第33話・対陸魔将②

「術(すべ)?」


「あなたのスキルはどれも強力だけど、それでは意味がないわ。今のあなたはただ暴力を振るっているだけなの。」


「……じっとしていて下さい。治療ができない。」


「汐くん。人はリスクを排除するために武術を学ぶわ。剣が当たらないから当たるように工夫をして、斬りつけられるから避けるように工夫をする。」


「……俺が闇雲に戦っているってことですか?」


「そこまでは言わない、あなたは頭が良いから。でも、そのままだと、いつか限界が来る。……後は自分で考えなさい。」


 俺の手に力が入っていく。


 レイさん、この人は優しいな、俺のせいで切りつけられたにも関わらず。


 俺の面倒を見てくれるのか?


 この人も、どこかの駄々っ子女神と違ってギャップが凄いんだよ。


 だが、ここまで言われたら……。


 先ずはおさらいだ。俺のスキル『洞察力』でジョルジョルを観察する。


 ジョルジョルは全身フルプレートの甲冑を着込んでいるから、動きが鈍いと思い込んでいたが、そうでもなかった。


 だが動くのは一瞬、俺がレイさんの治療をしている間も動きを見せなかった。


 ……ステータス向上系魔法で一時的にステータスを上げただけか?


「……赤いな。」


 意表をつくようにジョルジョルの口から出てくる言葉。


 俺もレイさんも思わず聞き入ってしまった。


「……急に何を言っているんだ?」


「小僧、その女の血は赤いだろう? 魔族も人間も血は赤いんだ。」


「だから何を……。」


「聞け、お前はパベルを仲間にしたと聞く。だからお前に話しているんだ。」


「……。」


「ガキの頃、俺は遊び相手が欲しくて人間の子供に話しかけた。その輪に入りたかっただけだった。だが、そんな俺に人間は石つぶてを投げてきた。奴らにとって魔族の俺は敵だったらしい。」


「胸くそ悪い話だ?」


「……去年、俺のお袋が死んだよ。原因は過労だ。魔族のお袋を低賃金で雇った人間の商人が死ぬまでお袋を……。」


「だから、……復讐のために人間を殺すのか?」


「俺は怒りの矛先が欲しいんだ!! お前は俺を受け止めてくれるか?」


 『受け止めてくれるか?』か、もはや『受け入れてくれるか?』ではないと言う事か。


 パベルと言いこいつと言い、知ってしまうと戦いづらくなる奴ばかりだな。


 俺は魔王を倒すための踏み台としてこいつに挑んだ。


 にも関わらず、こいつは……。


「汐くん、今は戦いなさい!! カンナたちだって危ないんだから!!」


「っ!! そうだ、俺は負けられないんだ!!」


「……一階層にいるチンチクリン共の事か? あいつらなら待機させていたモンスターの軍勢に飲み込まれている事だろう。」


 挑発。


 ジョルジョルの態度は間違いなく挑発だ。


 だが、だからと言って何もしなくて良いはずがない!!


 俺とレイさんは同時に走り出していた。


 槍による連続攻撃を繰り出す俺に対して、その周囲を残像すら残す事なく斬撃を置き土産に動き回るレイさん。


 俺たちの攻撃がザクザクとジョルジョルに斬りつけるも、鎧を着込んでいるこいつがダメージを負っているかが分からない。


 俺たちは決め手を欠いているんだ。


 だが、その理由すら分からない!!


 ん? 一瞬だけ風が舞ったような……、ジョルジョルの周囲に風が集まっている?


「汐くん!! こいつ、風の魔法を自分にぶつけているみたい!! だから瞬発力はあっても細かい動きは苦手なのよ!!」


「風の魔法を自分に!? そんな事をしたら自分がダメージを喰らうんじゃないんですか!?」


「……おそらく、こいつのスキルやステータスそれに装備は防御力に特化しているの!!先ずはこいつの鎧を破壊するわよ!!」


「……ペチャバイのくせに頭は回るようだな。」


「人の遺伝をバカにするなああああああああああああああ!!」


 ふぁ!? レイさんがブチギレた!?


 だが折角こいつの弱点を教えてもらったのだから。


 であれば俺もそこを突くとしよう!!


「『ユーロステップ』に『調理』!! お前を食材にしてやるぞ!!」


 俺はバスケット選手の動きを模倣してジョルジョルの懐で斬撃を開始した。


 至近距離でこいつを相手取るために、俺は槍から短刀に武器を持ち替えて斬撃を繰り出す。


 だか、ここで俺は予想外の反撃を喰らうことになる。


 ジョルジョルが俺の腕を掴んできた!!


「っ!! ダンスでも誘ってるつもりか!?」


「小僧、……俺と遊んでくれよ?」


 俺の動きが止まる。


 そして目の前には剣を振り上げるジョルジョル。


 俺たちの動きが止まった。


 ……レイさんを除いて。


「私のことを忘れるんじゃないわよ!! 『フレイムソード』!!」


 レイさんは業火を纏わせて剣を振り上げてる。


 業火はその剣すらも燃やし尽くす勢いで火柱を立てる。


 これがレイさんの奥の手か!!


「その程度の炎など俺の鎧には効かんさ……。」


「鎧にはね!! 『ここ』なら効くはずよ!!」


 レイさんの剣が見る見るうちに短くなっていく。


 一見して状況が悪化しているようにも見えるが、違う。


 そうか、これが『術(すべ)』か!!


 俺を囮にしてレイさんはジョルジョルの思考の死角に入ったんだ!!


 剣が短くなったことでレイさんの剣速が跳ね上がっている。


 先ほどは鎧を破壊すると嘯いておきながら、まさか鎧の隙間を狙うとは思わなかった。


 そして彼女の剣はジョルジョルのフルプレートで唯一の隙間である目の部分を目掛けて走っていった!!


「うぎゃあああああ!! 鎧の隙間を……!!」


「まだまだよ!! 火竜の炎をプレゼントしてあげるわ!!」


「うがあああああああ!! 体が燃える、……熱い!!」


 見る見るうちに燃え上がるフルプレートの内部、ジョルジョルはその熱量に悲鳴をあげて苦しみ出す。


 そして、こいつは鎧を剥ぎ取って抵抗する姿勢を見せていた。


「やべえ……。レイさんを怒らせるとこうなるんだ?」


「そうよ? 私との約束を破ったら汐くんも……ね?」


 ね? じゃないから!! 


 笑えねえよ!!


「とにかく俺も炎を追加します!! 『ファイヤーバレット』!!」


「そうね!! ここで黙って敵の消火を見過ごしてあげる義理はないんだから!! 『ファイヤーブレス』!!」


 俺たちは炎で悶え苦しむジョルジョルに向かって更なる炎を加える。


 ……こいつは嫌な奴ではないはず。


 にも関わらず俺はこいつに苦しみを与え続けねばならない、ただ『受け止めてほしい』と願ったこいつに向かって俺は!!


 そして俺は焦っている。


 ……俺はジョルジョルに対して攻勢に出ているにも関わらず。


 先ほどから俺は『魔族との契約』を試し続けていた。


 だが、どう言うわけか発動してくれない。


 それどころかガイアとの契約、『女神の契約』も発動しないんだ!!


 別れ際のパベルトの会話……。


 俺は離れていても裏書きスキルを発動させる事ができる、これは間違いない。


 なのに、どうして発動しないんだ?


 パベルたちの身に何かが起こったのだろう……。


「汐くん!! 手を緩めたらダメよ!!」


「っ!! 分かってます!! うおおおおおおおお!!」


 ジョルジョルに全魔力を尽くしてトドメを刺そうと試みる俺たちだった。


 俺たちはジョルジョルを舐めていない、何しろ魔王軍の幹部なのだから。


 だが俺たちは想定できていなかったのだ。


 忘れていたのだろう、この陸魔将は俺たちに対して放った最初の攻撃を。


 何の前触れもない出来事だった。


 俺とレイさんの周囲に突如として爆風が巻き起こったのだ。


「きゃあああああああ!!」


「レイさん!?」


 一瞬のできこと過ぎて細身のレイさんはその場に踏みとどまるための力すら足に伝える事ができなかった。


 彼女は後方へ吹き飛ばされ、その場で崩れ落ちていった。

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