第23話・夜襲
「おい、汐。 おいってば!!」
「ん? ……パベル? もう朝になったのか?」
俺はエディベアに向かう道中、スキルで作成したマイホームで就寝したはずだ。
だが誰かに体を揺さられる感覚を覚えて目を開けると、目の前には慌てた様子のパベルがいた。
どうやら俺の体を揺すっていた犯人は彼女らしい。
窓に視線を送るも、外はまだ夜が明けていない事が確認できる。
……何かあったのか?
「……外にアンデットの大群がいるんだ。」
「え!? アンデットのしかも大群ってどう言う事だよ!!」
「原因はなんとも……、だけどアンデットをの大群を動かせるとなると魔王軍が絡んでいるはずだ。」
「……アンデットは魔王軍のどこに所属してる?」
「……陸魔将のお抱えだ。」
俺は起き上がって窓から外を覗き込む、確かにそこにはパベルの言う通りの光景が広がっていた。
……あれはミイラか?
ミイラの大群は視認できたが、俺はその光景に違和感を感じた。
「50体はいるな。……だけど、あれだけの大群でがいるのに、どうしてマイホームを包囲しないんだ? パベルはどう思う?」
「前にも言ったが陸魔将・ジョルジョルは魔王からの信用が薄い。与えられている部下も少ないからあれだけの大群を動かすのも一苦労のはずだ。」
「……だったら尚の事だ。陸魔将は苦労して動かした部下を有効活用できないバカなのか?」
俺の言葉に首を横に振るパベルを見て俺は悩んでしまった。
現状とパベルの反応を考慮すると思いつく推測は一つ。
この状況に意味がある、と言う事になる。
「ジョルジョルの旦那が俺たちを舐めている、と考えるべきなのか? いや、……それはないな。」
俺と同様に現状の違和感に悩むパベル。
だが答えは出てこない。
推測も立たない。
であれば考える時間が無駄、と言う事になる。
……だからとって無策で戦闘を始める訳にもいかないわけだが。
「とにかくあのミイラたちを殲滅しよう。……ガイアとカンナは?」
「ぐっすりと寝ているよ、……と言いたいところだがカンナのお嬢ちゃんが起きちまったよ。あの子がこの異変に気付いたんだからね。」
カンナは索敵スキルがあるから、異変に気付いても不思議ではない。
だが、これだけのミイラの大群を相手にするのであれば、寝ていてくれた方が良かったのだが。
カンナはパベルの背中に隠れていたらしい。
俺の声に反応したのか、申し訳なさそうに顔を出している。
「汐さん、ミイラは目視できるあの大群だけで総勢50体。間違い無いです。」
この子は俺とパベルの会話を聞いていたのだろう。
俺の目算に狂いがないと言っている。
本当にできた子だ。
……あっちで腹を出しながら寝ている駄々っ子女神とは大違いだよ。
「今日の夕飯は大盛りよおおおおおおお……。」
……寝言まで色気が無いとは……、やはりガイアはヒロイン枠失格だな。
「汐、俺たちの火炎魔法で焼き払っちまおうぜ!! 二人でやれば一瞬のはずだ!!」
「……待てって。だったら、どうして陸魔将はここにアンデットの大群をよこしたんだ? 一瞬で終わるなら尚の事だ。……こう言う時は真逆のことを想定するんだよ。」
「真逆? ……汐はミイラたちを動かしているのがジョルジョルの旦那ではない、と言っているのか?」
俺は無言を貫く。
それは俺が陸魔将の性格や思考パターンを知らないからだが。
それでもパベルからある程度の情報は聞いている、この状況は明らかにイレギュラーだ。
つまりパベルの情報だけでは現状を整理できない事になる。
これは陸魔将以外でアンデットを動かせる人物が魔王軍の中にいる、と言う事も考慮すべきだ。
どうやらパベルも俺と同じ考えに至ったらしい。
……最悪だ。
「汐はあのミイラたちを魔王が動かしているって、そう言いたいのか!?」
「可能性の話だよ。……くそ、俺たちの中に浄化魔法を使える奴がいないからな。最悪の場合はミイラを倒すと魔王に俺たちの居場所がバレるじゃないか。」
ガイアの話によるとアンデット系のモンスターは術者が遠方から操っているケースが多いと言う。
それはアンデットは自我を持たないため、操る方が軍勢としては効率が良いらしい。
そして操られているアンデットを浄化魔法以外で倒すと、その状況が術者に伝わると言うのだ。
「汐、まさか朝まで籠城をしようって言うんじゃ無いだろうな!?」
「パベル、……ガイアやカンナがいるんだ。俺は闇雲に動けないと言ってるんだよ。」
俺もパベルも苛立ちを隠せずにいる。
だが、それはお互いの言い分を正しいと思っているからだ。
闇雲に動くわけにはいかない、だか動かないわけにもいかない。
時間の経過とともに俺たちの苛立ちは募り、それとプレッシャーとなって更なる苛立ちを生む。
パベルも限界のようだ、……だが俺にも彼女を制止できない。
それは現状を打開する策が思い付かないから。
苛立った表情のまま立ち上がるパベル、彼女一人だけに負担をかけるわけにはいかないから俺も同様に立ち上がらざるを得ないわけで。
すると、そんな俺たちをオドオドした様子で見ていたカンナが、意を決したように俺たちに向かって口を開くのだった。
「わ、私が浄化スキルを使えます!!」
俺とパベルはカンナの言葉に驚いて、思わず顔を見合わせてしまった。
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