第35話・冒険者ギルドの食堂④ in エディベア

「んぐんぐんぐ……ぐうううううううう……ぱあ!! ビールはいつのでも美味しいわ……。」


「ゴキュゴキュゴキュゴキュ、ぷはああああああああああ!! 汐くん、飲んでる!?」


「……俺は梅酒で良いので。」


「何を言ってるの!? 魔王軍の幹部を倒した英雄が、そんな事でどうするのよ!!」 ウェイトレスのお姉さん、ビールを樽のダースで追加ね!!」


 樽のダースって何!? え、樽が12本って事!?


 それは追加注文で口にして良い単位ではないでしょ!?


「汐、俺はもう飲めないぞ?」


「パベル、……君の師匠でしょ? レイさんを止めてよ。それに今回は役に立ってないんだから。」


「うぐっ!! お前もえぐい男になったね?」


 俺はパーティー全員にレイさんを含めてエディベアのギルドに併設された食堂にいる。


 そして安定の、いや、レイさんがいるおかげでいつも以上の修羅場です!!


 ああ、そう言えば昨日経験済みだったな。


「ねえ、汐くん? そろそろお姉さんと抜け出さない?」


 んぐう!! レイさんって酔っ払うといつも以上にダメになる人なんだよね!!


 勿論、昨日経験済みですけど?


 だけど、これは昨日以上だ!!


 灯油ポンプを使って樽からビールをグラスに注ぐって、どう言う事!?


 しかも俺の顎を人差し指で持ち上げるんじゃねえよ!!


 ……どこぞのスナックのママか!!


「汐おおおおおおお!! 私だっておばさんには負けないんだからね!!」


 ガイアも対抗意識を燃やすんじゃねえ!!


 どこの世界の男が左右から顎の下に人差し指を差し込まれるんだよ!!


 ……ツッコむの疲れてきた。


 あ、ツッコみ忘れてた!!


 ガイアの方がレイさんよりも年上じゃねえか!!


 もう良いや。


 俺は十分にツッコんだから今日はお役御免だ。


 今日はチビチビと飲むんだもんね……、決めたんだから。


「汐さん、今日は飲ませてくださいよ!! 私はパベルさんと違って役に立ったんですから!!」


 やべえ、この子もいたんだった。


 カンナが俺の後ろで服を引っ張りながらアルコールを所望しているわけだが?

 この子は悪気が無いからニュートラルに人を落ち込ませるんだよね?


 ほらあ、……パベルがあからさまに肩を落として落ちこんでますやん。


「パベル、飲む?」


「汐、確かに俺はしくじったぞ? でも、ここまで言われないとダメか?」


 今回、俺は『魔族との契約』を使えなかった。


 その理由はパベルが気を失ったからだと言う。


 だが、その根本的な原因はガイアにあったのだ。


 カンナと一緒に俺たち三人を追いかけて来たガイアは、注意を受けながらもジョルジョルの根城にあるトラップのボタンを押してしまったらしい。


 そこに駆けつけたパベルがガイアたちをギリギリのところで救出したと言うのだ。


 ……パベルも憐れだね?


 さっきは役に立ってないとか言ってごめんね?


「汐くん? そろそろ今回の事後報告に入っても良い?」

「レイさん、事後報告はありがたいんですけど、この体勢になる意味は?」


「私の趣味よ。」


 ふざけんなよ!!


 どこのギルドの経理責任者が男の膝の上に座ってクエストの事後報告をするんだ!!


 だから顔を正面に持ってくるな!!


 首に手を回すんじゃねええ!!


 キャバ嬢か!!


「で、ジョルジョルはどうなるんですか?」


「魔王軍だったからお咎めなし、とは言えないけど極刑だけは何とかま逃れそうね。」


「ジョルジョルは人間の社会で生きていけそうなんですかね?」


「うーん、私の知り合いに王族がいるから頼んではいるけど。王族の護衛になるんじゃないかしら?」


「レイさんって本当にご令嬢なんですね?」


「そうよ? でも、この人脈は雷太のものね。あいつに感謝なさい。」


 ふむ、あいつも頼もしい奴だったけど。


 まさか王族とコネクションを持っていようとは思わなかった。


 俺のコネクションなんて駄々っ子女神だけだぞ?


 落ち込んじゃうよ……。


「ぷっはああああああああ!! やっぱりビールは樽生ね!!」


 ガイア、お前は黙ってくれ。


 どこのビール会社のCMだよ……。


「まあ、これで陸魔将を倒したわけだが。汐はこれからどうするか決めてるかい?」


「具体的な計画って事だろ? 魔王軍の幹部を倒して行くしか無いとは思っているけど。パベルの方が詳しいんだから教えてくれよ。」


「……海魔将だろうね。あいつはジョルジョルとは正反対だから嫌いなんだよね。」


 パベルの顔が曇っている。


 彼女は割と感情を顔に出すタイプだから俺は不安を覚えている。


 パベルが嫌い、と公言するのだから納得するだけの理由があると思うが。


 俺にはさっぱりだ。


「ジョルジョルと正反対ってどう言う事? 生まれが裕福って事?」


「海魔将のレオーネ・ボヌボヌは卑怯かつ残虐な男で有名なのさ。とにかく自分で動く事を嫌う。まともに相手をすると痛い目をみるのが目に見えてるからね。」


「……それってジョルジョルと比べるとどうなのさ?」


「汐くん、レオーネの残虐性は有名よ? どれだけの人間が奴の拷問で命を落としたか数え切れないわ。」


「さすがは姐さん!! よく知っている、あいつはイカれたクソ野郎さ。」


 海魔将のことを語るパベルとレイさんの表情が強張っていく。


 俺もトリーの街で魔王の噂を耳にした時に、必ずと言って良いほどその噂の中に出てくる名前があった。


 それが海魔将のレオーネ・ボヌボヌ。


 これまたネーミングセンスが腐っている名前の男だが、それ以上に性根が腐っているらしい。


 ジョルジョルはパベルたちの事をブラフで利用していたが、決して一線を踏み外すことはなかった。


 ……レオーネはそうではない、と言う事か。


「汐おおおおおおおお!! ここの食堂はウォッカも美味しいわよ!!」


 ガイア、だから飲み過ぎ!!


「ガイアさ、ここの食堂はツケが効かないからね?」


 お? ガイアが固まったぞ。


 やはり駄々っ子女神は気付いていなかったらしいな?

「汐? 何を……バカなことを言っているの?」


 おお、ガイアの手が震え出しているじゃないか。


 ウォッカにも耐えてみせたガイアが恐怖で酔うとは思わなかったよ。


「ここは今日限りなんだからツケなんてできるわけないでしょう?」


「いやああああああああ!! 汐、私の中華まんを食べ放題にするからお金貸して!!」


 めんどくせえ……、思わず顔が硬直しちゃうよ。


 この四人に囲まれながら飲んでると周囲の冒険者全員から陰陽師顔負けの呪いの束が飛んでくれるんだよ……。


 しかも思いの外、レイさんの人気が高いらしく、この人にキャバレー接待を受けてると彼女のファンクラブの連中が歯軋りを立ててくるんだよね?


 通称『TSR』、とってもサディステックなレイ様。彼女のファンクラブの名称です。


 しょうもな!!


 この世界ってネーミングセンスが根本的な部分で崩壊しているよね?


「汐さん、ツテがないと海魔将と戦うことすらできませんよ?」


「ツテ? カンナ、どう言う事?」


 先ほどまでアルコールを所望していたカンナだったが、話の筋が見えない事を口にしてきた。


 魔王軍と戦うのにツテがいる、と言うのはどう言う事だろうか?


「汐くん、カンナの言っている事は本当よ。レオーネの根城がムーカルッスにあるのが原因ね?」


「ムーカルッス? 地名を言われても分からないんですけど。」


「ムーカルッスは島を領土する地域よ。関所を通るためのセキュリティが厳重なの。私の幼なじみがそこの領主をしていた時期もあったけど、今は別の人物が領主をしているのよね……。」


 ん? レイさんが嫌そうな顔になっているぞ?


 彼女がこんな表情になると言う事は、その新領主がそんなに嫌な奴だと言う事か?


「汐さん、そこの領主様はとっても良い人ですよ!!」


 俺はムーカルッスと言う地名に両極端な反応を示すこの二人を見ながら、首を傾げざるを得なかった。


◆◆今回の戦果◆◆

パーティーは陸魔将軍を倒した


汐のレベルが上がった:LV.51→LV.56


女神ガイアのウェストサイズが上がった:56→57


獣人カンナのレベルが上がった:LV.15→LV.20


魔族パベルはレベルが上がった:LV.41⇒45


汐は新しいスキル、裏書スキルと魔法を覚えた


女神ガイアは新しい称号を取得した


獣人カンナは新しい裏書スキルを覚えた


獣人カンナは新しい称号を取得した


魔族パベルは新しいスキルを覚えた

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