第42話・テイ&マイ前編

「はい!! 汐さん、お口を開けてくださーい。あーーーーーーーー……ん?」


「……テイさん。この姿勢になる意味は?」


「私の趣味です。」


 あんたもかよ!!


 頼むから俺と顔を突き合わせながら、人の膝の上に乗らないでくれません!?


 俺たち四人はなんとか、先ほどの状況を脱することができた。そして関所の中にある食堂で休憩を取っているのだが。どう言うわけかテイさんが俺から離れないんです。


「むうううう、汐はペチャパイ族にモテるのね? これは戦争よ。」


 頼むからガイアも余計なことを口走らないでくれません!?


 ほらあ!! テイさんの顔が怖いんだよ!!


 人の口に揚げあての唐揚げを運んでおいて、手を止めるんじゃねえ!!


 熱いから……、口の中が火傷してしまう。


「汐さん、この二人は一緒に戦うとすごく強いんです!!」


「へえ? だけど確かに強かったと思うよ。」


 カンナが俺の横で目を輝かせながら、テイさんたちのことを自慢してくる。


 レイさんにも懐いていたこの子だったが、この二人には少しだけ違う感情を抱いているみたいだな。……そうか、そう言えば、この二人は獣人だったな。


 この世界の獣人は差別の対象だったはずだ。と言うとは、カンナはこの二人を純粋に尊敬していると言うことなのだろう。


 ええ……? カンナがこの二人を尊敬しては駄目だ。


 この子の未来が暗雲で立ち込めてしまう。


 それにパベルの話によると、……この二人は『お漏らし魔』だと言うのだから。


 俺も思わず頭を抱えてしまうと言うものだ。


 ……マイさんなんて、さっきは霊体がお漏らししていたからな?


 信憑性がぐんと跳ね上がってしまう。


 そして俺の目の前で目をキラキラと輝かせているテイさん。


 ええ? ……この人もそうなの?


 俺の膝の上は大丈夫かな?


「汐、そのオバハンがマーキングしないうちに逃げた方が良いぞ?」


 だから、なんでパベルとガイアはこの二人に辛辣なんだよ!?


「……パベルさん、いくらなんでも失礼ではないですか?」


 ……テイさんの目つきは人を殺すそれだと思う。さすがは元・諜報員だ。


 彼女の発する威圧感はレイさんのそれとは、また種類が異なるものだ。


 はああ……。メンドくさいな。


「パベル、君はどうして、そんなにテイさんたちを目の敵にするんだよ?」


「汐、この二人からは負け犬の匂いがするんだよ。……うまく言えないんだけどね。」


「負け犬? パベルも初対面の人に失礼だろうに……、ん?」


 テイさんの目が泳いだ?


 この人……ガイアとカンナの胸をチラチラと見ているのか?


「テイさんはさっきからガイアたカンナの方をチラチラと見てますよね?」


「ひゃわ!? い、いえ!! そんなことはありませんよ!?」


 あ。……俺は見てならないものを見たらしい。


 上擦った声で何かを誤魔化すテイさん。だが俺はテイさんの異変に気づいてしまったのだ。この人はやはりダメ人間だった!!


 テイさんは……無意識のうちに服の中に肉まんを入れて増量してたんですよ!!


 そうか、パベルの言う負け犬というのはこう言うことか?


 大きな胸に屈すると?


 で、自己防衛本能が働いて無意識に肉まんを服の中に入れたと?


 アホか!!


「ところで、さっきから気絶しっぱなしのマイさんはどうするんですか? そう言えばパベルがファンクラブの話をしてからだよね? ああなったのは。」


 おっとお? テイさんが、またもや挙動不審な行動をしているではないか。


 あれは股間を押さえているよね?


 これも嫌な予感がするな……。


「……汐さん? そろそろお姉さんと一緒におトイレ行きません?」


 壊れちゃったよ!! テイさんが壊れちゃった!!


 どう言う思考回路をしていると男と連れションなんてするんだよ!!


「はははー……、テイさんも冗談を言うんですね? 大人になってお漏らしするわけでもないのに。」


 げっ!! テイさんが本気で泣いている!?


 もしかして……。


「ぐずっ!! ここ十数年はお漏らしなんてしてませんからね!!」


 おわああ!! テイさんが、もの凄い勢いで俺の両肩を掴んでくる!?


 頼むから俺の肩を掴みながら揺らさないでくれません!?


 しかも十数年はって事は十数年前にはお漏らししたってこと!?


 テイさんって30代前半だよね!?


「テイさん、揺らすのはやめてえ……。『漏れちゃうよ』、……グラスの水が。」


 あ、『溢れちゃうよ』の言い間違いだった。


「汐さんまで私のことをお漏らしっ子だってバカにするんですかああああああ!?」


 単語を違えてしまった!!


 「しません、してませんから!! テーブルの上に置いてある『股間』から水が溢れちゃうってば!!」


 あ、『ヤカン』の言い間違いだった。


「汐さん!! そんなに私がそんなに締まりの悪い股間をしてると思ってるんですか!?」


 またやっちゃったよ!!


「言い間違えですってば!! テイさんみたいな美人さんがそんなわけないでしょうが!!」


「やっぱり汐さんは私の運命の人だったんだわ!! 結婚しましょう!!」


 だああ!! 抱きつくな!!


 これじゃあ、エディベアの二の舞ではないか!!


「マイは……、マイは霊体が勝手にお漏らしするんだよおおおおおおお!!」


 今度はマイさんが騒ぎ出した!?


 え? 何? これってどう言う状況だよ!?


 マイさんが口から吐き出してる霊体が俺の腰を掴んで離さないって、どう言う事!?

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