第11話・属性
「俺の足に何かが付着している!? これは……、粘液?」
「ははは!! 俺の得意スキルさ、俺のフルネームはパベル・ベトベト!! 名前も、性格も、スキルだってネチネチしてるのさ!!」
「カッコイイ決め台詞だな……。こんな竹を割ったような奴のどこがネチネチしてるんだよ!! うんがあああああああ!! 身動きが取れないじゃないか!!」
「お前さん最高だよ、お前さんと接していると魔王軍だってことを忘れられる。一人の魔族として生きている実感がするんだ!」
俺は魔族の子孫だとガイアは言う。だが俺はその『魔族』を知らない。魔族と言うのはパベルの言うように魔王軍に属していないと生きることすら難しいの存在なのか?
「魔族ってなんだ? ……うんんんんんんん!!」
「……魔族は闇属性に特化した種族さ。人間には決して受け入れられない存在、……だから魔王も魔族の権利を勝ち取るために立ち上がった。やり過ぎてる感じはするけどね。」
「うんぐうううううう!! ……魔族のパベルには良い事づくめじゃないか。どうして魔王から離れようとするんだよ?」
「俺はね、人間と魔族のハーフなのさ。本来はどっちにも付けない、どっちにも尽くしたくない。だからと言って俺自身は魔王の器でもないし、何より一人で生きれるほど強くもないから主人が欲しいんだよ!!」
「へえ……、要は寂しいんだ? それで俺はそのお眼鏡に叶ったのかな?」
「人格はね。あとは実力を示してくれれば。ふう……、話し込みすぎたね。そろそろ行くよ!!」
パベルは全速力で俺に突っ込んで来る。その拳に禍々しい黒いオーラを纏わせながら。聞くまでも無いだろう、彼女はあのオーラで俺を攻撃する気なのだ。……あのオーラは攻撃力を底上げしている。先程の彼女の攻撃、『バーニングラッシュ』もそうだがパベルは属性を付加させて自身の攻撃力を底上げしている。
それは俺が密かにスキルの『洞察力』を使って確信を得ていたことだ。
このままでは駄目だ。俺は負けるかもしれない、自然と弱音を吐きそうになる。
「くそ!! スキル『DIY』、木材で壁を作れ!!」
「今さら木材が何だってんだい!! どれだけ分厚くたって足止めにしかならないよ!!」
パベルはその言葉の通り、俺がスキルで作り上げた壁を次々にぶち破ってくる。これも彼女の属性による攻撃力の現状か。
俺には属性がない。それはガイアから聞いたこと。ガイアは土、カンナにも風の属性が備わってる。個々が生まれながらに属性を備えている。そして、それらは戦いにおいては戦闘力の土台となる。
俺は無属性。つまり戦闘の土台が無いのだ。純粋なステータスだけで言えば俺の方がパベルの上を行くはず。だが彼女の闇属性はその差をひっくり返してくる、もはや戦闘経験の差など関係ない状況になってしまった。
俺は仲間を守れないのか? ガイアにカンナ、俺の仲間だ。例え生まれ育った世界から追放されてこの世界に押し込まれようと、大事なことを隠されていようと関係ない。二人は俺の仲間だ!!
……守れなかった日本にいる『あいつ』のためにも、俺は!!
もはや気持ちだけが先行していた俺だった。スキルで作った壁もパベルの言う通り足止めにしかならない。ただ現状を長引かせるだけで、決定的な解決にはならない。
俺は目を閉じる。その行為に意味はない。ただの諦めではないか? そう考えた俺だったが、目を閉じたことで聴覚がクリアになる、その時だった。
ガイアとカンナの声が鮮明に聞こえてきた。
「汐お!! 付箋は読んだんでしょ!? 汐ならそんな奴に絶対負けないんだから!!」
「ガイアちゃん、まだ傷は完全の塞がってないんだよ!! 無理したら駄目だってば!!」
あのロリっ子女神は無茶してるのか?
それはどうして?
俺が不甲斐ないからか?
だったら俺はどうすれば良い? ……そんな事は決まってるだろう!!
「うおおおおおおお!! パベル、俺の方から行くぞ!!」
「おお!? それがお前さんの……、こいつは!!」
俺は短刀から持ち替えた槍を握りしめて構えを取る。ガイアから貰った武器を元に作り直した槍から、俺の手にオーラが流れ込んでいる。それは感覚だ。だが、その感覚は俺にとって現状を打開するものとなる。俺は確信している。
俺は絶対に負けない!!
ガイアから貰った剣に柄に貼られていた付箋、そこに書かれてたこと。それは俺の弱点である無属性の状態を考慮したものだった。あの剣は、剣自体が属性を付加されているのだ。
そして、肝心の剣に付加された属性は……。
「俺の属性は……光だあああああああ!!」
「勇者の全力を受け止めてみせる!! 俺はパベル、その拳に全てを込めるのが俺のやり方だ!!」
パベルによると魔族は闇属性に特化した種族だと言う。にも関わらず俺の属性は光、これは皮肉なのだろうか?
俺の全身から白いオーラが放出している。これは俺にとって予想外の出来事、何しろ俺の意思とは無関係に起こっている現象なのだから。この白いオーラはパベルの粘液を徐々に溶かしてくれるらしい。
パベルの粘液から解放された俺は自由の身となって、勢いをそのままにパベルに全速力で走りだしていた。
俺とパベルの全力が衝突した。それは衝撃を生み、大きな音を発する。光と闇の反発が嵐にも似た現象を生み出す。嵐は当事者である俺とパベルを弾き飛ばそうとするが、当然の事だが、俺たちはそれを拒絶する。
「うおおおおおおおお!! パベル、お前を倒す!!」
「俺は何も背負ってないが、それは負ける理由にはならない!!」
「パベル、……ステータスに関しては俺の方が上なんだ。だったら……、この状況になってしまえば俺の方が有利なんだよ!!」
「うわ……ああ、ああああああああああ!!」
パベルは悲鳴を上げながら後方へと、吹っ飛ばされていく。俺の攻撃がパベルを吹っ飛ばしたのだ。俺たちの衝突は、先ほどまで互角だった俺たちの勝負は大きな差を付けて終了することになった。
パベルは大きく吹っ飛ばされたことで、後方の木に彼女の背中を打ち付ける事になった。どうやら気を失ったのらしい、彼女の体が打ち付けられた木からズルズルと地面に落ちてくる。
「俺は勝ったよな? 勝ったんだよな?」
パベルは強敵だった。それ故に油断は許されない。俺は目の前の光景に自問自答を繰り返す。それでも確信が持てない。
俺は何のために戦っていたのだろうか? パベルは自分の人生を賭けて、自分の人生に後悔を残さないために、俺に戦いを挑んできた。俺は不意にこのパベルとの戦いに対してすら、自問自答をし始める。
すると誰かの声が聞こえてきた、パベルのものではない声。誰だ? 聞くまでもないだろう。
「汐が勝ったよおおおおおおお!! 汐が負けるわけないんだから!!」
「だから無理しちゃ駄目だよ!! ガイアちゃんってば!!」
俺はこの二人を傷付けられたことに怒った。俺はガイアから視線をパベルに戻す、そして俺はこの二人を守ることができた。今はそれだけで充分だろう。
「はあ……、勝つには勝った。だけどクエストどころじゃ無くなったな。こいつの処分はどうすれば良いんだ?」
俺は気を失った状態のパベルを見ながら、安堵の気持ちが生まれたことで自分たちの置かれた状況を整理する余裕が生まれた。すると俺は最も大事なことを忘れていたことに気付く。……どうやら俺も必死だったらしい。
「カンナ、ガイアの傷は大丈夫か?」
「はい!! 時間はかかりますけど、私の回復魔法でも全開にできる傷です!!」
「汐が私の心配をしてくてるよおおおおおおお!! 崖っぷちでも女神やってて良かったああああああああ。」
ガイアが大泣きしながらカンナの治療を受けている。俺はそんなロリっ子女神が深刻な状態ではない、と確認できた。……俺は深い息を吐きながら頭を掻いている。
そして、そんなガイアに対して俺は一言だけ感想を口にするのだった。
「自分で崖っぷち女神とか言うなよな……。」
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