第三章之一・三魔将編【陸魔将】
第28話・ベースとオプション
「はあはあはあ……はあ!! まさか汐の追いつかれるとはな!!」
「こっちも必死だったからパベルを追い越した事に気付けなかったな。」
「ガイアちゃん!! 手を見せて、回復魔法をかけるから!!」
「っ!! 必死でしがみ付いてたから、今になって痛みを思い出してきたわ……。」
俺たちは魔王の襲撃から撤退すべく全力でエディベアに続く街道を走り抜いた。
まさか二日目に徒歩で一週間はかかるエディヘアへの道のりの半分を走破するとは思ってもいなかった。
……魔王、あいつは強すぎる。
考えてもどうにもならない現状
現状がダメと言うのなら、未来でどうにかすれば良い。
俺の思考は至って単純な帰結を生んでいた。
どうやらパベルも俺と同意見のようだ。
彼女が俺にいつもの不敵な笑みを浮かべているじゃないか。
「汐、俺も魔王の強さは初めて知ったよ。だから三魔将を叩けば、どうにかなると言う」考えは改めるよ。」
「あれはマズいね? カンナの話だと魔王が『素の状態』でも準備をしてやっと倒せるレベルだ。あれは側近を叩けば良いってレベルではないよ。」
「ああ、だから視点を変えよう。」
「……それは三魔将を踏み台にするって事?」
パベルが首を縦に振っている。
これは真っ当な意見だ。
弱い以上は強くならないといけない、と言うのは当然の話である。
特にパベルのような性格であれば尚更の帰結だろう。
だが俺にはもう一つだけ思い付いた考えがあるのだが。
「パベル、俺は仲間を探してみようと思う。今回エディベアに行く目的も陸魔将を撃つことが目的だったんだから、ついでにね。」
「……あっちで魔王軍と戦う意思のある奴らを勧誘しようってかい? 悪くないが、信用できるのかい?」
「信用に足る奴らと仲間になるんだ。」
俺の言葉に思慮を深めるパベルだが、俺の意見自体に批判的ではないようだ。
寧ろ、真向きな姿勢を見せてくれている。
彼女が口にした懸念は俺も不安に感じていたものだったから。
俺とパベルは対立しているわけではない。
パベルの意見はベースであり、俺の意見はオプション。
俺たちの共通認識のはずだ。
すると魔王への対策で悩む俺たちにカンナが反応を示した。
「汐さん、仲間になってくれる人に心当たりがあります!! しかも、その人は『ドラゴンスレイヤー』なんです!!」
ドラゴンスレイヤーね……。
カンナは興奮しながら俺に話しかけてくるが、俺にはその単語に実感を持てずにいた。
マザードラゴン、あのドラゴンと同等以上の力を持った人間がいる。
そう言うことだろうか?
「カンナのお嬢ちゃん、そいつはどんな奴だい?」
「私のお父さんの仲間だった人です。怒ると怖いけど、優しい人です。私がエディベアに向かうのもその人に会うためなんです!」
カンナのお父さん、つまりは雷太の仲間だった人か。
この子は『雷太の仲間』』だから安心だろ、言いたいのだろうが。
だが、それは『俺が』仲間になる理由にはならない。
それでも……。
「会ってみよう。先ずはそれからだ。会わない事には何も始まらないから。」
「汐は……本当にブレないね? お前、相手がドラゴンスレイヤーだったら普通は土下座してでも仲間になってもらうところだぞ!?」
「戦力の話だったら充分だけど、そうじゃないだろ? カンナ、とにかく今はガイアの治療に専念してくれ。まずはそれからだ。パベルも言ったじゃないか。」
「ごめんね? 私のために時間を使わせちゃって……。」
ガイアが俯いている。
だが、そうじゃないだろ?
君は俺たちを助けようとしたのだから。
俺は君にそんな表情でいて欲しい訳がない。
彼女は自分を傷付けてでも仲間を助けようとしてくれたのだから。
「バカな事を言ってないで怪我を治してくれ。ガイアのおかげで俺たちは生きてるんだから。」
「俺も死ぬかと思ったね? ガイアのお嬢ちゃんのとっておきには驚いちまったよ!!」
「パベル、それは『混乱した』の間違いだろう?」
「汐おおおおおお!! 褒めておいて、それは無いんじゃないのおおおおおおお!?」
既に見飽きているはずだったガイアの半べそに俺たち三人は大声で笑ってしまった。
思いもよらない魔王の襲撃。
俺たちパーティーは死ぬ思いをしながらも、最終的には笑っている。
俺のこの世界でなすべき目標が定まった、それは『魔王の討伐』。
そのためには今すべき事をしよう。
俺たちは雷太の仲間に会うために、エディベアへ向かう事になるのだった。
=副首都・エディベア=
トリーの街からエディベアへの旅路は徒歩の場合、一週間はかかるはずだった。
にも関わらず俺たち四人はトリーを経ってから、その道のりを四日で走破してしまったのだ。
当然ではあるが、それに対する対価も発生するわけで。
「キツいなあ……。流石に駄々っ子女神を三日間も背負うのはキツいよ、カンナの方が良かった。」
「汐、……俺に期待するなよ? ガイアのお嬢ちゃんが装着している『自前のエアバック』は俺の心をズタズタにするんだからね。」
「……年齢を考えたらカンナの方がマズイんじゃないの? パベルの場合は。」
「ぐうっ!! ……そこでド正論を吐くんじゃないよ。確かに、この子も良いものを持っているんだけどね?」
パベルも等々『おっぱい談義』に巻き込まれてしまったからな。
この三人は何かと闇を抱えていると思うよ。
……特に、この駄々っ子女神はね?
「カンナ、私たちはこれからどうすれば良いのかしら?」
「うんとね、先ずはこの街の国立ギルドへ向かわないと。そこにお父さんの知り合いがいるから。」
この二人は本当に元気だと思うよ。
……俺とパベルなんて二人を背負っていたから足腰がボロボロだと言うのに。
俺とパベルの視線が重なる。
何度目だろうか、俺とパベルが同意見だったのは。
「お嬢ちゃん方、ちょっと待ちな!! 少しは休憩をさせてくれよ……。」
「パベルさん? すいませんでした、私ってば興奮していたみたいです。」
「カンナはお父さんの知り合いと会えるのが楽しみなんだろ?仕方が無いんじゃないか。 どこかの駄々っ子と違って……。」
そう、俺とパベルが目を離している間にもガイアは既にトラブルを起こしてしまっていた。
……今回の場合は彼女が起こした事になるのかな?
「おい、汐。この街の連中も女神像の胸をバストアップさせているぞ?」
パベルも顔を引き攣らせながら語っているが、この光景、これってトリーの街でも見た光景だな。
「ガイア。あれってどう言う事かな?」
「私がバストアップしたから銅像を作り直しているのよ!! 私が近くにいるから人間たちが信仰を感じて勝手に動いているのね!!」
魔王と戦った時はとても頼もしかったガイアだったが、やはり彼女は混乱を撒き散らすらしい。
そもそも君の銅像に手を加えている人たちの目つきと手つきがおかしくありません!?
そこ! そこのおっさんは広間っから白昼堂々と女神像の胸を揉むんじゃねえ!!
これはあかん光景だな。
……カンナにはとても見せられないよね?
「カンナー? とりあえず目を瞑ってギルドに行こうか。」
「汐さん、目を瞑ったら歩けませんよ?」
カンナの言う事は正しい。
間違っていない。
だが、世の中には見てはならないものもあるのだ、特にカンナのような純粋な子にはね?
「パベル、行くよ?」
「……悪い、汐。俺も目を瞑っているから歩く方向を指示してくれよ?」
パベルが弱々しい様子を見せながら俺の肩に手を置いている。
そして俺はカンナの目を手で覆う。
トドメと言わんばかりにガイアがパベルの背中にしがみ付く始末だ。
周囲の目が哀れみに満ちているじゃないか!
俺はこの街の現状に一抹の不安を覚えながら、この街のギルドへ向かって行くのだった。
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