第2話・上下関係
土下座をする女神が目の前にいる、しかも人間に対してだ。
女神と言うからには、当然だが美しい少女だ。いや、ババアだったな。
出会った時は俺と同じぐらいか、とも思っすたが、それを基準にしても若く見える。
……ロリっ子と言う奴かな? だからか、泣きべそが良く似合うと言うか……。
「さっきまでの無礼は全て謝罪いたします!! ですからお願いです、……私にお情けを!!」
「へえ……。さっきまで俺のスキルをバカにしてたくせに? 良く言うね。逆に感動しちゃうよ。」
彼女はガイア、大地の女神であり、日本からこの異世界に俺を追放した、言わば諸悪の根源だ。
だが、それでも女神だ。本来であれば人間の俺は彼女を敬わなくてはいけない。それほどの存在だ。
「汐さま!! 先ほどのチューが要因となって……このガイアとあなたさまは、もはや運命共同体!! あなたがノルマを達成しないと、私は天界に……帰れないのです!!」
「だから?」
「どうか、私と一緒にこの世界の魔王を倒して下さい!! 女神が世界の地に足をつけて現地の人間と契約をした以上は、その世界を救済をしないと天界に帰れないんです!! おねばいじばす《お願いします》。」
「でも、それは君をこの家に入れる理由にはならないよね?」
「汐さま、……この世界は夜が一番寒いんです。だから、……私を中に入れてええええええ!!」
俺はこの世界に追放されてから、ガイアにチューをした。
それは自分勝手な理由で俺をこの世界に追放した彼女に腹が立ったからだ。
そして、それは俺が日本に帰りたい理由にも繋がる。俺の家は貧乏なのだ。
両親は共働きで稼ぎはある。
だが、その両親はブラック企業勤めで、人が良いからなんでもすぐに安請け合いをするから。
二人の給料を合わせても低所得になる。
だから俺は下に八人もいる弟妹のために複数のバイトを掛け持ちしていた。
「良いじゃん。どうせ天界では贅沢三昧の生活だったんでしょ? さっきだって俺のスキル『DIY』を鼻で笑ってたよね?」
「汐さまのスキルは世界一、いや! 天界でも右に出るものはいません!!」
しかし、この女神は清々しいまでに綺麗な土下座をするな。
もしかして、慣れてるのか?
女神としてはファーストキスではなく、土下座が処女ではない方が問題だと思うのだが。
そもそも、この土下座劇はいつまで続くのだろうか?
この世界の気候は日本と似ている。そして今の季節は日本で言うところの秋、夜は冷え込んでくる。
だからこそガイアは鼻水と涙を零しながら土下座をしているのだ。
そして俺は日本から追放されたと同時に取得したスキルで、即席のマイホームを作ってヌクヌクとしている。
マイホームとは言っても、森から拝借した木材を材料にしているから、照明や風呂などはないため充実しているとは言い難いが。
それでも隙間が全くないから、中に風が吹き込まないので野宿と比較するまでのないと思う。
この手の女は結果を出すと、すぐに手のひらを返すからな……。
ちょっとだけ遊んでやろうか?
「はあ、分かった。もう良いから入りなよ。」
「えっ、良いんですか!?」
「入らないなら、ドアを閉めるよ? あと10秒、9、8……。」
「入ります、入ります!! 汐さま、愛してるうう!!」
ガイアは調子の良いことを言いながら、勢い良く俺のマイホームに足を踏み入れた。
そして中に入ると、すぐに踵を返しながら不機嫌そうな表情になる。すると俺の予想通り舌打ちをしてきた。……やっぱりな。
「あんたねえ。私は女神なのよ!? 女神を凍死させたら、不敬罪で天界審判にかけちゃんだから!!」
「へえ……、それは怖いね? で、女神さまはお腹空かないの? そんな大声で騒いでたら疲れちゃうでしょうに。」
「ちょっと便利なスキルを所持してるだけで、つけ上がって。何よ、材料に森の木を使ってるだけだからペコペコじゃないの? しかも、一丁前に食事の心配までしちゃって……。」
ガイアは手のひらを返し過ぎだろ。
彼女は露骨に嫌そうな表情でマイホームの壁を手で叩き、そして、その耐久性に文句を言っている。
いくらスキルとは言え、所詮はDIYだから。
耐久性までは考慮されていない。寧ろ雨風を凌げることに感謝をしても良いだろうに。
「君は話を聞いてた? 食事の話をしたはずだけど、バカなの?」
「なんですって!! 誰がバカよ、そんなバカに騙されて家のドアを開けたのはあんたじゃないの!!」
「俺ってさ、『山草鑑定』と『果物鑑定』ってスキルを持ってるんだよ。」
「……はあ? 急に何を言い出すのかと思えば、どっちも使えなさそうなスキルじゃない。そんなスキルでどうやって魔王を倒そうと言うのかしら?」
「魔王の討伐は無理かな?」
「でしょうね!! 本当にゴミスキルよ、あんたとそっくりじゃないの……、はっ!!」
「でもね、さっき森の中で食べたれる植物とか自成している果物を見つけられたんだ。このスキルのおかげで。」
「…………え?」
ガイアの時間が停止した。それも目に見えて分かるほどに。
おお、……彼女は体を硬直させながら、器用に涎を垂らしている。
彼女は本当に女神なのか?
「さっき君が俺のスキルを鑑定したんじゃないか。……うまい。」
俺は森に自生していたリンゴのような果物をサクっ、と言う綺麗な音を奏でながら齧る。
そして、その様子を羨ましそうに見つめるガイア。彼女の時間はいつになったら動き出すのやら。
そして、できればさっき鑑定した俺のスキルについて詳細を説明をして欲しいのだ。
少し考えれば、その説明と引き換えに食事を要求すれば良い、と思い付くだろうに。
ガイアはあまり頭が良くないのかな?
「あ、あのお。汐さま?」
「何? ……うまい。」
「このおバカで愚かな女神の私に、今一度お慈悲を!! チューだったらいくらでも差し上げますので!!」
「ミイラのチューなんて要らないよ。ゴミ箱にポイするだけだから、止めてよね? ……うまい。」
ガイアが悔しそうな表情で涙を流している。
しかも再び土下座を決行しているから、床とチューしてるのだ。
そんな汚い唇は要らないよ。
だけど俺も流石にやり過ぎたかな、とは思う。
はあ、結局は俺もあの両親の子供なのだ、と思い知るわけだ。
結局は困っている人を目の前にすると、切り捨てられない、と言う事になる。
「汐さまあ、……女神のくせに餓死なんてしたら、天界で笑われるんです。」
「はあ、分かったよ。」
「えっ? お慈悲をいただけるんですか!?」
「あげるから、その代わり交換条件ね?」
「…………伽のお相手ですか?」
「違うわ!! はあ、……俺のスキルとステータスを見せてくれれば良いよ。」
お前は娼婦か!! 女神じゃなかったのかよ……。
頼むから、泣きべそを掻きながら言わないでほしい。
しかもガイアは小柄な体で土下座をしているから、上目遣いなんだよ。
……無駄に罪悪感を感じてしまう。
俺はこの世界について何も情報を持ち得ていない。
であれば、女神であるガイアは俺にとって水先案内人であるべきだ。
だが当のガイアは、一目でわかるポンコツだから。俺が言わないとそれすら思い付かないらしい。
天界も人選を誤ったんじゃないのか?
「あ!! そうですね、じゃあ汐さまにも視認できる形でお見せしますね!! えいっ、スキル『真実の目』!!」
スキル:調理(LV.10)、洗濯(LV.10)、掃除(LV.10)、皿洗い(LV.10)
洞察力(LV.10)、使いパシリ(LV.10)、サバイバル技能(LV.10)
山草鑑定(LV.10)、果実鑑定(LV.10)食中毒耐性(LV.10
DIY(LV.10)
魔 法:ファイヤーバレット、ファイヤーボール、ファイヤーウォール
ウィンドスラッシュ、素早さ向上
ウォーターシュート
ステータス:LV.1
HP:300?、MP:150?
攻撃力:175?、防御力:100?、素早さ:75?、精神力:250?
ガイアが両手をマイホームの床に向けて、そこに彼女の目から発した光を当てることで情報を映し出している。
一言で表現するならば、ホームシアターセットだ。
だが、これはとても便利な力だと思う。
ガイアを使って映画館を立ち上げられないかな?
ん? 映し出されている俺のステータスが歪んで見える。これはどう言うことだ?
「し、汐さま。このスキルは私が目を開け続けていないといけないので、ツラいんです。」
「何? じゃあ、画面が歪んでいるのは……。」
「はい。私の涙です。」
「……大体分かったから、もう良いよ。で、俺のスキルって、何を基準にして付与されてるの?」
「汐さまが日本で経験された事を基準にしていると思います。」
「ああ、……じゃあ、バイトと貧乏の知恵袋スキルじゃん。因みに、ガイアのステータスも見せて貰って良い?」
「はいはーい!! えいっ、スキル『真実の目』!!」
スキル:聖なる加護(LV.10)、瞑想:魔法攻撃力+200(LV.10)
自己治癒(LV.10)、剣の加護(LV.10)
裏書きスキル:真実の目(ステータス確認)
魔 法:ダイヤモンドスピア、ストーンバレット、メタルメイル
防御力向上、素早さ向上
称 号:ロリっ子女神(誘惑効果)、巨乳女神(誘惑効果)
LV.30、HP:999、MP:251
攻撃力:999、防御力:1、素早さ:999、精神力:277
「ガイアのスキルって使えねえのばっかじゃん。しかも防御力1って何? 神装甲じゃなくて紙装甲だし。」
「ううう……。何もそこまで言わなくても、私にだって女神のプライドと言うものが。」
「……何か文句あるの?」
「私のスキルは戦闘仕様なんですよ!! だから、いずれは役に立つんです!!」
「ガイアさ、この状況下で戦闘に特化したスキルがどうやって役に立つのさ? 『いずれ』がいつなのかが分からない以上はゴミスキルなんだよね。分かる?」
「………………うう。」
「君は俺がいないと餓死する。これが真実なんだよ? OK?」
「……はい。汐さまに全面的に従います。」
まったく、ガイアはどうにかして自分の価値を上げようとしてくるが、その行為そのものが逆の結果を生むと気付いていない。
これは酷いな。俺が九人兄弟の長男でなければ、例え女神であろうと引っ叩いていたところだ。
俺はガイアの態度に呆れつつも、約束を守るべく彼女に向かって果物を放ると、その果物に餌付けされた動物の如く走り寄る女神っぽい何か。
俺はため息をついてしまった。
「そうか……、女神っぽい何かと言うことにしよう。」
「へ?」
「……何でもないよ。ガイアは食べ盛りなんだから、しっかりお食べ。」
俺が兄弟の末っ子に向けて使う言葉遣いをすると、嬉しそうにその果物を頬張るガイア。
そして異世界で初日をなんとか乗り切った現状。
やはり駄目だ。明日からはこの状況を、もう少し具体的に打開しなくてはいけない。
「ガイアと接していると、近所の野良猫を思い出すな……。」
俺が明日以降からの遠い未来を見据えるべく思案していると、外からこのマイホームを叩く音を耳にした。
そして少し間を空けてから、聞き覚えのない人の声を耳にするのだった。
「ごめんくださーい。」
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