第6話


「お父様って、病気じゃないよなあ」

おそるおそるシーラに尋ねた。

咳きこんでいたのが、なんだか気になってしまったのだ。


「あ、本当にご病気とかじゃないんで、ご安心ください」


けっこう心配していたのだが、シーラはあっけらかんと言った。

「え、そうなん?」

「ええ。でも本当にお疲れがずいぶん溜まられているようで……。そういう意味では心配ではありますけども」


シーラと二人で領内を見て回る。

踏みしめるのは石畳の道だ。

両脇には家や店が並び、牧歌的な景色が連なる。

懐かしい光景に思わず目を細める。

が、なんだか違和感を覚えた。


「なんか、人少なくない?」


アリシアが歩いているのは、街の中心地。

記憶の中では、毎日出店が立ち並び、野菜や色んなものの売り買いが行われていた。当然、買い求める客などで溢れ、もっと人の活気があったはずなのだが……。


「やはり、そう思われますか……」

シーラは顔を伏せた。


「どうも最近、街を荒らす者たちが出回っているようなのです」

「荒らす者?」

「ええ、出店を壊したり、売り物に難癖をつけたり。そうした無法者に困ってしまい、どんどん出店が減っているそうで。私も話に聞いていただけでしたが、ここまでとは思っていませんでした」


減っているどころか閑散としていて、通り過ぎる人もほとんどいない。

これまでに、2・3人すれ違ったが、みんなどこかおどおどとして足早に去っていった。

ゴーストタウン、とは言わないが、ピリリと張りつめた空気が漂っているように感じられたのだ。


「なんなんそれ。そいつら、何の目的でやってるん?」

「ファルニール家への嫌がらせでしょう」

「え、うち?」


「お嬢様、貴族の世界は魑魅魍魎。みな、それぞれの利権を大きくしようと必死なのです。特にこの土地はファルニール様が優しく治めてこられたからこそ、土地も肥沃で活気のある場です。いろんな手を使ってファルニール様を失脚させ、この地を手に入れようと思っている者もおります」

「なんやそれ、ヤクザと同じやないの」

「は、なんですか?」

「ううん、なんでもないねん」


ああー、そういうことか、とアリシアは納得した。

たとえ説明されても、先日まではよく意味がわかっていなかっただろうが、今ならばよくわかる。

要はヤクザのショバ争いだ。

直営の店に嫌がらせをして、上納金を減らしたり、鞍替えさせる。

それによって組の力を落として、最終的に乗っ取るつもりだ。


「どこの世界も一緒なんやなあ」

しみじみ呟くと、シーラが不思議そうに言った。

「よくわかりませんけど、お嬢様は口調が変わって急に大人びましたね。なんだか気味が悪いです」


「ほっといてんか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る