第36話・地下牢でフルボッコ

「……お前、何をしに来たんだ?」


「自己紹介しに来た。」


「は?」


「だから自己紹介だよ。お前と戦う前に名乗ってなかったと思ってさ。俺は丸木 汐。」


「……お前、正気か?」


「この機会を逃すと王都に護送されるって聞いたからさ。それと教えて欲しいスキルがあってさ。」


「……勝手に話を進めるなよ? それにしても負かした相手に教えを乞う奴がいるとはね。しかも俺は魔族だぞ?」


「俺の妹も魔族だから。」


 俺はエディベアにある留置所に足を運んでいた。


 理由は至って単純、ここに留置されている元・魔王軍の三魔将ジョルジョルに会いに来たのだ。


 俺はこいつとの戦いで感じたのだ。


 こいつの風スキルが羨ましいと思ってしまった。


 俺自身は風魔法の『ウィンドスラッシュ』を習得しているが、こいつの爆風は桁が違うと思った。


 だからこそ教えを乞うわけで。


 そのついでに自己紹介をしているだけだ。


 俺だったら名前も知らない奴に自分のスキルを教えるのは嫌だから。


「ちょっと待て。お前、……アホらしくなって来た。断っても帰りそうにないな?」


「因みに看守のお姉さんにも許可を貰ってるから。教えないと刑が重くなるかもしれないから気を付けて。」


 俺の後ろで事の成り行きを監視している看守のお姉さんたちを指差しながらジョルジョルを脅してみた。


 ……お姉さんたちの顔が若干だが引き攣っているのは無視しておこう。


「サラッと恐ろしいことを口走るなよ!! ええ……、ここで教えるのか?」


「お前は外に出れないらしいぞ?」


「……はあ。スキルの習得は人間のギルドでもできるだろう?」


「金がかかるだろ? お前に教わればタダだから。」


 スキルの習得は戦いの中で覚えるか他人から教わるかの二種類となる。


 ギルドに受講料さえ払えばある程度のスキルを学べるのだが、高いんだよね?


 お? 後ろで看守のお姉さんたちがさらに顔を引き攣らせているけど、大丈夫か?


「……お前には恩義もあるからな。分かった、教えてやるよ。」


 頭を掻きながらも俺の頼みを聞いてくれるジョルジョル、俺は思わず笑ってしまった。


 こいつは一国の軍隊を殲滅したと聞いていたから。


 俺はジョルジョルがどれほどの悪人かと思ってみれば、実際に話してみればどうと言う事はなかった。


 やり過ぎだとは思うが、生い立ちの件も聞いてしまえば納得もしてしまう。


「そう言えばジョルジョルって大国の騎士団を殲滅したって聞いたけど、どうやったのさ?」


「ああん? 俺の鎧はあんな雑魚どもにダメージを負わないんだよ。一ヶ月もかければ全員半殺しだっての。」


「へ、へえ? 一ヶ月も我慢比べしたんだ、それは凄いな。」


「なのに魔王の野郎は『一ヶ月もあれば他にも色々とできただろう』とか言ってボーナスカットにしやがったんだぞ? 信じられるか?」


 俺の嫌味が通じてないんだ……。


 こいつもある意味で大物だな?


「それによ、あの騎士団は進軍だとか言ってアリさんを踏み殺しやがったんだぞ? そんな非道な奴らを許せるか!?」


 お前は犬を助けるために新幹線を止めたどこぞの超人かよ!!


 確かに命は尊いよ?


 だけどアリさん一匹のためにお前は何十万人という騎士を半殺しにするのか!?


 などとツッコミを入れていると、ジョルジョルはスキルを教える準備ができた様で俺に手招きをしている。


 俺は『スキルの継承』が初めてだから予備知識が欲しいところなのだが。


「良いか? 俺はお前にスキルを習得するキッカケを与えるに過ぎん。あとは勝手にしやがれ。」


「悪いね? 俺って所持金の手持ちが少ないんだ。」


 ジョルジョルは目を閉じて集中状態となる。


 だが彼はほんの数秒ほど目を閉じてたかと思えば、今度は何事もなかったかのように俺に話しかける。


 唯一変化があった事と言えばこの留置所に風が吹き荒れた事くらいだろうか?


「ほら、終わったぞ? これでお前は『ストリーム ステイト』を習得したわけだ。」


「ありがとうな。お前に教わったスキルは無駄にしない。」


「はん!! 勝手にしやがれ。」


 スキルを教えて貰ったことに対して素直に感謝する俺と照れるジョルジョル。


 俺たちは自然と笑い合える関係になっていた。


 そう、『俺たち』はだ。 


 ……周囲の様子がおかしい。


 ざわつく他の牢屋に収容されている下卑た笑みを浮かべる男たち。


 そして俺の背後から聞こえてきた女性たちの悲鳴。


 さらには俺の前で引き攣った顔をするジョルジョル。


 ……俺は最悪のシナリオを思い描いていた。


 俺がゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはスカートを手で押さえる看守のお姉さん方が俺たちを睨み付けていたのだ。


「ジョルジョル、下手人はお前だよ?」


「おい!! 丸木 汐、お前がスキルを教えろって言ったからこうなったんだぞ!?」


 ジワジワと俺たちに歩み寄る看守のお姉さん方の目に俺たちは、牢屋越しに抱き合って震え上がるのだった。


 そもそも、どうして留置所の制服がミニスカなんだよ!!


 その後、ギルドへ戻った俺は顔をボコボコに腫れ上がらせている理由を仲間たちに問い詰められた。


 すると、その下手人たる看守のお姉さん方とジョルジョルに怒りの矛先を向けたガイアたちによって、この留置所は修羅場と化すのだった。


 これが世に言う『ミニスカポリスの乱』である。


 ネタが古過ぎません!?

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