第22話・副首都へ
=トリーの街から続く街道=
俺はトリーの街を離れてエディベアと言う街を目指している。
今はその道中だ。今日は日差しが強く、思わず空を見上げては太陽の眩しさに表情を歪ませてしまう。
マザードラゴンの一件から俺は『ある事』を決断できずにいる。
それは魔王を討伐するか否か、と言う事。
それでもパベルの言葉通りに陸魔将を標的としているのはパベルのためだ。
彼女は魔王を裏切ったから、『噂だけ』を鵜呑みにすれば魔王はパベルの命を狙ってくるはず。
座して待っていると付け込まれるから、ある程度の行動はすべきだと思った。
そして、ここに来てカンナまでもが魔王に因縁があると言う。
俺が悩むには充分な理由である。
「汐? どうしたの?」
頭を抱えながら歩く俺に心配そうな声色で話かける少女がいる。
ガイアが俺の様子を気になったのか、声をかけてきた。
……そうか、そうだよな。
彼女も俺が魔王と戦う理由になるのか。
出会い頭は最悪で、俺も怒りに任せて対応してしまったが、ガイアもすでに俺の仲間だ。
……さて、どうしたものか。
「なんでもない。トリーの街に設置されているガイアの銅像の変化にドン引きしているんだよ。」
「ああ……、あれか? あれには俺もドン引きしてるよ。あの信者どもは、どう言う経緯で女神像の胸を大きくするのかね?」
そう、ガイアを御身体とする宗教の信者たちが何を思ったのか、ガイアの銅像をバストアップさせていたのだ。
パベルの言う経緯、あれはおそらくガイアのバストサイズがアップしたことが原因なんだろうが。
あれには俺もドン引きしてしまった。
君はバストサイズをアップさせる余力があるのだったら、防御力を上げてくれないかな?
「汐さん、エディベアは徒歩だと一週間はかかりますけど大丈夫ですか? ガイアちゃんを背負いながらだと汐さんがツラいと思うんですけど。」
「カンナ、察してよ。俺たちは金がないんだ。」
「ああ、そうなるわな? 何しろガイアのお嬢ちゃんが毎日しこたまビールを飲んでるからね。」
パベルの言葉に負い目を感じてるのだろうな。
そして彼女は確信犯だ。
何しろなんの前触れもなく俺の背中に彼女の豊満な胸を押し付けてくるのだから。
むうう、さすがは巨乳女神の称号持ちだ。……誘惑されそうだよ!
「ガイア、2000歳の胸は逆効果だからね。って! 人の背中で暴れるなっての!!」
「汐おおおおおお!! 私がパベルに足らないものをパーティーに補填するから、見捨てないでええええええええ!!」
うぜえ、そしてしがみつくな!!
見ろ! 君の不用意な発言にパベルも表情を強張らせているんだよ!!
「……お嬢ちゃん、俺に足りないものってなんだい?」
「おっぱいよおおおおおおおおおお!! 知ってるんだからね、パベルが密かに胸パッドを入れてるって!!」
「うぐう!! こいつは……流石の俺も立ち直れるか自信がないぜ……。」
パベル、君は胸パッドなんて入れていてたの!?
そしてパッドを入れても……まな板なのか。
この事実には俺も涙ぜずにはいられないじゃないか……。
そうか、パベルも気にしていたのか。
これからは彼女にも気を遣ってあげようかな?
「パベル、エディベアに着いたら何か美味しいものでも食べようじゃないか……。」
「お、おい! 汐も急にどうしたんだい!? 頼むから俺に憐れみの視線を向けないでくれよ!!」
「……パベルも良い事があるから。頑張れ。」
「汐!? どうしてそこで『頑張れ』って言葉が出て来るんだよ!! 納得いかねええええええええ!!」
普段の彼女からは想像がつかないほどに盛大に喚き散らすパベルはさて置き、俺たちはエディベアに向かって歩き続けるしかなかった。
目指すはここサウザンディ王国の副首都・エディベア。
因みにカンナがトリーの街を目指した理由は、副首都へ向かうためだったらしい。
「私のGカップは『元気のG』なんだからね!!」
「いよおおおおおおし!! お嬢ちゃんの喧嘩口上は確かに受け取ったぜ!!」
「パベルさん!! 因みに私はBカップです!!」
ガイアが『おっぱい戦争』の宣戦布告をすると、即座に応戦の姿勢を見せるパベルだったが、そこにカンナが奇襲をかけてきた。
あれえ!?
パベルが真っ白になってしまっているよ!!
どうやら身体的特徴で11歳に負けたとあってはパベルも大人としての沽券に関わるらしい……、彼女は意識を失った状態で歩いているじゃないか!!
パベルがゼンマイ仕掛けおもちゃに成り下がろうとは。
本当にこのパーティーは業を背負い過ぎなんだよ!!
=トリーの街から続く街道(夜)=
「なんとか初日のノルマは達成できた……。ああ、疲れたからスキルの『顔面マッサージ』でもしておこうかな?」
俺たちはエディベアへ続く街道の脇で野営をしていた。
野営とは言うが俺のスキル『DIY』でマイホーム作成している。
そして、この中で寝泊まりする以上は普段の生活と質はなんら遜色ないわけだが。
にも関わらず俺は頭を抱えていた。何故かって?
俺の仲間たちが喧嘩をしているからですよ……、頼むからパベルまで参戦しないで欲しいのだけど。
「おうおうおう!! お嬢ちゃん方は俺の涙ぐましい筋トレの日々を侮辱しようってのかい!?」
「パベルさんの努力は素晴らしいです!! でも……その結果がAと言うのは。」
「パベルも苦しんでるのね……。エディベアに着いたら牛乳を奢ってあげるわ。」
「うぐうっ、……ガイアのお嬢ちゃんは本気の目をしてるね? まさか俺が本気で憐れまれるとは……。」
「へ? だって本気で苦しんでいる人には手を差し伸べてあげないとダメじゃない?」
「パベルさん。筋トレを続けると牛乳も逆効果になっちゃいますよ? ガイアちゃん、牛乳以外に何か良い方法ないかな?」
ほお……。
何度も見てきた光景だがガイアとパベルは本当に話が噛み合わないな。
まさか、あのパベルが両肘両膝を突いて落ち込んでしまうとは……。
大丈夫か?
ガイアの天然にプライドを傷付けられて憤怒するパベル。
そして、そのパベルの憤怒に気付く事なく天然で彼女を撃沈させるガイア。
さらには撃沈したばかりのパベルに向かってトドメを刺すカンナか……。
こうまで大人は子供の純粋さに傷付けられるものなのか?
「ほいっと。今日の夕飯が完成したからテーブルを片付けてくれる?」
「はーい。汐さん、今日の夕飯はなんでしょうねえ。」
「ああ!! 汐ってば、またカンナを大盛りにしてる!! パベルも大盛りじゃない!!」
「カンナは育ち盛りなんだから当然でしょう? それに今日の食材はパベルが狩ってくれたウサギなんだから、それも当然だろ。……パベル、牛乳いる?」
「汐……、お前さんまで俺にトドメを刺すのかい? 夕飯を作って貰っておきながら文句を言うのは心苦しいんだよ!!」
おお!!
パベルがここまでダメージを負っているとは、……勿論だけど心のダメージね?
「パベル、ウサギの肉にはタンパク質が含まれているから筋肉が付いちゃうわ!! だから私のお皿と交換しましょう!!」
……普段からオカズを大盛りにしてあげた事がないからか、日に日にガイアの食欲が育っていく気がするのだけど。
君って本当に駄々っ子女神なんだね?
おかげでパベルがさらに混乱していくのだけど。
「だったらガイアのお嬢ちゃんだって胸が育たないはずだろうが!! くそお、みんなで俺の遺伝をバカしやがって!!」
パベルがここまで取り乱すとは思いもしなかった……。
君のお母さんもペチャパイなのね。
得た情報に一切の価値を感じないのだけど、これは彼女に言うと更に傷付きそうだから言わないでおこう。
「でもパベルって魔族でしょ? 『隔世遺伝』とかあるんじゃないの?」
ガイアにとっては何気ない一言だったのだろう。
だが俺には聞き逃せない単語を耳にしてしまった。
すると俺の手は自然と固まる。
……どうやらガイアも俺の変化に気付いたらしいな。
彼女は俺に気まずそうな態度をとっているが、俺は吹っ切れているのだから。
これだけはガイアに伝えた方が良いだろうな。
「ガイア、俺は大丈夫だから。それよりも教えてよ、『隔世遺伝』って日常生活の中で突然目覚めるものなのかな?」
「え、ああ。……そうね、突然目覚めるものなの。でも、『いつ目覚めるか』だけは分からないのよね。」
「汐? お前さんは人間なのに魔族に興味があるのかい?」
パベルがいつの間にか復活していた。
そして俺を真面目な目で見てくる。
そう言えばパベルとカンナには俺の正体を言っていなかったな。
俺が『魔族の子孫』であると言った方が良いのだろうか?
だが俺が悩む素振りを見せていると、ふとガイアと視線が重なる。
……今は言うな、と言いたのだろうか?
彼女は小さく首を横に振っているじゃないか。
彼女の意思に俺は首を縦に振って承諾の意を伝える。
「まあ、話の流れでね? それにしてもパベルがパッドで盛っていただなんて気が付かなかったよ。」
「私にはスキル『真実の目』があるからスリーサイズだってお見通しなのよ!!」
あ、パベルが気絶してる。
まさか、この野営の中で最も頼りになるだろうパベルが使い物にならなくなるとは思わなかった。
……このタイミングでモンスターにでも襲撃されたら、まともな戦力は俺しかいない事になってしまうじゃないか!!
「おい!! パベル、気絶なんてしてないで戻ってきてくれよ!!」
「汐おおおお……、この時ほどオフクロを恨んだ事はないぜ?」
「パベルさん、お母さんを恨むなんてダメですよ? 家族は仲良くしないと。」
おお……、本当にカンナの純粋さは人にトドメをさせる威力があると思う。
やっとの思いで俺に応答したパベルだったが、一人の少女が口にした戒めによって当分の間は使い物にならなくなるのだった。
今日はパベルにとって厄日だったらしい。
「俺のAカップは『憐れみのA』なんだからな?」
もはや聞くに耐えないから、パベルもそれ以上は自分を責めるんじゃない!!
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