと俺たちはムーカルッスに入れないんだけど?


 はああ……、今日は諦めよう。


「ねえ、汐?」


「ガイア? どうした?」


「今日の飲み代は、この二人が払ってくれるのよね?」


「ああ、どうだろう? って、うわああああ!!」


 俺は思わず間抜けない顔を晒してしまった。


 それは目の前にガイアが飲み尽くしたウィスキーの樽がゴロゴロと転がっているのだから。


 ……この駄々っ子女神は、その体のどこにこれだけの水分を収納するんだよ。


 目の前に広がる樽の山と、キョトンとしたガイアの表情に俺は頭を抱え込むだった。


「テイさんもマイさんも、いい加減におきて下さいよ!!」

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