第17話・浮上する疑義

 俺とパベルで対処する、だなどと偉そうな啖呵を切っておきながら結局は頼ってしまうのだから。……だけど、俺だって彼女の事は仲間だと思っているのだから、頼れるものは頼らせてもらうだけだ!!


「ガイア!! 出番だ、役に立ってくれよ!!」

「分かってるんだから!! 『ダイヤモンドスピア』!!」


 この戦闘が開始されてから初めてマザードラゴンの表情が大きく変わった。驚いてるんだろう? お前はガイアと顔見知りみたいだからな、……あいつの防御力が1だって知ってるんだろ?


 ガイアが両手を突き出して、魔法を発動する準備をしている。


「……戦闘中によそ見は駄目だろ? 俺の一撃も貰っといてくれよ!!」

「なっ!! まさかガイアが戦闘に介入するのですか!?」


 隙を見て俺はマザードラゴンの鼻に光のオーラを纏わせた槍で連撃を加えると、彼女は初めて苦痛で表情を歪ませる。そして、追い打ちとしてガイアの魔法までもがマザードラゴンの鼻に突き刺さって行く。無数のダイヤモンドで作られた槍、これにはこのドラゴンも悲鳴を上げざるを得なかった。


「うぎゃあああああ!! っ……、うああああああああ!!」


 マザードラゴンは悲鳴をあげながらその鼻を手で押さえている、今しかない。俺は再びスキルで空中に板を作り出して、パベルの元に跳躍した。俺の考えが正しければ、パベルは戦線に復帰できる。


「汐、悪いね。お前の足を引っ張っちまった……。」

「気にするなよ。それよりも、お前の状態を何とかするから。」

「影が縛られてるんだぞ!?」

「……良いから黙ってなよ。俺のスキルを使うから……、スキル『掃除』。」


 俺は自分のスキルを幾度となく検証している。そして、それらを通じて判明したこと。それは俺のスキルが効果とそれが発揮する範囲を自分で決めつけてはいけない、と言う事だ。


 このスキル『掃除』にしても、『片付けられる対象』は常識の範疇を超えているのだ。このスキルを使って……。


「おいおい!? 俺の影が消えてっちまうぞ!!」

「俺のスキルでパベルの影を掃除したんだよ。これなら二度とマザードラゴンに縛られる心配はないはずだ。ついでに俺のも掃除しとくか。」

「……汐、お前はぶっ飛んだ奴だね?」

「パベル、今はそんなことを言っている場合じゃない。……あのままだとマザードラゴンの敵意がガイアとカンナに向いてしまうから。」


 先ほどからガイアはマザードラゴンに向かって魔法攻撃を絶え間なく繰り返している。そして彼女の魔法を被弾する度にマザードラゴンは悲鳴をあげつつも、表情が強張って行く。


……ガイアが攻撃の手を緩めたら、ガイアだけでは無くカンナまで影を縛られることになることは目に見えているからだ。やはりガイアもカンナを戦闘に巻き込みたくないらしいな。


「ぐうう!! 頭の出来は悪いくせに、これだけの威力の魔法を放つとは!! ガイアァァァァァ、……このマザードラゴンをも混乱させるとは!!」


 ……あの駄々っ子女神がマザードラゴンを混乱させているのか? 敵味方問わず手あたり次第を混乱させるところがガイアの評価を下げるんだよな……。


「うっさいわね!! こっちだって女神を名乗ってるんだから、これくらいはさせてもらうわよ!!」

「ガイアちゃん!! 女神さまを名乗るだなんて罰当たりだよ!!」


 カンナは純粋な子だね。……ガイアを冷静に観察すると、いや、冷静じゃなくても女神とは思えないからな。だけど、これだけの事をしているのに信じて貰えないガイアも凄いな。ある意味で大物だよ。


「汐、俺はもう動けるよ。回復魔法も十分だ。」


 マザードラゴンの意識がガイアに向いている隙に、俺は回復魔法でパベルを治療することができた。これで俺たちがマザードラゴンを相手取る最低限の準備が整ったことになる、……と思った。


 だが、ふと俺が何気ない気持ちでカンナへ視線を向けると、あの子は俺を心配そうに見つめている。……何だ?


 この戦闘を介して分かったことは三つ。


 一つはマザードラゴンの強さと能力の厄介さ。接近戦を挑めば麻痺攻撃のカウンター、足を止めれば影を縛られて身動きが取れなくなる。厄介極まりない能力だ。その上、彼女自体の攻撃力も高い為、どちらにしろ攻めあぐねてしまう。


 二つ目はガイアの攻撃力がマザードラゴンに通用すると言う事。現状を鑑みると、ガイアは接近さえしていなければあのドラゴンを相手取ることができる。……味方にも混乱をまき散らしながらではあるが。使えるのか、それとも使えないのか判断に困ってしまうな。


 三つめはカンナだ。あの子はマザードラゴンについて詳し過ぎる。……これは俺たちにとってアドバンテージではある。それは間違いない。何よりカンナ自身は俺たちへ的確な助言を送ってくれるのだから。


「パベル、標的は変わったけど俺は当初の作戦通りに裏書スキルでステータスを向上させる。悪いけど君はマザードラゴンの隙を作ってくれないかな?」

「ああ!! 任せとなきな、影が消えたから縛られることも無いからね。……そう言えば、消えた影はどうなるんだい?」

「後で教えるよ。死にはしないさ。」


 俺の言葉にパベルは複雑な表情になる。分からなくはない、自分の影が消えているのだから。だけど今はそんな事を議論している場合ではない。それはパベルだって分かっているはずだ。


「おいおい……、ガイアのお嬢ちゃんは魔法を発動するのにさえダメージを負うのかよ。」

「……だから急がないといけないんだ。パベルには迷惑をかけるよ。」

「ふーん、頭はアレだけど良い子じゃないか? 汐も大変だね。なんて言ってる暇はないな、お嬢ちゃんの手が火傷だらけじゃないか、……頑張り過ぎだろ。」


 パベルはガイアを良く見ていると思う。……いや、仲間全員を見ているのだろうな。頼もしい奴、俺はパベルを見て改めて思った。この魔族に向ける俺の信頼が揺るぎないものへと変わる瞬間だった。


 そして、もう一人。巨大なマザードラゴンに向かって土属性の攻撃魔法を放ち続けるガイア。その防御力の低さから、魔法を放っている手が見る見る火傷を負っていく。何だかんだ言いながらも彼女も必死なのだろう。


 ……二人の仲間に暖かさを感じている俺だが、もう一人の仲間がこれから発する言葉で現状の厳しさを改めて思い知らされるとは思いもしなかったのだった。

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