第4話・冒険者ギルド
俺はカンナと隣り合って歩いている。暖かな日差しが差し込む陽気の中で。引っ込み思案なこの子だが、それでも良い子だった。
俺はこの子に深く追求できていないが、どうやら訳ありらしい。そんな俺の態度を察してかカンナもまた申し訳なさそうな様子を見せる。
そんな二人が隣り合う道中、事の経緯は至って単純。それはカンナの目的地が、昨日ガイアの言っていた『トリー』の街だったからだ。俺は目標も目的も持っていない。だから、まずは大きな街に行って仕事を見つけようと思っていた。
そしてカンナの話によると、俺のような人間は大きな街で冒険者になった方が良いと言う。戸籍もない、身元の保証人もいない。そう言う人間は真っ当な職にはつけないらしい。……冒険者になってしまうと、俺はいよいよ魔王と戦う羽目になりそうだが。
「汐さん、ガイアさんを起こさずに置いてきて良かったんですか?」
「彼女はアンデットだから、日光が苦手なんだよ。」
「ああ、そう言う事ですね!! さすがは汐さん!!」
俺に向かって無垢な笑顔向けているカンナ。その笑顔もこの子が大きなフードを深めにかぶっているから、しっかりと見れない。それでもカンナの声は弾んでいる。初めて出会った時とは打って変わっている。俺は安堵して、自然と表情が綻んでしまう。
そんな幸せのひと時すら、あの崖っぷち女神は堪能させてくれないとは……。
「汐おおおおおおおおおおお!! 待ちなさあああああああああああああああ!!」
ちっ……。追いついて来たか。
「ええ!? ガイアさんが昼間に活動してる!?」
「ああ……。彼女も努力したんだね、まさかアンデットがこの陽気で全力疾走してるなんて。」
「聞こえてるんだからね!! 汐おおおおおおおお……、私を見捨てないでええええええええええ!!」
女神が本気で泣いている。……あの崖っぷち女神め。君の行動全てが子供の教育に悪いんだよ。
「あ!! ガイアさんが転んだ!!」
「おお、これはまた盛大に転んだね?」
「ぎゃああああああああ!! 痛い、痛い痛い痛い!! 防御力が1だから痛いよおおおおおおおお!!」
あの紙装甲が……。お前はHPが999だろうが。女神だと言うのならもう少しだけ頑張れよ。
「カンナ、君は見ちゃいけないよ? あれは駄目な大人だから。」
「あ、はい。分かりました。……あと一時間も歩けばトリーの街に着きますけど、汐さんは着いたら何をしますか?」
「そうだね。まずは冒険者になるために、登録を済ませたいな。」
「じゃあ、ギルドへ向かいましょうか。」
俺とカンナはトリーの街に着いてから、何をするか。これからの予定を語り合い、花を咲かせながらトリーの街へとまっすぐ進むのだった。
「汐おおおおおおおお!!」
俺たち二人の後方から、他力本願の声が聞こえてくる。だが、ガイアが本当に女神なのであれば、寧ろ逆だろうに。君が人々の願いを叶える側であると、早く思い出して欲しいのだが。……おそらくは自覚がないんだろうな。
どう言う流れになると、お色気担当がボケを兼任するんだよ。
=トリーの街・冒険者ギルド=
俺たち三人はこの街の大きな通りに面した建物の前に建っている。
両手で扉を開けると大きな広間が広がる、建屋はレンガ造りで漂う香りは荒くれ者たちのそれ。消しておしゃれとは言い難いものの、配色が統一された内部には違和感を感じないシックさがある。そして、すれ違いざまに威圧の視線を向ける者たち。……これが冒険者、そして、ここが冒険者ギルドか。
俺はトリーの街にあるギルドハウスに足を運んでいた。建屋の外観は古びた印象がある。だが、それでも決して安上がりでは無い様相で、手入れも行き届いている様子だ。俺は建屋の内部に足を踏み入れる、すると最初に気付くことは天井の高さ。
「俺が通っていた高校の体育館くらいはあるか?」
俺は過去の思い出を引き合いに、現状の周囲を堪能する。そして視線を下ろすと俺は「ここが俺のスタート地点」、と心の中で決意した。この異世界での俺は一介の学生ですらないのだ。俺を守ってくれるものは何もない、であれば俺自身が守るか、守ってくれる何かを手に入れることが先決。そして、その両方を手に入れることが出来るのが、このギルドハウスだ。
この建屋に入ると最初に目に映るもの、……受付か? 俺は優しそうな笑顔を浮かべながらカウンター台の前で待機する女性を見つけた。その女性に視線を向けると、その人も俺の視線に気付いたらしく、会釈を返してくれる。
まずは、あの人だ。俺はこの建屋で最初に会話すべき人を見定めて歩き出すも、その決意は土台から崩壊していく。それは何故か? 冒険者だ。建屋の中にいた彼らが俺の前に立ち塞がるからだ。
「よお、兄ちゃん。初めて見る顔だな?」
「初めまして。この街に来たばかりで、新参者です。名前は丸木汐、……あなたは?」
この手の荒くれ者たちへの対応は最初が肝心。家が貧乏で、それが原因でイジメを受けた経験がある俺は、それの対応を体で覚えていた。この手の輩には舐められたら終わりなのだ。
「へえ。良い目つきをするじゃないか。一つだけ忠告してやるよ。」
「なんですか?」
筋骨隆々でいかにも屈強な冒険者だろう男はニヤリ、と笑いながら俺に笑いかける。……昼間から酒臭い男だ。この男のせいで俺の隣にいるカンナは怯えた様子で、俺にしがみ付いてくる。ガイアは……、鼻くそを穿っているな?
「ここは冒険者ギルド、荒くれ者が集い場所だ。訳ありなのは分かるが……子連れは止めときな。」
「へ?」
男は俺に一言残すと踵を返して、豪快に笑いながら去っていく。……子連れとは? 俺は右隣にいるカンナに視線を送る。すると、この子は照れながら無垢な笑顔を返してくれる。やはりカンナは良い子だった。……では、左隣のガイアは?
「わ、私が……子供? 女神のこの私が? 人間に子ども扱いされているの?」
目に見えて落ち込むガイアに対して、周囲の冒険者の対応は……大人だった。「はい、飴ちゃんだよ。」、と優しそうな女性冒険者がガイアに飴を渡してくれる。すると当のガイアは崩れ落ちていく。
「年齢詐称じゃないか。……そもそも、精神年齢だけで言ったらカンナの方がガイアより上だし。」
「汐おおおおおおお!! 言って良いことと悪いことの区別も付かないの!?」
「気弱なお姉さんと、騒いで周囲に迷惑を掛ける妹。図式としては完璧だろ?」
「え? ガイアさんて私よりも年下だったんですか?」
「そうなんだ。カンナ、悪いけど俺はこれから冒険者登録を済ませる必要があるんだ。だから、あっちの食堂でお姉さんとしてガイアの面倒を見てくれないかな?」
「汐おお!! あんたはどこまで私をバカにして……!!」
冒険者登録を済ませたい俺、そして腹が減っている俺たち三人。ここは有効的に時間を使っておきたいのだ。であれば、カンナにこの崖っぷち女神の面倒を見て貰った方が良い。
「わ、分かりました!! じゃあ、ガイアちゃん。お姉ちゃんと一緒にあっちの食堂で汐さんを待っていましょう?」
慣れていないのだろう、カンナは震える手をガイアに差し伸べる。だが、それでも振り絞った笑顔をガイアに向ける。……そして、立ち直れないほどに落ち込んでいるガイア。もはや、初対面の凛々しい女神の姿の面影の一片すら感じさせないロリっ子女神は、猿回しの猿の如くその肩を落としながら、無表情のままカンナに手を引かれながら食堂へ向かって行った。
「これはあかん光景だな。」
俺は二人のことが心配になり、早めに食堂へ向かうべくギルドへの冒険者登録を急ぐのだった。
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