第29話・ドラゴンスレイヤー・レイ

「レイさん!!」


「ん? え、ちょっと!! どうしてあなたがここにいるのよ!?」


 カンナが一人の女性に笑顔で走り寄っていく。


 俺たち四人は、なんとかエディベアのギルドに到着することができた。


 そして、そのギルドの建屋に入るなりカンナが急に走り出したかと思えば、その先には綺麗な女性が立っていた。


 30代前半だろうか? ポニーテールがよく似合うスレンダーな美女だと思う。


 あの人が雷太の仲間でドラゴンスレイヤーだと言う人物か。


 俺は『洞察力』を使ってあの人を観察する。


 ……隙がないな。


 走り寄るカンナに驚きつつも温和な表情を崩さないレイと呼ばれる女性に俺は肩を撫で下ろした。


「おい、汐。あの女、強いぞ?」


「そうだね。……でも、何か嫌な予感がするんだよね。」


 お? カンナが俺に向かって指を刺している。


 あのレイと言う人に俺の事を紹介してくれているのだろうか?


 ん? あれれ?


 あの人ってもしかして怒ってるのか?


「あんたも雷太と同じ『おっぱい星人』なのかしら?」


 ひょえ!? 動きが見えなかった!!


 この人って俺から10m以上も離れていたはずだけど!?


 何がどうなったら一瞬で距離を詰めて、俺の胸ぐらを掴む事になるんだよ!!


「はあ!? ……初対面に人間の胸ぐらを掴むのが、あんたの挨拶ってことですか?」


「……じゃあ、あんたが背負ってる女の子は何よ?」


 やべえよ!! 


 何? この人の目の据わり方が尋常じゃないですけど!!


 ……ああ。そう言う事ね。


 この人も胸にコンプレックスがあるんだ……、アホくさ。


「俺の仲間に難癖つけるなよ。……カンナの知り合いだって言うから来たけど、無駄足だったかな?」


「お、おい! 汐、相手はドラゴンスレイヤーだぞ!?」


「汐おおおおおおお!! ……大丈夫なの?」


 思いもよらない初対面の人物から受けた高圧的な歓迎に対して、同様の姿勢を見せる俺ではあるが決して喧嘩を売ろうと思っているわけではない。


 だが、そんな俺の対応に危機感を感じたのか隣で慌てだすパベル。そして彼女の背で縮こまるガイア。


 カンナも遠くから動揺した様子を見せている。


 大丈夫、俺はこの手の女に慣れているのだから。


 ……俺にその耐性を植え付けたのは君たちだからね?


「へえ、雷太の知り合いだって聞いたけど? あいつよりは度胸が据わっているのね。」


「まずは自己紹介でしょ? 俺は丸木 汐。お姉さんは?」


 おお、……想定通りに目を引き攣らせながら、俺の胸ぐらから手を離さないな?


 そろそろ調整を始めた方が良いかな?


「……レイ・ユニンよ。このギルドの経理責任者をしているわ。」


「その若さでギルド全体の経理を取り仕切っているんですか? お姉さんって20代半ばでしょう?」


「えっ、私ってそんなに若く見えちゃうの!?」


 ……やっぱりな。


「若くてこんな綺麗な人に胸ぐらを掴まれたら、俺も緊張しちゃいますよ。そろそろ離してくれません?」


「えっ。ああ、そうね!! カンナと久しぶりに会ったから私も興奮しちゃったのかしらああああ!! 奥の応接室で今後のことも含めて、ゆっくりと話しましょう!!」


「お姉さんの名前って綺麗な響きですよね?」


「いやっだあ!! 汐くんてば、こんなおばさんを相手に何を言うかと思えば!!」


「レイさんってモデル級のスタイルしてますよね?」


「ダメ、ダメよ!! 君みたいな若い男の子が私なんかにお熱になったらダメだからね!!」 


 ……これぞジェットコースター作戦だ。


 あの手のコンプレックスを抱えている人間には、怒りの感情を別の方向に仕向けてから消火した方が効率が良いのだ。


 俺はガイア、カンナそしてパベルと言う深い業を背負った仲間と接することで体得してきた。


 まあ、肝心の仲間には通じないけどね?


 時すでに遅し、と言う奴だ。


「汐、お前も恐ろしい男に育ったね? 流石は俺の兄貴だよ……。」


「私おお、私も思わず冷や汗が出たわ……。カンナも口から煙を出して気絶しちゃったし。」


 カンナには悪い事をしてしまった様だな。


 だけど今後の事を考えると生半可なゴマスリでは生きていけないと思うのだ。


「あのレイって人。そこそこ偉い人だとは踏んでいたけど、経理責任者だったのか。……これで当分の間は飯代が浮きそうだな。」


 俺は悪い笑顔を必死に抑え込みながらレイの後について行くのだった。


「パベル、……汐はケチなのよ。」


「……ガイアのお嬢ちゃん。俺の兄貴はヒモの才能まであったらしい。妹として逞しい反面、末恐ろしいぜ……。」

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