第26話・対魔王②
「がっ!! ……いつの間に!!」
「腹を貫かれても意識があるか、……やはり血は争えんな。」
「……普段の俺だったら距離を取っていたはずだ。俺は無駄が嫌いなんだよ。」
「何を言っている? 息子よ。」
魔王が俺を息子と呼ぶ。
これほどまでに腹立たしいことはない、俺の仲間を悲しませておいて、仲間の父親を殺しておいて!!
俺は魔王に刺されて初めて気が付いた。
どうやら俺のバフは既に効果が切れていたらしい。
「俺を息子呼ばわりするな!! ……『魔族との契約』、『全ステータス向上』。これでも喰らえ!!」
「悪手だな……。地面に挨拶でもして来い。」
俺は判断を誤ってしまった。
魔王は俺の至近距離にいるにも関わらず槍での攻撃を選択してしまったのだ。
間合いの読み違いが一瞬の遅れとなると、それを利用した魔王はいつの間にか俺の後ろに移動していた。
そして俺の背中に激痛が走る、魔王は槍の柄で俺を打ち付けていた。
すると俺は背中を打ちつられる衝撃に逆らう事ができず、魔王の言うように地面に向かって一直線に落下していった。
「汐!! くそ、お嬢ちゃん!!」
「私は大丈夫ですからパベルさんは汐さんを!!」
下からパベルとカンナが慌てた様子を見せる。
もしかして俺を助けるつもりなのか?
いくらパベルでも上空20mから落下する大の男を生身で受け止めなどど、骨折してもおかしくないと言うのに。
どうして彼女はあそこまで必死に俺を助けようとするんだ?
「汐おおおおおお!! ネバネバするが勘弁してくれよ、『グランドナックル』!!」
パベルは俺に許しを乞いながら地面に向かって拳を突き刺した。
すると彼女のスキル『グランドナックル』によってまるで隕石でも落下したかのような穴が地面に形成される。
あの穴は俺が落下するポイントだろう。
パベルは俺にそこに落下しろ、と言っているのか?
……ああ、なるほど。
その穴は粘液を溜め込むための空間だったのか。
俺はパベルの手によって生まれた粘液の池に飛び込まざるを得なかった。
そして彼女自身も池に飛び込んでくる。
俺を助けるために。
そして俺はパベルに担がれながら粘液から顔を出す。
「ん……はあはあ、はあ!! パベル、助かったよ。……はあはあ。」
「お前が先に言ったんだろうが!! 俺たちは仲間だって!!」
「はあ……。ごめん、忘れてた。」
「汐、しっかりしてくれよ?」
俺に呆れた顔を向けるパベルだが、俺には彼女がどこか嬉しそうにも見える。
やはりパベルも良い奴だった。
だが、そんな感情さえもゆっくりと堪能させてくれないらしい。
いつの間にか魔王が俺れたちの前に立っているのだから。
魔王が俺たちに向けるし目つきは相変わらずだった。
何よりも、こいつの口調には感情が込められていないように感じる。
……俺は魔王が苦手だ。
「兄妹揃ってこの場で命を落とすか?」
「さっきからなんだって言うんだ!! 俺がお前の息子とか、ふざけるのも良い加減にしろ!!」
「丸木 汐。お前は『隔世遺伝』による魔族の子孫のはずだ。それを忘れたのか?」
『隔世遺伝』、俺は忘れていた。
俺がこの世界に叩き込まれた理由は確かにそれだ。
だがガイアも俺が誰の子孫なのか口にしなかった。
何よりも俺がそれに興味を持たなかったから。
……俺の両親は日本にいるあの二人。
俺にはそれが全てだ。
「汐!? ……それは本当なのかい!?」
「……魔王の息子かどうかは知らないけど、俺は魔族の子孫だと言うのは本当らしい。」
「っ!! 俺と汐が兄妹!? 嘘だろ……。」
パベルが魔王の言葉に取り乱している。
彼女の心情は理解できる。
俺だって混乱しているのだから。
……これは駄々っ子女神の混乱効果を上回っている。
突きつけられた衝撃の事実に俺もパベルも言葉を失うしかない。
それほどの事だった。
あれだけ嫌悪した魔王の言葉を信じるパベルを見ると俺も事実として受け入れざるを得ない。
————俺とパベルが兄妹。
この言葉に何を思ったか、俺たち二人は互いを見る事なく行動を起こしていた。
気が付くと俺たちは同時に魔王との距離を詰めていた。
俺とパベルは魔王を挟む形で攻撃を仕掛ける。
互いに徒手空拳技。
パベルは得意の流れるような動きから両の拳で魔王の顔に強打をいれる。
一方の俺は体を回転させながら上下に蹴りを打ち分ける。
……それでも魔王は微動だにしない。
俺たちは焦っていた、それは魔王に傷の一つも与えられていないから。
俺とパベルのスタミナは減り、増加するものは俺たちの苛立ちのみ。
だが数分にも渡る俺たちの攻勢は思いもよらない人物の介入によって幕を下ろすことになる。
「汐に……汐にちょっかいを出すんじゃないわよ!!」
ガイアが魔王の側面から魔法を打ち込んでいでいた!!
「ガイア!? 起きたのか!!」
「ガイアのお嬢ちゃん!! 汐、俺たちも巻き込まれちまうぞ!!」
予想外の出来事だった。
まさかガイアが魔王に攻撃を加えるとは。
だが、よく周囲を見渡すと既に朝日が登っていることに気付く。
体感的には9時くらいか? ……ガイアの奴、寝坊しやがったな?
「ガイア!! 今日は8時には出発するって言ったよな!!」
「うきいいいいいいいいいい!! 分かってるわよ、どうせ今日も私の朝食は小盛りなんでしょ!!」
「そんな訳ないだろう!! 今日は大盛りだあ!!」
「うおっしゃあああああああああああ!! やる気出たああああああああああ!!」
お前のやる気は食欲に比例するのかよ!!
ほら見ろ、君の欲望に呆れたパベルが顔を引き攣らせているじゃないか!!
だが、これは好機だ。
何しろ魔王がようやくその顔を歪ませているのだから。
だが魔王は本当に苦しそうだな?
急にどうしたのだろうか、……ヤバい。
俺が思い付くことは一つしかないんですけど……。
「おい、汐。もしかして……ガイアのお嬢ちゃんは魔王に錯乱と混乱を植え付けたんじゃないのかい?」
「……パベルもそう思う? しかも俺たちも混乱してるみたいだし、ガイアは本当に大物だよ。」
「つう……。攻撃を止めたと同時に疲労を実感するとは。どうやら俺も興奮していたらしいね。」
「俺が『魔族との契約』を使ったからだろうね、……悪い。」
「良いってことよ!! 『兄貴』の役に立ったのなら救いがあるってものさ!!」
俺に笑顔とサムズアップを向けてくる『年上の妹』。
兄貴ね、日本にいる弟妹にだって言われた事がなかった。
少しだけむず痒い気持ちにさせてくれる不思議な言葉だと思う。
だが、俺が幸福感を覚えようとも目の前で繰り広げられる光景は変わらない。
ガイアは頑張ってくれている。
だが彼女は頑張るほどに彼女自身を傷付けていく事もまた事実。
俺たちは現状を打開する方法を探さなくてはならない。
俺とパベルは頭を抱えるも具体的な解決策を打ち出す事ができない。
過ぎるは時間のみ。
焦る俺たちだったが、どうやら学習できていなかったらしい。
俺たちはガイアと同様に仲間の存在を忘れていたのだから。
いつの間にかカンナが息を上げながら俺たちに走り寄って来ていた。
そしてこの子の口から思いもよらない事実をする事になるのだった。
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