第34話・対陸魔将③

「レイさん!!」


 俺は後ろに、……爆風の要因であるジョルジョルに視線を向ける事なくレイさんに走り寄っていった。


「痛あ……。足をやったみたいね? これは戦闘中の完治は無理だわ。」


「っ!!」


 レイさんの足が人間の可動域を超えた曲がり方をしている。


 ……彼女の右足が骨折しているんだ。


「汐くん、私は大丈夫だから。陸魔将に集中しなさい。」


 俺が振り返ると視線の先には鎧をすべて脱ぎとって悠然と歩くジョルジョルが立っていた。


 青い髪をオールバックにまとめた男、俺よりも少しだけ年上だろうか?


 威圧感。


 ジョルジョルからは威圧感を感じる。


 それは鎧を着込んでいた時よりも圧倒的じゃないか。


「ふううううう……。久しぶりに鎧を脱いだよ。このスタイルで戦うのは久しぶりだな。」


 ジョルジョルの言葉の意味。


 それは鎧を着込んだあいつが本気ではなかった、と言う事だろう?


 俺は背筋が凍ってしまった。


 パベルからもガイアからも力を得られない俺にどうやって戦えと言うんだ。


 知らなかったわけではない、知っていた。


 俺は仲間に支えられている事を。


 仲間に支えられないと戦えない事を。


 レイさんに顔を向けることができずにいた俺だったが、当のレイさんが俺に話かけてきていた。


「汐くん、スキルの『契約』を使ってなかったんでしょ?」


「知ってたんですか?」


「雷太がマザーと融合していたからかな? 何となくだけど。『全員の契約』を試してみた?」

 

「試したさ。パベルもガイアも、二人に何かがあったんだ!!」


「……まだ全員試していないのね?」


 レイさんはこの状況下で何を言っているんだ?


 ジョルジョルが刻一刻と近づくこのタイミングで……、『全員の契約』?


 まさか?


「カンナとは契約自体をしてないんだ!!」


「……昨日の夜、契約してたのよ? あなたは気づいていないだろうけど。」


 俺は自分の口元に手を添えてみる。


 一才の記憶もない、まさにカミングアウト。


 レイさんは嘘を吐いてない、……本当に?


「カンナは何でそんな事を!?」


「あなたの役に立ちたかったんでしょ? 察してあげなさい、そして勝つのよ!!」


 状況の整理が追い付かない。


 隣には俺にゲキを飛ばしてくれる人、目の前には悲しそうな目をしながら歩み寄る敵。


 そして目の前にはいないが俺を応援してくれ仲間の存在。


 俺はこの状況に力が漲っている!!


 自然と裏書きスキルが発動される、スキル名称は確認しなくとも分かる。


 ーーーー『獣人との契約』。


 これはパベルの力を借りた時と同じ感覚だ!!


 俺は漲(みなぎ)る仲間の力に後押しされて、ジョルジョルに向かって走り出した。


 ジョルジョルの顔は……喜んでいるのか?


 そこは驚くところだが!!


 予想外の反応を示す敵に、俺は再び持ち替えた槍でひたすら突き続けた。


「うおおおおおおおおお!!」


「動き自体は速くなっているが、内容は先ほどと、さして変わらないようだな? こんな短調な攻撃が俺に当たると思っているのか?」


「これなら当たるだろう? よそ見をしている場合じゃないだろ!!」


 その場から一歩踏み込んでジョルジョルの足を踏みつけた。


 すると、こいつは『ちっ!!』と舌打ちをしながら剣を振るってくる。 


「それは悪手だろ!!」


 嫌味のつもりで発した言葉ではない、俺は本当にそう感じていた。


 俺は左足でジョルジョルの右足を踏みつけながら、その足を軸にして右足を垂直に持ち上げる。


 サッカーで言うところの『バイシクルシュート』の形だろうか?


 俺の右足がジョルジョルの死角からその頭部に向かって走る。


 そして俺は槍を投げ捨ててから、悲鳴をあげて後方に倒れ込む彼を両手で掴み、そのまま一本勢いの大勢に入った。


「うおあああ!? 槍の攻撃が囮だと!?」


「後は俺が何とかしてやるから、お前は眠ってろ!!」


 俺の投げ技の前にジョルジョルは頭部から地面に叩きつけられる事となった。


 そのままダラリとバランスを崩しながら倒れ込む陸魔将に向かって俺は言葉を送りながらレイさんに歩み寄っていくのだった。


「お前のことは受け止めたからな?」

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