第三章之ニ・三魔将編【海魔将】

第37話・子連れ侍

「パベル、これ良いね? 楽ができて最高だよ。」


「……まあ、ね。レイの姐さんが貸してくれたものだし、荷物を感じさせないから便利だけど。周囲の目がヤバい事になってるぞ?」


「おい、ガイア? そろそろ俺たちのステータスを確認しときたいんだけど。サボってないで働いてくれる?」


「汐……? こればっかりは俺もガイアのお嬢ちゃんに同情するぜ? 流石にリアカーで移動するっていうのは……マズイんじゃないか?」


 俺たちはこれからの目的をムーカルッスと見定めてからエディベアを立っていた。


 それはムーカルッスに向かうのであれば、その関所を通る必要があると言うのだ。


 そして、その関所のセキュリティはこのサウザンディ王国においてもトップクラスらしく、その通行手形も高額なのだと言う。


 ムーカルッスは過去に獣人が迫害されていた時の名残があるらしく、住民も獣人が多いと言う。


 だからこそ、その手形を持っている人物に会う必要がある。


 ……この駄々っ子女神が考えなしにビールを飲むから俺たちは金欠なんだよ!!


「良い薬だよ。ガイア、聞いてる? ここで仕事を放棄するなら君の信者に女神様が『乳母車』に乗っているって教えるけど?」


「いやいやいやいやいや!! 絶対に止めてよおおおおおおおお!!」


 うぜえ……。鼻水まみれで俺に抱きつかないでくれる?


「そろそろガイアもおしゃぶりが欲しくなってきたでしょ? レイさんから餞別でもらったんだけど、いる?」


「いやあああああああああ!! ねじ込まれるなら汐も舌が良いわ!! ビールと『タン汐』以外は私の胃袋に収まるものはないんだから!!」


 タン汐? 上手すぎてツッみづらいなあ……。


「でも汐さん。レイさんも荷物運びにこのリアカーを貸してくれたんですから……私も乗ったほうが良いんじゃないですか?」


「カンナは良いんだよ。軽いし。俺も背負ってると暖かいから。ガイアは無駄に重いんだよね?」


「そ、そうですか? へへー、汐さんにチューした甲斐がありました。」


 俺の背中で上機嫌に頭を擦り付けてくるカンナだが、話を聞くと俺がジョルジョルに挑んだ前夜に寝込みを襲ったと言うのだ。


 ……11歳の少女が真夜中に男にチューをする。


 あかん光景だな……。


 カンナが言うには自分だけ仲間外れが嫌だったそうで。


 それだけの理由で君は男にチューをするのか!?


 しかもカンナが『真実の目』のスキルを習得してしまったから、ガイアがいよいよこのパーティーの中で存在感を薄くしてしまっているわけだが。


 本当に末恐ろしい子だと思う。


「汐は本当にロリコンじゃないんだよな? 妹としては心配なんだが。」


「え!? そんなわけないだろ!! パベルも恐ろしいことを言うんじゃないって!!」


「……そうかい? 汐の顔が気持ち悪いくらいにニヤついてるのが気になっちまってね。」


 やべえよ!! またもや俺のスキルが火を吹くぜ!!


 スキル『顔面マッサージ』!! ホアタタタタ!!


「汐? 私って要らない子?」


 うぐう!! ガイアが……乳母車もといリアカーの中から涙まじりに俺をみつけてくるじゃないか。


 2000歳のくせにロリっ子だから罪悪感が俺を襲ってくるんだよ!!


 しかも周囲を歩く冒険者たちの冷たい目線……はっ!!


 俺はパベルに目線を送る、すると彼女も同意見だったらしい。


 そもそもが俺が迂闊過ぎたんだ……。


「どうやら俺と汐が若くして、デキちまったカップルみたいに思われているみたいだね?」


「……やっぱり? パベルもそう思う?」


「汐おおおおおおおお!! それはどう言う事!? 私と言うものがありながら!!」


 何もかもがうぜえ!!


 俺はカンナに聞きたいことがあるんだよ。


 だからお前は自前の『中華まん』を持ち上げながら泣くんじゃない!!


「カンナ、ここまで来たらこっちから聞くけど、君のお母さんはどこにいるのかな? それとトリーの街を目指したのもエディベアを目指すためだと言っていたけど、それ自体の目的も分からないままだ。」


 俺はレイさんからこの子の母親が生きている、と聞いた。


 父親の雷太は魔王に殺されたらしいが、それならば、どうしてこの子は一人でエディベアに向かったのだろうか?


「……お母さんは魔王に捕まってるんです。エディベアに行ったのはレイさんに魔王の居場所を聞きたかったんですけど……。」


「レイさんも知らなかったって事か。」


 カンナは弱々しく首を縦に振っている。


 父親が魔王に殺され、母親は捕まっている。


 魔王と戦った時にカンナが見せた反応に、俺は今更ながらに納得してしまった。


 だが、どうして魔王はこの子の母親を捕まえているんだ?


 ……最悪の状況を考えれば、殺されてもおかしくないはずだが。


「そうか、お嬢ちゃんの母ちゃんはあの『ビーストスレイヤー』か。」


 パベルが静かに口を開きだす。


 ビーストスレイヤー? またしても聞いた事のない単語が出てきたな。


「パベル、俺にも分かるように説明してくれないかな?」


「ああ、ビーストスレイヤーってのは『聖獣殺し』のことさ。獣人たちは『ビースター』とも呼んでるらしいが、そいつの直系は獣人化をすることができるらしいんだ。」


 パベルの言葉にカンナが表情を曇らせる、……そう言う事か。


 この子も、その獣人化ができると。


「なんで魔王はカンナのお母さんを捕まえてるのさ?」


「俺どころか三魔将ら幹部たちも、その理由を知らないらしいんだ。悪いね、お嬢ちゃん。」


「いえ、パベルさんが謝る事じゃないですから!! 私はただお母さんを助けられればそれで……。」


「カンナ、それはムーカルッスに着いたら調べよう。パベルも情報をありがとうね。……ガイア、仕事は?」


「……はい。こちらに書き綴ってあります。」


 俺はこの件についてこれ以上の会話は不要、とパベルとカンナに釘を刺す。


 だが二人は俺の真意を理解してくれたようで、微笑みながら俺に視線を向ける。


 今はとにかく海魔将レオーネを倒すこと、それを目的に向かうはムーカルッス。


 そして俺はガイアに頼んだ仕事を確認すべく、彼女から手渡された紙に目を通した。


 ……やはりガイアは駄々っ子女神だった。


 彼女に安定した仕事を頼んだ俺が馬鹿だと思い知らされるわけで。


「はあ……、次からはカンナにステータス確認をして貰おうかな?」


「なんでええええええええ!! 汐は私からファーストキスだけじゃ飽き足らず存在意義まで奪って行くの!?」


「うっさいわ!! 君がくれた紙が涙で滲んでるから字が見えないんだよ!!」


 そもそも君は女神なんだから存在意義は世界の平和だろうが!!


 むむむ……、ガイアの口走った事が世間体を著しく脱線する事だったためか、それに反感を覚えた周囲の冒険者たちが俺に……魔法を放つ準備をしているだと!?


 こいつらも全員ロリコン確定だな!!


 いや、こいつはもしかして駄々っ子女神に混乱させられているのか!?


 この冒険者たち、全員の目が据わっていますがな!!


 俺たちはムーカルッスへ向かうべく、その関所に向かって全速力で走り出すのだった。


 そして、その関所で待つレイさんの言うムーカルッスの現領主に会うために。


「くそおおおおおお!! ガイアはどこまで行っても使えねえ!!」


「汐おおおおおおお!! 私を見捨てないでえええええええええ!!」

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