第30話・ドラゴンスレイヤーはチョロかった

「はい、汐くん!! これはお姉さんからの奢りよ!! 高級な茶葉が手に入ったから煎れてみたの!!」


「ありがとうございます。……お、レイさんみたいに包容力のある香りですね?」


「もおおおおおお!! 汐くんってば私を誉め殺しにする気かしら!?」


 エディベアの街に到着するなり衝撃的な出会いとなったレイさん、その彼女によってギルドの応接室に通された俺たち四人。


 高圧的な態度を見せた彼女だったが、思った以上にチョロかった。


 悪い人ではなさそう、と言うのが俺の印象だ。


 その証拠にカンナもかなり懐いている様子を見せているわけで。


「レイさんが汐さんの胸ぐらを掴んだときは驚いちゃいました……、もう。」


「ごめんなさいね。これでも私はここの責任者だし、雷太の件が絡むとね。」


「汐さんはお父さんと同郷で知り合いなんですよ? 友達だったらしいんです。」


 優しそうな表情を浮かべながらカンナを撫でるレイ。


 うん、やはり悪い人ではない。


 だが、それと同時に『ドラゴンスレイヤー』と言うものの恐ろしさも俺は思い知らさる事になろうとは。


 カンナが俺の素性を話した途端にレイさんが纏っている空気が激変したのだ。


 ……この人にとって『雷太とおっぱい』はそう言う存在か。


「雷太の同郷ね。……詳しく教えてもらえるのかしら?」


「あいつとは親友、それだけ。」


「汐くんは随分とあっさりしているのね?」


「別に多くを語ることが証拠にはならないから。聞いただけでは嘘かどうかなんて判断できないでしょう? それよりもレイさんにとってはカンナに何があったかの方が重要でしょうに。」


 鋭い目つきで俺を射抜くレイさん。


 確かに威圧感はある。


 それに一瞬で俺との距離を詰めた、あの身のこなし。


 そしてカンナに向けていた優しい目。


 親友を引きずるよりも仲間を思いやる人物である、俺にはその事実だけで充分なのだから。


「はあああ……。あいつとはまるで正反対ね? お人好しの雷太の親友が汐くんみたいなシビアさを持っているだなんて。」


「あいつとは生活環境が近かったから腹を割って話せたんですよ。妹の風香ちゃんとかにも色々と世話になったし。」


「風香ちゃんの事も知ってるのね? ……もう良いわ。私もそれだけ分かれば充分よ。」


「念のために聞きますけど、風香ちゃんも?」


「彼女は王都で生活しているから機会があったら会ってあげて頂戴?」


 ヤレヤレ、とでも言いたげなジェスチャーをするレイさんだが、どうやら本当に信じて貰えたらしい。


 彼女の真剣な目つきを見て俺は確信した。


 だが先ほどの目つきが怖かったのだろうか?


 ガイアが俺の服を掴んで離さないのだ。


 服が伸びるから止めてくれません?


「汐おおおおおおお、本当に、このペチャ姉さんと共闘するのかしら?」


 あ。レイさんの頭部から血管がブチ切れる音が聞こえた。


 と言うか『ペチャ姉さん』って何!?


「ガイアちゃん!! レイさんは私よりも胸が小さいけど、すごく器の大きなお姉さんなんだからね!!」


 ふぁ? レイさんがソファーに座りながら首を垂れてしまったではないか……。


 この人も業を背負って生きてるんだな。


 雷太の苦労が良く分かると言うものだ。


 ……それにしてもガイアとカンナの天然&純情コンビは無自覚に一人の女性を壊していくな。


 二人とも末恐ろしいわ!!


「レイさん、俺たちは魔王を倒そうと思ってるんだ。」


 お? レイさんが復活した。


「汐くん、それは雷太の復讐かしら?」


「俺と仲間のプライドのため。雷太はそう言うことを求めないでしょう?」


 俺の言葉を一言一句漏らさないように静かに耳を傾けるレイさんを見て思う。


 この人も俺と同じ意見なのだろうな。


「つまり私怨ね? 動機は違っても方向性は一緒じゃないの。それは分かってるのかしら?」


「仲間の命と天秤にかけるまでもない事は分かるよ? 深追いをするつもりはない。そのためにも強くなりたいし、強い仲間が欲しいんだ。」


 レイさんは紅茶の入ったカップに口をつけながら目を閉じている。


 こうやって悩む人は二種類の人種しかいない。


 一つは頭ごなしにダメ、としか言わない人種。


 もう一つの人種は……。


「良いわ、協力してあげる。ただし条件があります。」


 許容するも条件を突きつける人種だ、レイさんは後者の人種だったようだな。 


 俺は安堵しつつも、レイさんの条件に耳を傾ける姿勢を見せる。


「どんな条件ですか?」


「……この中の誰一人として死んではダメ。守れる?」


「俺は仲間のためだって言ったはずですよ?」


 レイさんは呆れた表情になりながらも目だけは優しかった。


 俺の親友が仲間になった理由が良く分かると言うものだ。


「くうううううっ……、流石はドラゴンスレイヤーの姐さんだ!! 女の色気が渋いねえ!!」


「パベル? どうしちゃったのさ?」


「汐、俺はこの姐さんに惚れたぜ!! 女が女の器に惚れて何が悪いってんだ!! お前も俺の兄貴ならそれくらいは分かれよ!!」


 お、おお!? パベルの反応が怖いんですけど?


 うーん、不良少女がモデル事務所の社長に惚れて弟子になるようなものか?


 パベルって義理や人情を重視するタイプだからな。


 レイさんみたいな人はドストライクなんだろうな……。


「あなた、汐くんの妹さんなの? 魔族のようだけど……、どう言う事かしら?」


「俺はパベル、人間と魔族のハーフだ!! 汐とは異母兄妹って奴だ!!」


「……中々良い目をしているわね? パベルさん、気が合いそうじゃない。」


「姐さん、俺たちの仲間になってくれよ!! 頼む、この通りだ!!」


 うわあ、パベルがレイさんに土下座をしちゃったよ。


 『ペチャパイ族』同士で強い絆が生まれてしまったのかな?


 まあ、本人たちに言ったら俺が殺されるから、絶対に口にしないけどね。


「汐、ペチャパイ族同士で友情が完成しちゃったわよ?」


 ガイアが言っちゃった!?


 お前は空気を読めよ!!


「ガイアちゃん、レイさんは高速の剣捌きが有名なんだよ? だから余計な脂肪があると動きが鈍るから良いんだってば!!」


 カンナ!? お前もか!!


 やばい、俺も顔の筋肉を維持できなくなってきたぞ?


 って!! ほらあ、パベルなんて土下座しながら固まってしまったじゃないか!!


 ……良く見るとパベルは泣いてませんか?


「私だって、私だって大きい方がモテるって分かってるんだからね!!」


「おわあ!! レイさん、俺に抱きつかないで!!」


「汐くんもこんなペチャパイ女じゃダメかしら!?」


 確定だよ!! この人もダメ人間だ!!


「い、いや。レイさんの綺麗な顔が急に接近してきたから焦っちゃいまして……。」


「汐くんだけよおおおおおおおお!! 私のことを受け入れてくれたのは!!」


「へ? ……こんな綺麗な女性を受け入れないだなんて、男どもは見る目がないですね? ……ははは。」


 受け入れてないし!! お願いだから俺の服で鼻をかまないで!!


「今日は寝かさないからねええええええええええ!!」


 街に到着したばかりだから疲れているんだよ!! 寝かせてくれ!!


「汐って守備範囲が広いわよね?」


 ガイアも憐れんだ目で俺を見るんじゃない!!


 結局はいつも通りかよ!!


 これから陸魔将を相手取ろうと言うのに、こんな事で大丈夫なのかよおおおおお!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る