第27話・対魔王③
「汐さん!! 聞いて下さい、はあはあ……っはあ!!」
「カンナ!? 君は隠れていないとダメだ!!」
「さっき魔王のステータスを『真実の目』で確認したんです!! スキルまでは見れなかったんですけど!!」
「……汐、この子の話を聞いてやりなよ。」
「パベル? ……分かった。カンナ。君の見たことを教えてくれる?」
「はい!! 汐さんと魔王の各ステータスの差は約4000、これは今の状態では埋められません。……ガイアちゃんと合流して逃げましょう!!」
「「4000!?」」
俺とパベルは思わず顔を見合わせてしまった、……それはカンナの情報が俺たちにとって絶望を意味するから。
そして俺が選択を誤ったことを意味する。
俺の裏書きスキル『女神との契約』と『魔族との契約』を足してようやく魔王とのステータスと並ぶことができる。
だがパベルは見ての通り……。これ以上は無理をさせられない。
してもらったとしてもガイアが単騎で魔王と渡り合ってくれているわけで。
今の彼女から力を吸い取るわけにはいかない。
だが……。
「パベル、『魔族との契約』はもう一回可能かな?」
「聞かないと分からないのかい? 俺は耐えてみせる、お前のためだったらな!!」
「俺から聞いたことだけど、あまり無茶はするなよ?」
「何を言ってるんだ、……俺はお袋が死んでからずっと一人だったんだ。家族ができて嬉しいのさ。」
目の前でパベルが不敵な笑みを浮かべている。
彼女は俺の家族。否定されたくない。
だが、それ以上に死なせたくない。それはカンナもガイアも同じことだ。
であれば俺のとる選択肢は戦うことだけじゃない!!
「今は撤退だ!! 命がなければ……明日はないから!!」
「了解だ。だけど現実問題として『どうやって逃げるか』だな。ガイアのお嬢ちゃんとは距離があるから合流するのだって一苦労だぞ?」
パベルの言う通りだと俺も思う。
俺たちはマイホームから離れ過ぎている。
そして、そこから魔法を放ち続けるガイアとその彼女と対峙する魔王。
あの二人に割って入る方法、……一つしかないか。
「パベル、カンナを担いで逃げれるか? それともう一度だけ確認だ、『魔族の契約』を使わせて貰うからな?」
「俺の体力を心配してるのかい? それくらいなら問題ないね!!」
「汐さん、どうするんですか!?」
「俺の魔法でこの一帯を土煙で覆うんだ!! その隙に俺がガイアをあそこから引っ張り出してくる!!」
「……そうなると合流地点を決めておく必要があるね。」
「よし、この先にあるオアシスで合流だ!! パベルはカンナを連れて先に行ってくれ!」
「はいよ!! 『素早さ向上』。行くぞ、お嬢ちゃん!!」
パベルは自身のバフを纏わせてからカンナを担ぎ上げる。
そして文句を言わずにパベルに担がれるカンナ。
最悪の状況にも関わらず俺は笑ってしまった。
これはカンナの称号『猫耳』のせいだろうか?
この子自身に癒しの効果があると言うのだから、なんとも皮肉なものだ。
……そう言うのって普通は女神の役目だろうに。
だが、そんな事を考えている場合ではなかった。
どうやらガイアの方にも動きがあったらしい。
「うぎいいいいいいい!! ……『聖なる加護』、『瞑想』、『剣の加護』。」
「天界の神が……。お前らがいなければ我が子らは離れていくことはなかったのだ。」
「そんなわけないでしょうが!! 汐を困らせるんじゃないわよ!!」
ガイアがバフ効果を齎すスキルを使っている? それ自体はおかしい事ではない。
問題は『剣の加護』を使用した事だ。
ガイアは剣を所持していない、にも関わらずどうして、そのスキルを使ったのだろうか?
この疑問は俺たちが駄々っ子女神の底力を見誤っていたからこそのものだった。
俺たちは目の前で起こった光景によって彼女の評価を改めざるを得なくなった。
「防御力1の女神らしからぬ者よ。……いい加減にして目障りだ。『ファイヤーバレット』。」
「あんたがそれを言うな!! 私の事を馬鹿にして良いのは汐だけよ!! 『ダイヤモンドスピア』と『ストーンバレット』!! 剣になれええええええええ!!」
ガイアの放った土属性の魔法が剣の形状になっていく。
ダイヤモンドが刀剣に、石が柄に。
それらが巨大な剣となってガイアの手のひらの上で浮いている。
そしてガイアは大声で俺の名前を叫びながら『ダイヤモンドの剣』を魔王に向かって投げ付けたのだった!!
「汐おおおおおおおおお!! 準備してなさいよねええええええええ!!」
ガイアが投げ付けた巨大な剣は魔王の放った魔法をかき消しながら飛翔し続ける。
すると、この状況になって初めて魔王が焦りを見せた。
「うおおおおおおおお!! 天界が魔王の俺に邪魔立てをするのか!!」
「パベル、行け!! 『魔族の契約』に『全ステータス向上』!! ガイア、当たるなよ!!」
「汐!! ドンと来なさい!!」
「『ウィンドスラッシュ』と『ファイヤーボール』!! 魔王!!」
先ほどの魔王との対峙で俺が見せた土煙を起こすべく、俺は魔王に向かって魔法を放った。
そして俺の合図と共にパベルはこの場から走っていく。
俺の走る方向とは真逆だ。
それは俺がガイアに向かって走っているからだ。
ガイアを担ぐのは俺の役目。
ステータスを考慮すると、走行距離が長くなるガイアの担ぎ手は必然的に俺が背負い手になる事となる。
だが今はそれだけではない。
……ガイアを背負って良いのは俺だけだ!!
ステータスの向上効果によって、一瞬でガイアの元に辿り着いた俺は彼女に言葉をかける事なく行動した。
軽いな、……身長が180cm以上の俺からするとガイアは小柄だから。
いくら女神とは言え、こんな小柄な少女があの魔王と渡り合っていたのか?
俺が申し訳なさから表情を歪ませると、それを察したのか。
ガイアが俺の背中で小さく呟いてくる。
「分かってるから、……ごめんね。私も知らなかったの。」
「俺の父親が魔王だって事か?」
ガイアは言葉を返してこない。
だが今は沈黙すら惜しい時なのだから。
俺は有無を言わさずガイアを背負いあげてパベルに追いつくべく、土煙が立ち籠る中を全力で疾走した。
「汐、追撃は来ないわ!!」
「……まだ油断はできないから。振り落とされるなよ?」
「うん……。」
ガイアは俺の言う通りに力強く背中にしがみ付いてきた。
魔王の襲撃、この世界に来てから最大のイレギュラーだった。
何よりも俺とパベルが兄妹で、魔王が俺の父親という事実。
ダメだな、今はその事は深く考えるべきではない。
仲間との合流、俺が優先すべきことはそれだ。
魔法の行使でその手に再び火傷を負ってしまったガイアだが、それでも彼女はその手で俺の背中にしがみ付いてくる。
この感触で俺は確信した。
ガイアは俺のLady Luck(幸運の女神)だ。
俺は愛されてるんだ。
◆◆今回の戦果◆◆
パーティー全員が逃亡した
汐のレベルが上がった:LV.37→LV.51
女神ガイアのウェストサイズが上がった:56→57
獣人カンナのレベルが上がった:LV.10→LV.15
魔族パベルはレベルが上がった:LV.34⇒41
汐は新しいスキルと魔法を覚えた
女神ガイアは新しいスキルを覚えた
獣人カンナは新しいスキルを覚えた
獣人カンナは新しい称号を取得した
魔族パベルは新しいスキルを覚えた
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